BRICS銀 国際金融再考の契機に

朝日新聞 2014年07月20日

BRICS銀 国際金融再考の契機に

米国など先進国を中心とした国際金融秩序に対する、異議申し立てと言えるだろう。

BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳が、途上国のインフラ整備などに融資する銀行「新開発銀行」の設立を決めた。金融危機の際に外貨を融通するための基金も設立する。

途上国の開発を後押ししてきた世界銀行と、国際的な経済・通貨危機の火消し役である国際通貨基金(IMF)という既存の機関に相当する組織を、BRICS主導で新設するものだ。

新興・途上国の資金需要は旺盛で、現行組織を補完する余地はある。開発資金の融資を通じ、中国などが自らの発展の経験を他の新興・途上国に伝えることにも意義はある。

しかし実現は容易ではない。インフラ整備への融資では、その経済効果、環境に対する悪影響などを事前に評価し、融資後も事業が計画通りに進んでいるかなどを点検しなければならない。どういう人材でどういう組織をつくるのか。十分なノウハウがあるとは言い難い。

そもそも動機が心配だ。新興国や途上国をどう発展させ、世界経済の安定にどう寄与するのかといった価値観を、5カ国は共有しているだろうか。

明確なのは、自分たちの経済発展に応じた影響力を、国際金融の舞台で発揮できないことへのいらだちだ。第2次大戦後に設立されて以来、世銀のトップは米国、IMFのトップは欧州が占めてきた。BRICS5カ国の経済規模の合計は世界の2割を占めるのに、IMFでの投票権は計1割に過ぎない。

IMFは新興国の発言力が増すよう投票権を配分し直す改革案を決めている。しかし影響力の低下を懸念する米国議会の反対で実現していない。

IMFの融資は財政再建などの条件が厳し過ぎる、世銀の融資先は米国の意向に左右されているのではないか、といった不満も新興・途上国にはある。一定の基準は欠かせないが、融資先の理解を得る努力が必要だ。

BRICS5カ国も加わっているG20などでIMF改革などを論議し、協調体制を築くべきだ。そうすれば、新組織ができても、建設的に役割を分担できるだろう。

21世紀になって、グローバリゼーションは深化した。世銀とIMFの設立を決めたブレトンウッズ会議から70年。世界経済を支える仕組みも制度疲労が否めない。それを補正する機会として、BRICSの異議申し立てをとらえるべきだ。

読売新聞 2014年07月22日

BRICS開銀 欧米主導への対抗軸となるか

経済力を増した新興国が、欧米主導の国際金融秩序に対抗姿勢を示したと言えよう。

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5か国(BRICS)首脳会議は、「新開発銀行」を創設することを決定した。

新興国や途上国による社会基盤(インフラ)整備などを支援するのが目的で、5か国が100億ドルずつ出資する。中国の上海に本部を置き、初代総裁はインドの出身者が務めることになった。

新開銀とは別に、金融危機の際に外貨融通などの支援を行えるようにするため、1000億ドルを共同で積み立てる外貨準備基金を設けることでも合意した。

存在感を増す新興国が、途上国支援や国際金融秩序の維持に一定の役割を果たそうとしていることは評価できる。

新開銀設立の背景には、欧米の主導する現在の国際金融秩序に、新興・途上国が強い不満を持っているという事情がある。

国際通貨基金(IMF)や世界銀行は長年、途上国の支援や危機回避に貢献してきた。

しかし、1990年代のアジア通貨危機などの際に緊縮財政など厳しい条件を課したことから、途上国では各国の事情への配慮が足りないとする批判が根強い。

BRICSは経済規模で世界の約2割、人口で約4割を占めるまでに成長したが、IMFでの発言力を示す出資比率は、BRICS全体で11%にとどまる。これにも新興国は反発している。

IMFは比率を14%に引き上げる改革案をまとめたが、米国などの反対で実現していない。

新興国に応分の責任を果たしてもらうためにも、IMF改革を進展させる必要がある。

ただ、新開銀などがIMF体制のような機能を発揮できるかどうかは未知数だ。

設立時期さえ明示されず、金融支援などの具体的な枠組みも、あいまいである。

新開銀が出資国の資源権益や企業利益の拡大ばかり重視し、安易に支援するようでは困る。甘い審査が原因で巨額の投融資が焦げ付き、国際金融システムを混乱させることにもなりかねない。

人権弾圧や乱開発など問題の多い国への援助も避けるべきだ。透明性の高い運営が求められる。

中国とインドが領土問題を抱えるなど、BRICS諸国は一枚岩ではない。金融危機などの緊急事態に、緊密に連携して対処できるかどうかも疑問である。

産経新聞 2014年07月21日

BRICS開銀 勢力拡大の手段とするな

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)首脳が途上国のインフラ整備を支援する新開発銀行の設立を決めた。世界銀行と同様の役割を持つ独自組織である。

世界の国内総生産(GDP)の2割を占めるまで成長したBRICSが急増するインフラ需要を支え、発展に寄与することには意義がある。

米欧主導の国際金融秩序への挑戦とも受け取れるが、経済力が突出する中国主導で恣意(しい)的に融資先が選別されれば新たな覇権主義にもつながりかねない。資金支援の名を借り、新銀行を勢力拡大の道具とすることは許されない。

戦後の世界経済は、世銀と国際通貨基金(IMF)など米欧主導の枠組みで発展した。この体制下では意見が十分に反映されないとの不満が新興国にある。世銀やIMFにも当然改革は必要だ。その上で、新銀行には既存の枠組みとうまく共存することを求める。

世銀やIMFは支援先の政治腐敗や人権に目を光らせ、財政や経済の構造改革も求めてきた。厳しくても貧困解消や持続的な発展に不可欠だからだ。新銀行が融資の中身をよく吟味せず、従属的な関係に置くように資金供給するやり方では真の支援にならない。

上海に本部を置く新銀行の初代総裁をインドから選び、各国が均等出資するのは、中国の発言力が強まることへの警戒だろう。

中国は、これとは別に、自らが最大出資国となるアジアインフラ投資銀行創設も唱えている。こちらはアジア開発銀行への対抗軸と目される。アジア開銀は日本から歴代総裁が出ており、本部は南シナ海をめぐる問題で中国と対立するフィリピンにあるからだ。

中国は、軍事、経済に続き、金融でも存在感を高めようとしているようにみえる。だが、国際ルールに従わず、自国の都合を他国に押しつけてきた中国が同様の狙いでお金をばらまけば、新たな軋轢(あつれき)を生む結果を招かないか。

米主導への対抗心では、ウクライナ問題を抱えるロシアの政治的思惑も見逃せない。孤立状態を糊塗(こと)するためBRICSの結束を誇示するなら理解は得られまい。

BRICS各国は地理的に分散し、外交戦略や経済状況も異なる。歩調を合わせて新銀行を成功に導くには、日米欧への対抗だけでなく、協調も求められる。

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