対北制裁解除 再調査を厳しく監視せよ

朝日新聞 2014年07月04日

対北朝鮮交渉 「行動対行動」の原則で

日本政府が06年から北朝鮮に科してきた独自制裁の一部を、解除する。北朝鮮が日本人拉致問題の特別調査委員会をきょう立ち上げることになり、その姿勢を評価してのことだ。

互いの不信感から長年解決できないでいる懸案について対話を重ねて解決に導く。そんな外交の基本は、相手が北朝鮮であろうと変わることはない。

北朝鮮の出方を確認した上で慎重にカードを切るという「行動対行動」の原則の厳守が、いっそう求められる。

北京であった局長級協議で北朝鮮は、調査委の委員長には、国防委員会と国家安全保衛部の二つの機関の幹部を兼ねる人物をすえると伝えてきた。

北朝鮮において国防委は朝鮮労働党、朝鮮人民軍と並ぶ、国家の最高指導機関であり、そのトップは金正恩(キムジョンウン)氏だ。

ただ、いくら強い権限のある調査委であろうと発足するだけでは意味がない。正恩氏に権力が集中する北朝鮮に対し、日本側がもっとも留意しなければならないのは、相手がいかに誠実に調査し、結果を出すかを見極めることである。

過去の日朝協議で、北朝鮮は「拉致を実行した特殊機関の抵抗」などを理由に、肝心な場面で消極的な姿勢をみせてきた。だが今回の調査委について、北朝鮮は「すべての機関を調査できる」特別権限が与えられると説明している。もう言い逃れは許されない。

日本が解除するのは、人の往来規制などの三つの措置だ。いずれも北朝鮮経済に大きなプラスになるというよりは、象徴的な意味合いが大きい。北朝鮮が日本に抱く不信感も強いものがあり、信頼を積み重ねるためにも何らかの緩和措置は避けられまい。

一方、日朝と同時に安倍政権は、韓国との関係改善にも努めなければならない。

日本は北朝鮮の核・ミサイル問題で米国や韓国と歩調を合わせてきた。米韓、とりわけ韓国からは南北対話が停滞するなか、日米韓の足並みが乱れることへの強い警戒感が出ている。

02年9月に小泉首相が初訪朝した際は、当時の金大中(キムデジュン)・韓国大統領が繰り返し、小泉首相に日朝首脳会談を勧めていた。

歴史認識をめぐる日韓の対立は解消する兆しすらみえない。このまま関係が上向かず、日朝対話だけが進めば、韓国の疑心暗鬼を招きかねない。

北朝鮮の核・ミサイル開発は日本にも切実な問題だ。拉致問題と同時に、今後の協議で取り上げ続けなければならない。

毎日新聞 2014年07月04日

拉致再調査 これからが正念場だ

政府は、北朝鮮に対する独自制裁を一部解除することを決めた。北朝鮮が拉致被害者らの再調査を行うために設置する「特別調査委員会」について、実効性のある調査体制が確保されたと判断したためだ。「行動対行動」の原則に従って、北朝鮮が4日に調査委員会を発足させ再調査を開始する時点で、閣議決定により制裁を解除するとしている。

これまで北朝鮮が再調査に誠実に対応してこなかった経緯を考えれば、調査結果を待たず、調査が開始されただけで、見返りに制裁を解除することには疑問の声がある。だが、拉致被害者家族の高齢化が進む中、拉致問題を進展させるには、制裁解除はやむを得ない措置と考える。

政府は、今度こそ実効性のある調査が行われ成果が上がるよう、細心の注意を払って北朝鮮による再調査に対応してもらいたい。北朝鮮も不誠実な対応を改め、真摯(しんし)で迅速な調査をすべきだ。

調査委員会の概要は、1日に北京で開かれた日朝の協議で北朝鮮側から説明があったのを受けて、菅義偉官房長官が3日に発表した。

調査委員会は、最高指導機関である国防委員会から全機関を調査する特別な権限を与えられる。秘密警察の国家安全保衛部や人民保安部を含む約30人で構成する。拉致被害者、行方不明者、日本人遺骨問題、残留日本人・日本人配偶者の4分科会を設置し同時並行で進めるという。

これに対して政府は、独自制裁のうち(1)北朝鮮籍者の原則入国禁止など人的往来の規制(2)10万円超の現金持ち出しの届け出と300万円超の送金報告の義務(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止−−を解除する。

調査委員会の体制からは、それなりに北朝鮮の本気度が伝わってくる。だが、だからといって、きちんとした調査が行われる保証はない。

今回、再調査の対象が全ての日本人に広がったことは歓迎すべきことだ。半面、拉致被害者以外の日本人を帰国させて日本の世論を軟化させ、調査が不十分なまま拉致問題を決着させようとする可能性もある。そんな対応を許してはならない。

北朝鮮は、核放棄を迫る米国との間で交渉の糸口が見いだせず、後ろ盾の中国との関係も冷え込んでいる。中国の習近平国家主席は3日、韓国を訪問し、中韓の連携を強めている。北朝鮮の狙いは、日本との関係改善を突破口にこうした国際的孤立から抜け出すとともに、日本から経済協力を引き出すことだろう。

