小沢氏聴取 「秘書任せ」は疑問が残る

朝日新聞 2010年01月24日

小沢氏聴取 まだ残る数多くの疑問

小沢一郎・民主党幹事長が、自らの資金管理団体「陸山会」による土地取引をめぐる事件に関連し、東京地検特捜部の事情聴取に応じた。石川知裕衆院議員ら小沢氏の側近3人が逮捕された事件は、最大の山場を迎えた。

聴取に応じたのは、検察の要請から半月以上もたってからである。4時間を超える事情聴取を終えた小沢氏は記者会見し、初めて自らの口で事件について説明した。だが、なお多くの疑問が残った。

石川議員らの容疑は、陸山会が5年前に東京都内の土地を買った際、資金の4億円を収支報告書に「収入」として記載しなかったことだ。

東京地検が小沢氏からの聴取を要請したのは、次のようなことを明らかにする必要があったからだ。

まず小沢氏が、この容疑にどの程度かかわっていたのか。次に、小沢氏が貸し付けたというこの資金を、小沢氏はどこから工面したのか。特にゼネコンからの資金が入っていたのかどうか。最後に、土地取引に絡む複雑なカネの動きは結局、一種の資金洗浄だったのではないか、ということだ。

小沢氏は会見で、こう説明した。資金は自宅を売却した残金や家族名義の口座から引き出し、事務所の金庫に保管していた4億数千万円の一部だ。資金の事務処理や収支報告書の虚偽記載については関与していない。

しかし巨額の資金を長年、現金で置いていたことは常識では理解できないし、家族名義の預金のもとの出どころも不明だ。多額の利子負担を顧みず、4億円の預金を担保に銀行の融資を受け、それで土地代金を払ったように見せかけたことも知らなかったという。

東京地検は、小沢事務所が東北の公共工事をめぐり、ゼネコン談合組織の受注調整に強い影響力を持ち、多額の政治献金を集めていたとみている。

岩手県の胆沢ダム建設工事を下請け受注した中堅ゼネコンの元幹部から、石川議員らに計1億円を提供したという供述も得ているという。このうちの5千万円は土地取引の前に石川議員に渡され、その直後に陸山会の口座に同額が入金されているという。

資金洗浄を疑わせるカネの動きは、こんな疑惑を隠すためではなかったのか。東京地検が解明に力を入れているこの点について、小沢氏は「不正な裏金など一切もらっていない」とした。なお捜査の進展を見守るしかない。

有権者がこの事件で民主党への失望を感じているのは、小沢氏本人の関与のいかんにかかわらず、自民党時代と同じような「コンクリート政治」が、小沢氏周辺で続いていると感じているからだ。

国会で野党は、小沢氏に説明を求める構えだ。民主党はこれで一件落着とせず、堂々と応じるべきである。

毎日新聞 2010年01月24日

小沢氏聴取 「秘書任せ」は疑問が残る

報道陣がホテルに張り付く中、東京地検特捜部による民主党の小沢一郎幹事長への事情聴取が行われた。小沢氏が代表を務める資金管理団体「陸山会」をめぐる捜査は、新たな局面を迎えた。小沢氏は聴取後会見し自らの関与を全面否定、幹事長職を続ける考えを改めて表明した。

陸山会は04年10月、東京都世田谷区に土地を購入した。金融機関から借りた4億円を支払いに充てたと小沢氏側は従来、説明していた。だが、実際には、小沢氏が提供した別の4億円が充てられていた。

この4億円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、当時の事務担当者だった衆院議員、石川知裕容疑者ら3人が政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕された。

また、土地の購入と同時期、胆沢(いさわ)ダム(岩手県)の下請け工事を受注した中堅ゼネコン「水谷建設」元幹部らが「石川議員に5000万円渡した」と供述している。特捜部はこの金が土地購入に充てられた疑いがあるとみている。

ゼネコンからの裏献金を使い土地を購入し、それを取り繕うために報告書へ記載をしなかった--。その構図の解明が事件の核心で、小沢氏の関与が捜査の最大の焦点である。

小沢氏は会見で資金の流れなどを説明した。それによると、4億円の原資は自宅売却時の余剰金と家族名義のお金だという。水谷建設からの裏献金については、特捜部から聞かれたことを認め「他の会社も含め不正な金は一切受け取っていない。秘書たちも受け取っていないと確信している」と述べた。

金融機関からの融資や、報告書の虚偽記載は「事務処理に関与していないので分からない」「全く把握していない。報告を受けたこともない」とした。

この説明には疑問が残る。資金管理団体の代表として、土地購入に伴うこれだけ巨額の政治資金の出入りをすべて秘書任せにすることがあり得るのか。小沢氏本人も、記者団への説明資料で「常々、担当秘書には、政治団体の収支についてはきちんと管理し、報告するように言っていました」と述べている。

特捜部は小沢氏の聴取を受け、石川容疑者ら3人の供述との整合性などを検討するとみられる。民主党からは捜査に関しさまざまな声や動きが出ているが、検察は公正な立場でさらに捜査を尽くすべきだ。

小沢氏は「今後も国民のみなさんに必要に応じて説明したい」と会見で述べた。野党は小沢氏の国会での参考人招致を求めている。民主党は積極的に対応すべきではないか。鳩山由紀夫首相には腰を据えた国会対応を求めたい。

