DNA父子訴訟 時代に合った法整備を

朝日新聞 2014年07月18日

父子の関係 現代の家族に添う法を

血のつながりはないことが科学的に証明されても、法的な父子の関係は取り消せない。

DNA型鑑定で親子の血縁が手軽に分かるようになったなかでの、最高裁の判断だ。

法的な親子には相続、扶養など様々な権利、義務が伴う。父子として築いてきた関係を血縁がないという一点で否定するべきではない。そうした最高裁の考え方は理解できる。

一方、妻が夫以外の男性と子どもをもち、その後に離婚して3人で新生活を始めたケースでも、子の法的な父は前夫。血縁も育てる意思もある人が法的な父になれない結論に割り切れなさを感じる人もいるだろう。

明治以来の民法で対応する無理も出ている。現代に適応した親子の法制度を検討すべきだ。

産んだ母と子の親子関係は明らかにわかるが、父と子は血縁が必ずしもわからない。

民法は産んだ人を母とし、母が妊娠時の夫を父とする嫡出(ちゃくしゅつ)推定という考え方をとってきた。夫婦の別居など外観上、妊娠の機会がありえないときに限り、その例外となる。

嫡出推定のねらいは、父を早く確定して子の利益を守り、妻の不貞といった各家庭の事情を公にさせないことにあった。

しかし、法的に夫婦であるというだけで父を決めるルールが、子や親の大きな負担となるケースも目立っている。

例えば、暴力をふるう夫から逃げた妻が次のパートナーともうけた子の父は、戸籍の上では夫となる。夫が否認すれば父子関係は消えるが、その協力が期待できず、出生届を出すことをためらった結果、子が無戸籍の状態になるケースがある。

離婚しても300日内に生まれた子の父は別れた夫となる。現実にはこれから離婚する夫婦が子をもうけるより、妻と新しいパートナーとの間の子であるケースがずっと多いだろう。

婚姻届を出す前に相手との子を出産することはもはや珍しくないが、民法は結婚後200日を過ぎた後の出産でない場合は夫の子と推定しない。

そうした場合は個別に救済するしくみがあるとはいえ、父だと推定する範囲を、現実に合うように見直すべきではないか。判決の補足意見も、立法の課題とするよう促している。

父の側からは、出生を知ってから1年間は血縁がないことを理由に父であることを否認できる。子や母の側から父子関係がないとする訴えも、より広く認める検討が必要だろう。

生まれた経緯で子を困らせないルールを考えたい。

毎日新聞 2014年07月18日

DNA父子訴訟 時代に合った法整備を

DNA型鑑定で血縁関係がないと証明されれば、法律上の父子関係を取り消せるのか−−。最高裁第1小法廷は17日、「取り消せない」とする初めての判断を示した。

民法772条は「妻が結婚中に妊娠した子は夫の子と推定する」(嫡出推定)と規定する。判決は、科学的な鑑定よりも、嫡出推定の規定を優先したものだ。ただし、5人の裁判官のうち3人の多数意見で、2人の裁判官は反対意見を述べた。

明治時代の1898年にできた嫡出推定の規定については、離婚や再婚が増え、多様な家族が存在する社会の実態に合っていないとの批判が強い。時代の変化に応じた民法の見直しの議論を本格化させてほしい。

いずれもDNA型鑑定が実施された裁判の上告審での判断だ。このうち二つの訴訟では、婚姻中の妻が夫とは別の男性の子をそれぞれ2009年に出産。DNA型鑑定で夫と子との間に血縁関係がないことが裏付けられ、妻側が父子関係無効を求め訴えた。1、2審は「嫡出推定の例外とすべきだ」として、父子関係は無効と判断。「法律上、自分の子だ」と訴える夫側が上告していた。

最高裁はかつて、夫の海外出張や刑務所への収容など「明らかに夫婦の接触がない場合」は例外として、「推定が及ばない」と判断した。

だが今回は、子の身分関係の法的安定を保持する必要性を指摘し、「推定が及ばない」例外にも当たらないとして、夫側の訴えを認めた。ただし、裁判官の見解は割れた。

2件のケースで子は現在、母、血のつながった男性と同居中だ。金築誠志裁判官は、そうした事情に触れ「法律上の父が別というのは、自然な状態だろうか」と疑問を投げかけた。また、家裁などで嫡出推定を否定する方向で解決が図られる例が少なくないとの文献があるとして、これらは「妥当な解決を図る目的の運用ではないか」と理解を示した。

養子縁組制度もあり、血縁が絶対でないのは当然だ。一緒に生活する時間や歴史が家族を作る面もある。その点に限れば、最高裁の姿勢も理解できる。ただし、守るべきは子の利益だ。今回のケースも、親子関係を今後どう調整するのか。当事者である大人側の冷静な話し合いが必要だ。

