集団的自衛権 首相は堂々と意義を語れ

朝日新聞 2014年07月16日

集団的自衛権 解釈改憲の矛盾あらわ

安倍首相がどんなに「国民の命と平和な暮らしを守る」と訴えても、閣議決定による解釈改憲の矛盾は覆い隠せない。

きのうまでの2日間、衆参両院の予算委員会で開かれた集団的自衛権をめぐる集中審議。政府の答弁は、とても国民を納得させられるものではなかった。

憲法改正をせずに集団的自衛権行使を認めることができるのか。このことが、ここ数カ月の論争の最大の焦点だった。

安倍首相はこの点について、予算委でこう答えた。

「9条の解釈の基本的な論理を超えて武力行使を認めるのは困難であり、その場合には憲法改正が必要になる」

つまり、今回の解釈変更による集団的自衛権の行使は許されるが、それ以上は憲法改正が必要だというのだ。

ところが、83年に内閣法制局長官はこう答えている。

「集団的自衛権の行使を認めたいなら、憲法改正の手段をとらざるを得ない」。この答弁を「その通りであります」と閣僚として追認したのが、当時の安倍晋太郎外相だ。

憲法改正をしなくてもできることとできないことの間の線引きが、明らかに変わってしまっている。

これだと、いま首相が「できない」といっている「湾岸戦争やイラク戦争での戦闘参加」も、いつの間にか「できる」ようになってもおかしくない。

首相は武力行使の新3要件を「世界で最も厳しい」と強調する。その一方で、中東ホルムズ海峡の機雷封鎖による経済的影響も勘案すると述べた。石油不足がきっかけでも、自衛隊を紛争地に派遣する可能性があるということだ。

ならば、自衛隊員の生命の危険が高まることを国民にきちんと説明すべきだ――。こうした切実な問いに、首相は全く答えようとはしなかった。安全保障環境の変化や新3要件の説明を繰り返すばかりで、議論はかみ合いようもない。

一連の安全保障政策の見直しは、日本人だけの生命にかかわる問題ではない。集団的自衛権の行使や多国籍軍への後方支援の拡大は、世界の様々な紛争に日本が軍事的な関与を強めるということだ。

紛争当事国の国民の生命や生活に、日本も責任を負わざるを得なくなることを意味する。いまの日本に、それだけの覚悟はあるのか。

問題の射程は広く深い。衆参1日ずつですむわけがない。さらなる閉会中審査を含め、徹底した国会論議が不可欠だ。

毎日新聞 2014年07月16日

集団的自衛権 横畠長官の答弁は重い

政府が集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしてから初の国会論戦が衆参の予算委員会で行われた。審議を通じて、集団的自衛権行使の歯止めについて、政府の恣意(しい)的な拡大解釈の余地があることが改めて明らかになった。

審議の焦点の一つは、政府が歯止めとする武力行使の3要件のうち「(国民の権利が)根底から覆される明白な危険がある場合」をどう解釈するかだった。

横畠(よこばたけ)裕介内閣法制局長官は、次のように定義した。

他国への武力攻撃が発生し、「国民に、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻・重大な被害が及ぶことが明らかな状況」だと。

その上で、どういう事態が該当するかは「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、規模、態様、推移」などを総合的に考慮し、「我が国に戦禍が及ぶ蓋然(がいぜん)性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断する」と。

つまり、日本自身が武力攻撃を受けたのと変わらないぐらい深刻な場合にのみ、集団的自衛権の行使が許されると言ったのだ。

それならば集団的自衛権の行使を認める必要はなかった。これまでの個別的自衛権で説明できる話だ。「我が国が武力攻撃を受けたのと同様な被害」という長官答弁を重く受け止めたい。

だが安倍晋三首相は少し違った。長官答弁と基本的に変わらないとしながらも、政府が武力行使の3要件に照らして判断すると強調した。首相は、中東のホルムズ海峡が機雷で封鎖され、原油供給が滞って日本経済が死活的な影響を受けた場合でも、集団的自衛権を行使して機雷掃海ができるとの考えを示した。

首相の目には、原油供給の停滞という経済的打撃が、日本自身への直接的な武力攻撃と同等の深刻さに映るようだ。これでは3要件は、政府の判断次第で拡大解釈でき、歯止めにはならない。

審議では他にも多くの論点が提起された。集団的自衛権の行使で自衛隊員が命を落とすリスクについては、首相はまたも語らなかった。行使には国会承認が必要だが、原則は事前承認でも、例外で事後承認でもいいとしていることの問題点もある。

閣議決定から2週間もたって、わずか2日間の閉会中審査では不十分だ。政府は関連法案の審議を、選挙への影響を考慮して、来春の統一地方選後に先送りする方針だが、姑息(こそく)な考えだ。引き続きの閉会中審査と、秋の臨時国会での徹底審議を求める。来春まで本格的議論をしないなら、そんな緊急性のない閣議決定は早急に撤回したほうがいい。

