川内原発再稼働へ 教訓学ばぬ見切り発車

朝日新聞 2014年07月17日

原発再稼働を問う 無謀な回帰に反対する

原発事故が日本の政治と社会全体に投げかけた広範な問いはまだ何も答えられていない。

ところが再稼働をめぐる議論はいつの間にか、原発の性能をめぐる技術論に狭められた。

事故が起きた時の政府や自治体、電力会社の対応や、避難計画のあり方など、総合的な備えはほとんど整っていない。

このままで原発を再び動かそうというのは暴挙である。いまだに収束できない事故から何も学ぼうとしない無責任な態度というほかない。

原子力規制委員会が九州電力の川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)について、新規制基準を満たすとの審査書案を出した。

1年前に新基準ができて初めてのことだ。意見公募など手続きはまだあるが、規制委による審査は実質的にヤマを越えた。

安倍政権は「規制委の専門的な判断にゆだね、安全と認められた原発は再稼働する」と繰り返している。あたかも規制委の審査が原発の安全確保のすべてであるかのように。

現実は違う。あまりに多くの問題点が置き去りにされている。規制委の権限が及ぶ範囲にも、その外側にも、である。

このままでは、原子力規制のあり方を多少改めた以外、ほとんど何も変わらず、日本は原発依存に逆戻りしかねない。

安倍政権はエネルギー基本計画で、新基準を「世界で最も厳しい水準」と明記した。

閣僚や自民党幹部もたびたび「世界一厳しい新基準で安全確認できたら、再稼働する」と口にしてきた。

誇張が過ぎ、原発の安全神話を復活させかねない言動だ。

確かに新基準は、地震や津波への設備対策を以前より厳しく求めている。だが、それは有数の地震国である日本の特徴を反映したに過ぎない。

事故が起きるおそれを数字で表す手法は、欧米では広く採り入れられているが、新基準はそこまで徹底していない。

川内原発で注目された火山噴火対策については、火山学者が疑問を投げかけるなか、手探りの火山監視で対応できるという九電の主張を追認した。

本質的に重要なのは、新基準への適合は決して「安全宣言」ではないということだ。

規制委の田中俊一委員長は「新基準では事故は起きうるという前提だ」と強調してきた。

すなわち、事故対策は規制委だけでなく、電力会社や政府、自治体や住民も本気で考えるべきだと訴えてきたのだが、その多くが手つかずのままだ。

何より、事故の際の避難で、現実的な計画が描けていない。

規制委が示した原子力災害対策指針を基に、地元自治体がつくることになっている。いきなり難題を突きつけられた形の自治体側は戸惑っている。

原子力政策を国策だとしておきながら、政府はなぜ、避難を自治体に丸投げするのか。

再稼働の条件に、避難計画は含まれていない。このまま計画の見通しなしに自治体が安直に再稼働に同意しては、政府も自治体も住民の安全を守る責任を果たしたとはいえまい。

置き去りのままの重要課題はほかにもたくさんある。

3年前の事故が浮き彫りにした課題を何度でも思い返そう。

過酷事故、とくに原発密集地での事故は、おびただしい数の住民を被曝(ひばく)の危険にさらし、膨大な土地を放射性物質で汚しかねない。なのに複数原発が集中立地している問題は、規制委でもまともに議論されていない。

防災の重点区域が「おおむね30キロ圏内」に広げられたのに、再稼働への発言権は立地自治体だけでいいのか。

福島第一原発の吉田昌郎所長(故人)の証言「吉田調書」では、幹部職員の一時離脱が明らかになった。破局の瀬戸際の対応は電力会社任せでいいのか。

根本的な問題は、日本社会が福島第一原発事故を十分に消化していないことだ。

関係者や組織の責任を具体的に厳しく追及することもなく、かといって免責して事故の教訓を徹底的に絞り出すこともしていない。未公開の吉田調書に象徴されるように、事故の実相は国民に共有されていない。

3年前、私たちの社説は「原発ゼロ社会」を将来目標とするよう提言した。幸いなことに、原発がすべて止まっても大停電など混乱は起きていない。

関西電力大飯原発の運転差し止めを命じた福井地裁判決は、「原発停止は貿易赤字を増やし、国富流出につながる」という指摘に対し、「豊かな国土に国民が根を下ろして生活していることが国富だ」と断じた。

原発を含むエネルギー政策は経済の観点だけでは語れない。人間と自然の安全を長い未来にわたってどう確保するのか。

放射性廃棄物の処分問題も含め、広く深い論議を抜きに原発再稼働を進めてはならない。

毎日新聞 2014年07月17日

川内原発再稼働へ 教訓学ばぬ見切り発車

東京電力福島第1原発の過酷事故から3年4カ月余り。新規制基準に基づく初の原発再稼働が現実味を帯びてきた。九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)について原子力規制委員会がまとめた審査書案は、事実上の「審査合格」を意味する。