北朝鮮の核・ミサイル問題での国際協調を乱すことなく、米韓両国と情報を共有し、理解を得ながら拉致問題の解決を目指すことが重要だ。これからが正念場だ。

読売新聞 2014年07月04日

対「北」制裁緩和 「行動対行動」の原則を貫け

北朝鮮が日本人拉致問題で前向きな対応を取れば、日本もそれに見合った措置を行う。あくまで「行動対行動」の原則を貫くべきだ。

安倍首相が、北朝鮮に対する日本独自の制裁の一部を解除すると表明した。北朝鮮が拉致被害者らの再調査のため4日に設置する「特別調査委員会」の体制を評価したためだ。

調査委は、金正恩第1書記をトップとする国防委員会から、北朝鮮の全機関を調査する権限を与えられた。国防委安全担当参事を兼務するソ・テハ国家安全保衛部副部長が委員長を務めるという。

首相は「国家的な決断、意思決定をできる組織が前面に出る、かつてない体制ができたと判断した」と語った。仮にこの体制が実際に機能するなら、目標の「1年以内の調査完了」が可能だろう。

日本は、日朝間の人的往来の規制を解除し、北朝鮮への現金持ち出しや送金の規制を緩める。人道目的の北朝鮮籍船舶の日本入港は認めるが、貨客船「万景峰号」の入港禁止は継続する。

北朝鮮に一層の建設的な対応を促すのに有効だろう。

調査は、拉致被害者や拉致の可能性のある特定失踪者に加え、帰還事業で北朝鮮へ渡った日本人妻なども対象となる。調査委は対象別に4分科会を設けるという。

首相が「これはスタートでしかない」と語ったように、北朝鮮が調査を真剣に履行するよう、政府は随時、進捗しんちょく状況をチェックすることが欠かせない。

菅官房長官は、今夏の終わりから秋の初めに北朝鮮から最初の報告を受けるとの見通しを示した。報告内容を精査し、調査団を北朝鮮に派遣したり、追加調査を注文したりする必要がある。

制裁をさらに緩和する場合は、北朝鮮の調査が具体的な成果を生むことが前提となる。北朝鮮が不誠実な対応をすれば、制裁の復活も排除すべきではない。

看過できないのは、日朝協議の前に北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に発射したことだ。国連安全保障理事会決議に違反しており、政府が抗議したのは当然である。

ミサイル発射には、中国と韓国の接近をけん制する狙いもあるとされるが、軍事的挑発は北朝鮮の国際的孤立を深めるだけだ。

拉致問題は、基本的に日本が独自に北朝鮮と交渉し、解決すべきものだ。ただ、日本は、その経過を米韓両国にも適切に伝え、核・ミサイル問題の対北朝鮮包囲網を崩さないことが大切である。

産経新聞 2014年07月04日

対北制裁解除 再調査を厳しく監視せよ

北朝鮮が日本人拉致被害者らの安否を調査する「特別調査委員会」を立ち上げるのに伴い、日本政府は独自に科してきた対北制裁の一部解除を決めた。

安倍晋三首相は「これはスタートでしかない」と表明した。調査の状況を厳重に監視し、政府の総力を挙げて拉致被害者ら全員の安全確保と即時帰国を実現させなければならない。

再調査と制裁解除をめぐる今回の日朝外務省局長級協議には、警察庁の担当者も同席した。日本側は特別調査委について、金正恩第1書記直属の国家安全保衛部の幹部が責任者を務めることなどをとらえ、強い調査権限を持つと判断したという。

再調査開始は前進ではある。だが、早期の制裁解除にはやはり疑問が残る。解除はあくまで調査結果に対して行われるべきだ。

首相は解除判断について「行動対行動の原則」を挙げた。結果を伴わない調査にとどまるようなら、再制裁を含めた厳しい対応をとるのは当然である。

過去の調査で、北は虚偽の報告を重ねてきた。拉致被害者の「8人は死亡」したとし、横田めぐみさんや松木薫さんのものという「遺骨」を出してきたが、日本側の鑑定で偽物と判明した。

北の言うことはそのまま信用できない。めぐみさんの母、早紀江さんは、制裁解除は拉致被害者8人の安否把握を前提とするよう政府に求めてきたが、それが「心配だ」と述べている。まずこの不安を解消しなければならない。

北は厳しい経済状況と非人道的行為への国際的非難の高まりに窮し、日本との交渉の席についた。日朝関係が突出し、各国との足並みを乱してはならない。拉致のほか核・ミサイル問題の解決にも国際連携は欠かせないからだ。

米国務省は制裁解除について、拉致問題解決に向けた日本政府の努力に理解を示す一方、「透明性のある協議」を求めている。

日本の単独制裁も北の核・ミサイル開発の阻止を目指す国連の安保理制裁強化が目的だ。拉致・核・ミサイルの包括的解決という日本の立場を明確にすべきだ。

拉致は人権侵害と主権侵害の国家テロである。被害者を少数ずつ帰国させ、その都度、経済支援を求めてくるような交渉に乗ってはならない。被害者全員の即時帰国こそ北に強く迫るべきだ。

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