香港の「一国二制度」が揺らぎだしている。
ちょうど17年前の香港返還にあたり、中国政府は英領時代の制度を50年間、維持して高度自治を実現すると、香港特別行政区住民、英国、そして国際社会に宣言した。
それを違(たが)えるような動きを中国政府が見せたのに対し、住民による大規模な抗議行動が起きている。
一国二制度は国際公約である。中国は返還の原点に立ち返り、完全履行しなければならない。
中国国務院(内閣)は、6月に発表した一国二制度の白書で香港の高度自治を、「中央が与えた地方事務の管理権だ」と定義し直した。中央の意向次第で二制度の存続は危うくなりかねない。
英領最後の香港総督だったクリス・パッテン卿が、「香港の法的な独立を弱める」と白書を糾弾したのはもっともである。
白書に表れた中央の方針転換が具現化するとみられるのが、2017年に予定される香港トップ、行政長官の改選の方法だ。
業界代表ら選挙委員による間接選挙という現行の選出法から、有権者による普通選挙への移行が決まっており、普選の完全実施は一国二制度の重要な試金石だ。
だが、北京も香港当局も候補者の事前調整で民主派排除を図ろうとしている。極めて不誠実だ。
反発した民主派団体が普選完全実施を求めて6月下旬に主導した非公式の住民投票には、人口の1割を超す79万人が参加した。
さらに、7月1日の返還記念日に行われた民主派の抗議デモは、主催者発表で51万人が参加して返還後では最大規模となった。当局との小競り合いなども起き、500人余が拘束されている。
白書の強圧姿勢が逆効果だったことを中国は知るべきだろう。
中国マネーによる香港の不動産バブル、有力香港紙の編集長更迭劇など、かつての「自由放任」に代わる中国支配の強まりにも、住民のいらだちは募っている。
民主派が抵抗を込めて呼びかける国際金融センターのセントラル地区占拠が実行され、過酷な弾圧がそれに続けば、「東洋の真珠」が傷つくのは避けられない。
習近平政権が「二制度」よりも「一国」に軸足を移し続ければ、香港住民はもとより国際社会の政権への信頼も一段と損なわれよう。香港の「自由」をこれ以上たわめることは許されない。
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