嫡出推定を定めた民法の規定の限界が近年、浮き彫りになりつつある。例えば、ドメスティックバイオレンス被害を受けた妻が、夫から逃れている間に別の男性と知り合い子を産むケースでは、夫と関わるのを嫌い、子供が無戸籍に陥ることがある。

5人中4人の裁判官が、法整備の必要性を個別意見で指摘した。親子関係を決めるための時代に合ったルールを、社会全体で考えたい。

読売新聞 2014年07月18日

DNA父子訴訟 民法の枠組み重視した最高裁

DNA鑑定で血縁が否定された場合でも、法律上の父子関係は無効にできない。最高裁は判決でそう結論づけた。

父子関係について定めた民法の枠組みを重視した司法判断である。

妻が夫と婚姻中に、別の男性と交際して妊娠・出産した。DNA鑑定の結果、子の血縁上の父親が交際男性であると確認された。妻側が夫に対し、父子関係の取り消しを求めたのが今回の訴訟だ。

民法には「妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定する」という嫡出推定の規定がある。扶養義務を負う父親を法的に明確にし、子の保護を図るのが目的だ。

最高裁は、「血縁関係がないことが明らかであっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要性はなくならない」と指摘した。嫡出推定の規定を厳格に適用する姿勢を示したものだ。

従来の判例では、嫡出推定の例外は、妻の妊娠時に夫が服役したり、海外に長期滞在したりして、夫婦の性交渉がないことが明らかな場合に限定してきた。

最高裁は今回、民法の趣旨を踏まえ、DNA鑑定では嫡出推定を覆せないと判断したと言える。

1、2審は父子関係の取り消しを認めた。最高裁はこれと正反対の結論を導いたが、5人の裁判官のうち、2人が1、2審を支持するという際どい判決だった。

今回のケースでは、子は血縁上の父と同居し、新たな環境で生活を送っている。

「血縁関係のない人と法律上の父子関係を残すことは、子の成育にとって心理的、感情的な不安定要因を与えるのではないか」と疑問を投げかけた少数意見にも、うなずける面がある。

別の少数意見は「嫡出推定の規定と、血縁関係を戸籍にも反映させたいと願う心情を調和させる必要がある」と言及している。

そもそも、嫡出推定の規定は、明治時代に設けられ、DNA鑑定を想定していない。鑑定技術の進歩に法制度が追いつかず、社会の実情に沿わなくなっている。民法の嫡出推定について、議論すべき時期に来ているのではないか。

近年、DNA鑑定の費用が安価になり、一般の人が利用しやすくなっている。一方で、参入業者の急増とともに、鑑定の精度に対する懸念も生じている。

血縁関係がなくても、愛情を注ぐことで、親子の信頼関係は築けるという声も根強い。

子どもの幸福を最優先に、制度の在り方を考えたい。

産経新聞 2014年07月18日

最高裁DNA判決 法律婚重視の判断妥当だ

法律婚によって築かれる家族は尊重、保護されるべき社会の最小単位である。最高裁の判断は、この大原則に沿ったものとして評価したい。

DNA型鑑定で血縁関係がないことが明らかになった場合に法律上の父子関係を取り消せるか。最高裁は3訴訟の上告審判決で「生物学上の父子でないと証明されても法的な父子関係を取り消すことはできない」との判断を示した。

民法772条は、妻が結婚中に生んだ子は嫡出子(夫の子)と推定すると規定している。子の利益のために父を早く決めて親子関係を安定させることが狙いだ。

嫡出推定に関する民法の規定は明治31年に施行された旧法と基本的には変わっておらず、DNA型鑑定による親子関係の証明などは想定されていない。生殖補助医療の存在も同様だ。

この点について、科学の進歩に民法が追いついていない、との論議もある。だが血縁関係のみを優先して親子関係を規定するなら、それは鳥獣も同然だ。

桜井龍子裁判官の補足意見にあるように、親子関係に関する規律は「公の秩序に関わる国の基本的な枠組みに関する問題」である。安易な変更は認められない。

最高裁は昨年12月、性同一性障害のため性別変更で婚姻した夫と妻が第三者からの精子提供でもうけた子について、血縁関係はなくても嫡出推定が適用されると判断した。血縁より、法的な関係を重視した結果だ。この決定により、子は法律上の父親を得た。

今回の判断も、この延長線上にあると考えられる。

最高裁は法の大原則を示したが、一方で家族、親子間の問題には個別の事情がある。今回の判決は、北海道、関西、四国の訴訟3件の上告審だった。最高裁の包括審理による判断がふさわしかったかについては、疑問が残る。

判断も割れ、裁判官5人中2人は「実の父との親子関係が確保できている場合は取り消しを認めるべきだ」と反対意見を述べた。

最終的な目的は、子供の幸せや福祉の確保のはずだ。現実には、それぞれの愛情の有無や経済力など、必ずしも法の線引きが最善の結果を生むとはかぎらない。

各家庭の個別事情に、より近く寄り添うことができる家庭裁判所の法的紛争解決能力や、家事調停の機能強化も強く求められる。

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