政府は新規制基準を「世界で最も厳しい水準」とし、合格原発は再稼働を進める方針だ。現在のルールでは、国民からの意見公募を経て、地元の同意を得れば再稼働が可能となる。福島の原発事故後、それ以前には無理だと思われてきた「原発ゼロ」のまま、日本は社会を維持してきた。新規制基準に基づく川内原発の再稼働は、過酷事故を経て、日本が再び「原発を活用する国」に戻る転換点となる。

私たちはこれまで、原発に頼らない社会をできる限り早く実現すべきだと主張してきた。一方で、そこに至る過程で、必要最小限の原発再稼働を否定するものではない。

ただし、条件がある。福島の教訓を徹底的に学び取り、過酷事故を防ぐと同時に、再び事故が起きても住民の被害を食い止める手立てを整えておくこと。さらには、政府が脱原発依存の道筋を描いた上で、エネルギー政策全体の中に原発の再稼働を位置付けることだ。

いずれの点でも、現状で川内原発の再稼働は合格とは言えない。このままでは、原発の安全神話の復活につながる懸念が大きい。

まず、事故が起きた場合の防災体制の整備が明らかに遅れている。

国際原子力機関(IAEA)は原発事故対策として「5層の防護」を定めている。3層目までが過酷事故の防止で、4層目が過酷事故対策、5層目は放射性物質が敷地外に漏れ出る場合の防災対策を求めている。

福島第1原発事故後、政府は事故に備えた重点対策区域を原発から8~10キロ圏から30キロ圏に拡大した。

ところが、第5層の防災対策は災害対策基本法で自治体任せにされ、規制委の審査対象から外れている。

川内原発が立地する鹿児島県の地域防災計画では、30キロ圏内の病院の入院患者や介護施設の入所者ら要援護者の避難計画は各施設が作る。ただし、実際には、受け入れ先探しなどで県の仲介や調整が不可欠だ。

県は10キロ圏までの避難計画を公表したが、伊藤祐一郎知事は「30キロ圏までの要援護者の避難計画は現実的ではない」と発言した。対象となる要援護者の数が増え、避難手段や受け入れ先の確保が難しいことが背景にある。これは、他の原発立地地域にも共通する課題だ。

このままでは5層の防護を欠き、防災対策は置き去りにされていると言わざるを得ない。

読売新聞 2014年07月17日

川内原発「合格」 再稼働への課題をこなそう

原子力発電所の再稼働に向けて前進したが、実現への課題も多い。

地元の同意取り付けなどを着実に進めることが重要である。

原子力規制委員会が、九州電力川内原発1、2号機について、新規制基準に「適合している」との審査書案を了承した。

川内原発は、再稼働の前提となる安全審査に、事実上合格したことになる。九電は、今秋にも再稼働を実現したいとしている。

新規制基準は、東京電力福島第一原発事故を踏まえ、厳格な安全対策を求めている。

川内原発が国内の原発として初めて新基準をクリアし、安全性が確認された意義は大きい。

安全審査でポイントとなったのは、どれくらいの規模の地震や津波を想定するかだった。

九電は、備えるべき津波の高さを従来の1・5倍、地震の強度は1・15倍に引き上げた。これに基づいて、浸水対策や設備の耐震補強を進める。

もう一点は、福島第一原発事故のような冷却機能の喪失による重大事故を防ぐため、どのような対策を取るかである。

非常用電源の増設や取水ポンプの補強、冷却用配管の多重化などの対応策が評価された。

規制委は今後、こうした機器や設備の工事計画や、保守点検作業の規定を審査する。工事後の検査も含めれば、最低2~3か月を要する見込みという。

地元自治体の理解を得ることも重要だ。川内原発の安全性と再稼働の必要性について、九電はもとより、政府が責任をもって関係者に説明すべきである。

万一、事故が起きた場合の避難計画についても、住民への周知徹底が求められる。

川内原発の審査の経験を、他原発の審査の円滑化に生かすことが大事だ。川内原発以外に11原発17基が安全審査を申請しているが、合格のめどは立っていない。

規制委が電力会社に次々にデータの追加提出を要求するなど、非効率な審査をしてきたためだ。

川内原発の審査書案は、事故対策の審査経緯を詳しく記述している。これを参考に、電力会社は的確な審査準備に努めてほしい。

一方、地震や津波の想定に関する判断の理由は、ほとんど記述されていない。規制委は根拠を明示する責任があるのではないか。

電力供給は綱渡りで、料金高騰が生活と産業を直撃している。安全審査を加速させ、原発の再稼働を軌道に乗せねばならない。

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