読売新聞 2014年07月15日

集団的自衛権 国会の論議をさらに深めたい

集団的自衛権の行使を限定的に容認する新たな政府見解により、何ができ、何ができないのか。国会での議論をさらに深めることが重要だ。

新見解の閣議決定後初の国会論戦が、衆院予算委員会で行われた。民主党の海江田代表は、閣議決定について「国会の議論をせず、憲法解釈を百八十度変える。国民の声を無視して決めて良いのか」と反対する考えを強調した。

安倍首相は、有識者会議の議論や与党協議に加え、国会の集中審議などで議員70人の質疑があったとし、「閣議決定が拙速だとの指摘は当たらない」と反論した。

政府・与党は十分に手順を踏んでおり、首相の主張は妥当だ。

今後、関連法案の国会審議も行われる。より多くの国民が新見解を理解するよう、具体的事例に即して集中的に議論する機会としたい。最近の北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射など、厳しさを増す国際情勢の論議も欠かせない。

「国民の権利を根本から覆す明白な危険」などの集団的自衛権行使の新3要件について首相は、行使の可否の判断基準を示した。

「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、規模、態様」などを政府が「総合的に勘案」し、「国民が被る犠牲の深刻性、重大性」などから判断する、と語った。

民主党の岡田克也前副総理は「基準があいまいで(政府の)裁量の余地が大きい」と批判した。

集団的自衛権の行使を限定的にするのは、憲法解釈の法的整合性を保つためにやむを得ない。だが、限定のための「歯止め」ばかりを重視すれば、自衛隊の活動を過度に制約し、実効性が失われる。

様々な事態に効果的に対処できるよう、政府に一定の裁量権を認めることが現実的である。

首相は、イラク・湾岸戦争のような海外での武力行使には参加しないと強調する一方で、機雷除去には意欲を示した。掃海活動は「受動的、限定的で、(武力行使の)性格が違う」と語った。

他国への攻撃と掃海を区別する考え方は理解できる。より丁寧で分かりやすい説明を求めたい。

民主党は、憲法解釈の変更という手法には反対しているが、集団的自衛権の限定容認の可否については結論を出せていない。党内に賛否両論を抱え、安全保障論議を避けてきたツケである。早く党の統一見解を示すべきだ。

日本維新の会やみんなの党は既に、限定容認への支持を決めている。政府・与党は、関連法の整備を着実に進めてもらいたい。

産経新聞 2014年07月15日

集団的自衛権 首相は堂々と意義を語れ

安全保障政策の大きな転換について、説明責任を果たす機会を十分に生かしてほしい。

集団的自衛権の行使容認について、安倍晋三政権による閣議決定後、初の国会論議が衆院予算委員会の閉会中審査で行われた。だが、国民に分かりやすい議論だったかといえば疑問が残る。

集団的自衛権の行使がなぜ必要か、行使容認で自衛隊はどんな行動をとるのか。それこそ国民が聞きたい点であるはずだ。「戦争に巻き込まれる」と国民の不安をあおるのは、本質的な議論に背を向けるものだ。

質問者、政府側とも、戦後、長く繰り返されてきた憲法解釈論のタコツボに入り込むような議論に時間を割くべきではない。

そうした中で評価したいのは、首相が集団的自衛権行使の一例として、中東・ペルシャ湾のホルムズ海峡で自衛隊が機雷除去活動を行う必要性を明言したことだ。

首相はホルムズ海峡に機雷が敷設されれば日本にとって「相当の経済危機」が発生すると指摘し、「日本に向かう原油の8割はそこを通る。誰かがやらなければ危険はなくならない」と語った。

ホルムズ海峡の機雷除去については、集団的自衛権行使の地理的範囲にかかわるため、公明党は閣議決定の段階でも慎重論を唱えていた。行使容認の具体的なイメージをさらに説明してほしい。

首相は外遊の機会をとらえ、日本が目指す安全保障上の役割を明快に語り、相手国から多くの支持を得てきた。豪州議会での演説では、「法の支配を守る秩序や地域と世界の平和を、進んでつくる一助となる国にしたい」と安全保障法制の見直しの意義を語った。

相手国はその趣旨を理解し、集団的自衛権の行使容認の決定も歓迎した。首相は国会でも、海外で語ったような大きな視点から、その必要性を堂々と説くべきだ。

野党議員の質問で、日本や日本国民をどう守るかという視点が不足していたのは残念だ。とくに民主党の海江田万里代表は、行使容認はかえって危険を招くとして、抑止力強化への疑問も呈した。岡田克也前副総理は、集団的自衛権の行使で自衛隊が米軍を守ることに否定的だったが、それでは日米同盟は危機に陥る。

15日は参院予算委も開かれる。日本を守る方策が正面から論じ合われることを期待する。

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