秘密の運用 欠陥は埋まらない

朝日新聞 2014年07月18日

秘密の運用 欠陥は埋まらない

果たしてこれが、国民の「知る権利」を守るための、実効的な「歯止め」となるのか。甚だ疑問だと言わざるを得ない。

昨日、「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆)が開かれ、特定秘密保護法の指定や解除に関する運用基準の素案などが了承された。

会議では、安倍首相が「秘密の取り扱いの客観性と透明性がより一層進展することが期待される」とあいさつ。渡辺氏は、報道・言論が不当に規制されぬよう細かく配慮されていると評価した。しかし、恣意(しい)的に運用される危険性は残ったままだ。

特定秘密に当たる情報については、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で55項目に細目化した。だが、どの文書がどの項目に当てはまるかの解釈は各省庁に委ねられる。

特定秘密の指定期間は「適切と考えられる最も短い期間」とされた。だがこれも各省庁の判断次第だ。また、秘密として指定された期間が30年以下の文書は、「歴史的公文書」に当たらなければ首相の同意を得て廃棄できる。なにが「歴史的」か、その定義は不明確だ。

内閣府に新たに置かれる「独立公文書管理監」は、各省庁の大臣らに特定秘密の提出を求め、運用基準に合わないと判断すれば指定解除を要求できる。ただし、大臣らは「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」ことを理由に、管理監への情報開示を拒否できる。

振り返っておく。秘密法に対する国民の根強い批判は、何が秘密に当たるのかがわからず、秘密の範囲が際限なく広がる危険性があること、しかもそれが半永久的に公開されない可能性があるという点に向けられた。今回示された運用基準は、この批判に応えられていない。

諮問会議は、政府に直接意見を言える唯一の外部機関だ。厳格な基準作りを期待する向きもあった。だが、そもそも法律の欠陥を、運用で根本的に埋め合わせるのは無理だ。「欠陥住宅」に住み続けるコツに知恵を絞るよりも、建て直す知恵をこそ絞るべきではないのか。

政府は今後、運用基準などについてパブリックコメント(意見公募)を行い、それを踏まえて諮問会議で再度議論した後、閣議決定する方針だ。諮問会議の委員からは、パブコメへの真摯(しんし)な対応を求める意見が出たという。当然である。

秘密法のパブコメに寄せられた意見の約8割は「反対」だったが、置き去りにされた。同じことを繰り返してはならない。

毎日新聞 2014年07月20日

秘密法の運用案 拡大の恐れ止められぬ

国の重要な情報が隠され、国民の知る権利がないがしろにされる懸念は、依然として拭えないままだ。

特定秘密保護法の年内の施行に向け、政府は運用基準の素案を有識者会議「情報保全諮問会議」(座長・渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長兼主筆)に提示した。しかし、行政が情報を恣意(しい)的に秘密指定し、不都合な情報の隠蔽(いんぺい)を可能にするこの法律の危険性は、素案でも解消できていない。国の情報は基本的に国民に公開するという民主主義の原則に立ち返って考え直すべきだ。

素案は、特定秘密の指定や解除などについて政府内で統一的に運用するためにまとめたものだ。基本的な考え方として「法を拡張して解釈してはならず、必要最小限の情報を必要最低限の期間に限って指定する」と掲げた。もっともな考えだが、問題は実効性があるかどうかだ。

特定秘密の指定は防衛、外交など4分野が対象だが、素案は55項目に細分化した。しかし、例えば外交では「外国の政府等との交渉、協力の方針、内容のうち国際社会の平和と安全の確保に関するもの」などと、幅広く解釈できる表現が随所にあり、指定が拡大する余地を残した。

省庁が秘密指定を解除した文書などのうち指定から30年を超えるものは国立公文書館に移管すると明記したが、30年以下の文書は首相の同意があれば廃棄も可能とした。行政の隠蔽体質は沖縄密約文書の例からも明らかで、重要な文書が廃棄される可能性に歯止めはかかっていない。

不当な指定拡大や廃棄を防ぐにはチェック機関が十分に機能することが欠かせない。その役目を担うのが独立公文書管理監をトップに新設される情報保全監察室だが、実効性には疑問符がつく。秘密の概要を記したリストしか渡されず、問題があると判断すれば秘密情報の提出や説明を省庁に求めることができるが、省庁は安全保障に支障があるとの理由で拒否できる。これでは不正が疑われても突き止めることは難しい。

重層的にチェックするとして、官房長官がトップの内閣保全監視委員会も設置し、省庁に秘密情報の提出や是正要求ができると定めたが、あくまでも「身内」の組織であり、やはり実効性は疑わしい。チェック機能を果たすには、政府から独立し、かつ十分な権限を持つことが必要だが、いずれもそうした機関になっていない。

私たちは、この法律が国民の知る権利だけでなく基本的人権を侵害する恐れがあるとして廃止を求めてきた。政府は素案について国民に意見を募り、諮問会議で改めて検討するという。諮問会議は外部から政府に意見を言える唯一の機関であり、抜本的見直しを議論してもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1888/