中韓首脳会談 半島の安定が最優先だ

朝日新聞 2014年07月05日

中韓首脳会談 日本は傍観したままか

習近平(シーチンピン)・中国国家主席がソウルを訪れ、朴槿恵(パククネ)・韓国大統領と会談した。朴大統領はすでに昨年、訪中している。隣国の首脳が頻繁に会って信頼関係を築いているのを見るにつけ、安倍首相が両国いずれの首脳とも会談することができない現実に、思いを致さざるを得ない。

中韓には、核実験やミサイル発射を続ける北朝鮮に対処する共通の利害がある。共同声明は朝鮮半島の非核化に多くの行数を割いた。中国は「血で固めた関係」とまで言われた北朝鮮との関係よりも、今はまず韓国を優先した形だ。

安全保障面に劣らず目立つのは、経済での中韓協力の進展だ。自由貿易協定(FTA)の年内妥結をめざすほか、両国通貨である元・ウォンの直接取引を開始し、金融分野の関係強化を進める。習主席には中国の企業家250人が同行した。

これで中韓の貿易・投資関係はいっそう緊密化するだろう。首脳会談には、現場での協力を加速させる力がある。一方で、日中韓のFTA交渉は進まない。中韓が先行すれば、中国市場で日本企業が不利な立場に置かれるおそれを顧慮すべきだ。

日中韓首脳会談が東南アジア諸国連合(ASEAN)の場を借りて初めて開かれたのは15年前。08年からは3カ国の独立した会談となって実績を積み重ねたが、12年5月の北京を最後に中断している。きっかけは尖閣諸島国有化であり、安倍首相の靖国神社参拝など歴史認識問題が事態を悪化させた。

歴史問題では今回、習主席が会談で「抗日戦勝利と朝鮮半島解放70年」にあたる来年、記念行事を開催しようと朴大統領に呼びかけたという。これに対しては、菅官房長官が「この地域の平和と協力の構築に全く役に立たない」と反論した。

会談翌日には、両首脳が日本の集団的自衛権行使容認や「歴史修正主義」に改めて懸念を表明している。

ただ、共同声明と付属文書を見る限りでは、従軍慰安婦問題の研究協力を明記したものの、中韓発のこれまでの言動と比べると、やや抑制的であるとも言える。しかも付属文書には、日中韓3カ国の協力が北東アジアの平和と繁栄に重要だとする文言が盛り込まれている。

日本として、いまの両国、とくに中国に注文をつけたいことは軍事分野を含め山ほどある。そのためにも、歴史認識を政治問題化させる不毛を断ち切り、3カ国による首脳会談の再開を目指すべく、一歩を踏み出す時が来ている。

毎日新聞 2014年07月05日

中韓首脳会談 半島の安定が最優先だ

中国の習近平国家主席が韓国を訪問し、朴槿恵大統領と首脳会談を行った。中国の最高指導者が就任後、北朝鮮よりも先に韓国を訪問するのは初めてだ。「日米韓」対「中朝」という伝統的な対立構図の大きな変化であり、東アジアの将来にとっての意味も小さくない。

日本には歴史問題での中韓共闘への懸念があったが、首脳会談後の共同声明には歴史問題への言及がなかった。付属文書で慰安婦問題に関する資料の共同研究が盛り込まれるにとどまった。米国は日米韓の結束維持のため、日韓双方に関係改善を求めてきた。韓国もこれに配慮し、日本批判を文書に盛りこむことはできるだけ避けたようだ。

ただし、日本が慰安婦に関する河野洋平官房長官談話の作成過程を検証した報告書を発表したことなどに韓国は不満を強めている。4日の首脳同士の昼食会では歴史問題が話題となり、来年の戦後70周年に合わせて記念活動を行うことなどが話し合われたという。

一方、中国が主導し、早期設立を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)については声明での言及はなく、付属文書に「韓国が高く評価した」と記しただけだった。中国は首脳会談での韓国の参加表明を期待していたが、米国は参加見合わせを働きかけていた。

韓国は米国との同盟関係を重視しつつ、経済関係の拡大が続く中国との間でどうバランスを取るかに腐心している。中韓の貿易総額は日韓と米韓の合計よりも多くなったが、北朝鮮の核、ミサイル開発が続く中、安全保障面で在韓米軍に頼る構造に変わりはないからだ。

中国は米国がアジアで進めるリバランス(再均衡)政策を警戒している。韓国を引き寄せて風穴を開けたいとの思惑もあるだろう。北朝鮮の現状にいらだちを募らせ、将来的な韓国主導の統一に備え始めた可能性もある。韓国をめぐる米中の綱引きは長期的に続くのではないか。

中国は今年になって北朝鮮への原油輸出を制限しているとの情報がある。韓国訪問自体、北朝鮮に対する強いメッセージだ。圧力強化という意味ではようやく米中の足並みがそろってきたともいえる。

日本が拉致問題の解決に取り組むのは当然だが、北朝鮮が孤立を深める中で対日関係に活路を求めているという構図を忘れてはならない。

重要なことは朝鮮半島の安定を保ちながら、「北朝鮮の核開発阻止」という日米韓と中国の共通の目標実現に向けた協調を維持することだ。大国間のゲームを優先し、北朝鮮への対応がおろそかになっては元も子もない。

読売新聞 2014年07月09日

日豪首脳会談 「特別な関係」築く安保協力を

日本と豪州は、アジア太平洋の平和と安定への責任を共有する戦略的パートナーだ。安倍首相の訪豪を機に、協力関係を一層深化させたい。

安倍首相はアボット豪首相に、集団的自衛権行使を限定的に容認する新たな政府見解を説明した。「国民の命と平和な暮らしを守り抜くとともに、国際社会でより積極的な役割を果たすことを可能とするものだ」と強調した。

アボット首相は日本の取り組みを歓迎した。共同記者会見では「日本は戦後、ずっと模範的な国際市民だった」と述べ、平和国家としての歩みを評価した。

新見解により、朝鮮半島有事などの際、自衛隊が集団的自衛権を行使し、豪軍艦船などを防護できるようになる。安倍首相が豪議会での演説で「日豪は新たな『特別な関係』へ、歴史的脱皮を遂げた」と指摘したのも、うなずける。

両首脳は、防衛装備品の共同開発に関する協定に署名した。豪州は、日本の潜水艦技術に関心を示しており、当面、船舶の流体力学分野を共同研究する。こうした装備協力を着実に進めるべきだ。

自衛隊、豪軍と、両国の同盟国である米軍による3か国の共同訓練の拡充も欠かせない。

中国は東・南シナ海で、力による現状変更を試みている。豪州は、中国との経済関係は強いが、「法の支配」を重視する立場では、日米と足並みをそろえている。日米豪の協力により、中国に粘り強く自制を促すことが重要である。

日豪首脳は、経済連携協定(EPA)にも調印した。日本は豪州産牛肉の関税を引き下げる。日本製中型車などの関税は撤廃される。早期の発効を目指す。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の早期妥結へ、日豪が協力することでも合意した。

豪州に先立ち、首相はニュージーランドを訪問し、キー首相との会談の中でも、TPP交渉の妥結に向けて精力的に取り組む方針を確認した。

自由貿易の推進は、安倍政権の成長戦略の重要な柱だ。農産物の市場開放などに努め、早期妥結へ役割を果たさねばならない。

首相は今回、島嶼とうしょ国のパプアニューギニアも訪れる。日本の首相の訪問は29年ぶりだ。オニール首相と会談し、天然ガス開発の協力などで一致する見通しだ。

西太平洋では、中国が島嶼国の港湾整備などを支援し、影響力を強めている。日本は、防災や人材育成などの分野で協力し、各国と信頼関係を築くことが大切だ。

産経新聞 2014年07月09日

日豪首脳会談 「特別な関係」で平和築け

安倍晋三首相がオーストラリアのアボット首相との首脳会談で、両国が「特別な関係」にあると確認した。事実上の準同盟国宣言といえよう。

日豪が密接に協力し、アジア太平洋、さらには世界の平和と繁栄を担う決意を示したことを評価したい。

豪州はアジア太平洋地域への重視政策を強め、日本はアジアで最も緊密なパートナーと位置付けている。等しい目標を持つ豪州との関係強化は有効だ。

アボット首相は、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことも支持した。安倍首相が、豪州の国家安全保障会議メンバーらと会談し、協力強化の意思を内外に示した。

両首脳は経済連携協定(EPA)に加え、防衛装備品の共同開発協定に署名した。共同訓練や災害救援の目的で、相互に自衛隊と豪州軍を受け入れる枠組みも検討する。豪州側の期待を受け止め、日本が具体的にどう行動で応えていくかが課題となる。

集団的自衛権の行使を可能とする法制の整備は、いざというときに助け合う関係の前提となる。

特別な関係を進めていくうえで重要なのは、安保協力を日豪2国間の問題ではなく、共通の同盟国である米国を含んだ3国の連携として考えるべき点だ。安倍首相が豪議会演説で「米国とも力を合わせ、一緒にやれることがたくさんある」と語ったのは妥当だ。

3カ国は、自由と民主主義など共通の価値観をもつアジア太平洋地域の先進国であり、いずれも中国の強引な海洋進出への懸念を有している。一方で、中国を大きな貿易相手国として抱えている。

だからこそ、国際ルールを無視しがちな中国の行動を抑え、平和の下で経済活動を営むようにさせるのも共通の利益だ。

中国が歴史問題で日本を批判している点について、アボット首相が「70年前ではなく、現在の日本の行動で公平に判断すべきだ」と述べた点も評価できる。

ハワイ周辺で現在実施中の米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)では、海上自衛隊が全体の副司令官を、豪軍が航空部隊の司令官を務めている。

すでに形作られている3カ国の協力にさらに弾みをつけ、東南アジア諸国とも連携を強め、地域の抑止力向上につなげることを期待したい。

読売新聞 2014年07月05日

中韓首脳会談 地域の安定損なう「反日共闘」

韓国を取り込み、日米韓の連携にくさびを打ち込む。そんな中国の狙いが浮き彫りになった。

中国の習近平国家主席がソウルを訪問し、韓国の朴槿恵大統領と会談した。北朝鮮政策で、朝鮮半島での核開発に断固反対する方針で一致した。

中国の最高指導者が、伝統的友好国の北朝鮮より先に韓国を訪れるのは初めてだ。「韓国重視」と「中韓協調」を演出した。

習氏は訪韓直前に韓国紙に寄稿し、アジアの安全保障で中韓の共同対処の重要性を強調している。「アジアの安全はアジアの人々が守る」という自らの「アジア安全観」に基づく提案で、米国を排除しようとする意図が明らかだ。

アジアでは、一方的な現状変更を試みる中国に対し、日米や東南アジア諸国が批判を強めている。孤立傾向にある中国は、経済面で対中依存を深める韓国との関係を強化し、中国主導の秩序作りへの協力を得たいのだろう。

しかし、中韓共同声明は、「外交・安保上級戦略対話の定例化」と記述するにとどまった。韓国が同盟国・米国との亀裂を避けるのは当然であり、習氏の外交戦略が奏功したとは言えまい。

習氏が提唱する「アジアインフラ投資銀行」についても「継続協議」とされた。日米が主導するアジア開発銀行に対抗し、中国主導の金融秩序を築くという目論見もくろみも簡単には実現しないだろう。

日本が警戒すべきは、共同声明の付属文書に、いわゆる従軍慰安婦問題に関する資料の共同研究の実施が盛り込まれたことだ。

中国は既に、慰安婦の関連資料について、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録申請している。韓国も、同様の申請を準備中だ。

両国が、自ら都合良く解釈した歴史カードに基づく「反日共闘」を拡大し、国際社会での世論戦を展開することは、日本にとって憂慮すべき事態である。

習氏はソウル大学での講演で、「日本の軍国主義者は、中韓に対する野蛮な侵略戦争を仕掛けた」などと主張し、韓国国民にも共闘を呼びかけた。

朴氏は、中国による日米韓の分断工作に対し、安全保障、金融両面では慎重姿勢を見せたが、歴史分野では積極的に呼応した。

旅客船沈没事故などで低下した支持率の回復を図る思惑もあるのだろうが、そうした安易な対中接近には米国も懸念を隠さない。

朴氏は、日米韓の連携の重要性を改めて考える時ではないか。

産経新聞 2014年07月05日

中韓首脳会談 朴氏は海洋進出質したか

中国の習近平国家主席が同盟国の北朝鮮より先に韓国を初訪問し、朴槿恵大統領と会談した。

両首脳が、北朝鮮の核兵器開発に断固反対する厳しいメッセージを発したことは評価できる。

だが、地域の重大な脅威となっている海洋進出攻勢など中国の力による現状変更の動きに、朴氏が懸念を伝えなかったのであれば、極めて残念である。

中国は、東シナ海で尖閣諸島奪取を試み、南シナ海ではベトナム沖の石油掘削をはじめとして、周辺諸国が唱える領有権を一方的に排除する動きを強めている。国際法・規範を無視したその行動は、地域最大の緊張要因だ。

習氏は、訪韓を「親戚を訪ねるようなもの」と評した。その良好な関係があればこそ、朴氏は習氏に対し、「法の支配」という価値観を率直に説き、地域の緊張緩和に役割を果たすべきだろう。

日中、日韓の歴史問題については、共同声明の付属文書に「慰安婦問題での研究協力」が記されたものの、声明本体や首脳の共同記者会見では触れられなかった。

だが、習氏は会談で、中国の抗日戦争勝利、朝鮮半島の植民地支配解放から70年に当たる来年、中韓での式典開催を呼びかけた、と中国国内で報じられている。

習氏はソウル大での演説では、「日本軍国主義は中韓両国に対し野蛮な侵略戦争を行った」とし、大韓民国の臨時政府が上海で樹立された共闘の歴史を強調した。

朴氏も、会談前日に放映された中国国営テレビとのインタビューで、歴史問題に言及し、日本政府による「河野談話」検証を激しい言葉で非難している。

歴史問題に絡めた中韓の「反日共闘」の動きは要警戒である。

菅義偉官房長官は「中韓が連携して過去の歴史をいたずらに取り上げ、国際問題化しようという試みは、この地域の平和と協力の構築に全く役立たない」と述べた。当然の指摘である。

共同会見や声明が対日歴史問題で抑制的だったのも、日韓関係悪化を案じた米国による韓国への働きかけを反映したものだろう。

日本と韓国はともに民主主義国で米同盟国であり、日米韓3カ国の結束は地域の安定に死活的に重要だ。対中関係の強化は分かるが、韓国には中国に寄り過ぎて日米・韓の離間を招くような事態は避けてもらいたい。

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