読売新聞 2010年01月24日

小沢氏聴取 全面否定でもなお疑問は残る

自らの資金管理団体による土地購入事件について、民主党の小沢幹事長がようやく東京地検の事情聴取に応じた。

小沢氏は黙秘権を告げられての4時間半の聴取後、記者会見し、疑惑を全面否定するとともに、幹事長続投を表明した。

だが、20分間余りの会見は質疑時間も不十分で、なお多くの疑問が残る。さらに詳しい事実関係の説明が必要だ。

捜査の焦点は、小沢氏が、土地代金の原資となった4億円を政治資金収支報告書に記載しない会計処理に関与していたか、4億円をどうやって捻出(ねんしゅつ)したかである。

小沢氏は会見で、収支報告書の記載内容については、「実務的な点まで立ち入って関与したことはない」と述べた。

先の民主党大会で「私どもが積み立ててきた個人の資金」と語った4億円の捻出方法に関しては、20年以上前に自宅を売買した際の残金や、家族名義の銀行口座から引き出したもの、と説明した。

これらの資金が計4億数千万円あり、この中から資金管理団体に貸し付けた、としている。

土地代金の原資には、ゼネコンからの裏献金など不正な資金は一切ない、と否定した。こうした内容を地検に説明したという。

小沢氏は厳しい世論の前に聴取を引き延ばすのは困難と判断し、聴取に応じたのだろう。

土地購入資金に関する小沢氏側の説明は、変遷してきた。

資金管理団体による不動産購入が問題視された3年前には「政治献金」、今回の疑惑が発覚した昨年10月には、資金管理団体の定期預金を担保にした「金融機関からの融資」だった。

党大会での釈明や聴取後の説明通りなら、不動産購入が問題となった3年前、記者会見で契約書なども示しながら語った内容は、一体何だったのか。

3年前の会見では、不動産購入は、「献金した人の意思を大事にし、有効に使う方法だ」と述べ、支援者の浄財を購入資金に充てたとしていた。しかも、会見時の資料の一部は、作成日を偽って直前に作ったことが判明している。

今度の説明こそ真実、と国民が納得できる根拠を示すべきだ。

一方、地検は小沢氏の聴取も踏まえ、逮捕した石川知裕衆院議員らの供述や押収資料の分析を続けるとみられる。

今後も厳正に捜査を進め、事件の背景も含め全容を解明しなければならない。また、捜査の節目では丁寧な説明も欠かせまい。

産経新聞 2010年01月24日

小沢幹事長聴取 異常事態の責任は重大 これからが検察の正念場だ

政権与党の最高実力者が国会の会期中に、任意とはいえ検察当局の事情聴取に自ら応じざるを得ないというきわめて異常な事態を迎えた。

小沢一郎民主党幹事長はその責任の重大さを認識しているのか。東京地検特捜部の聴取の目的は、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件への関与の解明だ。

この事件では、現職議員を含む側近3人が逮捕された。聴取により自身もその当事者となった小沢氏の政治的・道義的責任は、より明白になった。

小沢氏は聴取後の記者会見で、土地購入には自己資産4億円を貸し付けたと主張し、事件への関与を否定したが、なんら潔白の証明にはなっていない。

特捜部は疑惑解明に向けて、小沢氏本人にとどまらず関係者から事情を聴取すべきだ。これからが正念場である。小沢氏も国会での参考人招致に応じ、自ら疑惑解明の努力を行うことが政治家としての責務である。

今回の聴取は、東京都内の市民団体が提出した小沢氏に対する規正法違反罪(虚偽記載)の告発状を特捜部が受理したことから、黙秘権を告げた上で行う「被告発人聴取」だった。

≪「実務はすべて秘書」≫

問題の平成16年の土地購入では、購入直後に4億円の銀行融資が行われた。規正法違反(虚偽記載)で逮捕された石川知裕衆院議員は、原資を隠す偽装工作だったことを認めているようだ。

特捜部は、小沢氏が銀行融資の書類に署名したことが事件への関与を示すものととらえている。小沢氏は会見時の説明資料で、以前に陸山会が不動産を購入した際にも、個人での借入の形をとるため、担当秘書から求められて書類に署名したと主張した。

銀行口座への入金、土地代金の支払いなどは「すべて担当秘書が行い、具体的な処理は分からない」と述べた。16年の土地購入の所有権移転日を17年とした点も関知していないとした。

実務はすべて秘書の判断で行われ、複雑な資金操作などにかかわっていないことを強調したものだが、手持ち資金があって必要のない融資を受けるなど強い疑念が残っている。

特捜部は購入原資がゼネコンからの裏献金だったとの疑いを強めているが、小沢氏はゼネコンからの裏献金は一切ないと否定した。だが、岩手県の胆沢ダム建設をめぐり、重機土木大手「水谷建設」の元幹部が資金提供について具体的な証言をしている。

西松建設の違法献金事件の公判では、小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告が小沢氏の影響力を背景に、公共工事をめぐり「天の声」を発するなど政治と業界の癒着の実態が指摘された。

≪裏献金を完全否定≫

国民の税金で行われている公共工事を受注しようとゼネコンが裏献金を行えば、工事費などに上乗せされ、結果的に国民につけが回る。政治家の加担は国民への背信行為であり、それを断つためにも事件は解明されねばならない。

検察当局は過去、数々の政治家の資金問題に切り込んできた。自民党時代に小沢氏が師事した田中角栄元首相はロッキード事件で逮捕され、金丸信元副総裁の巨額脱税事件では検察と国税当局が協力して不正蓄財を摘発した。旧田中派の流れをくみながら「不正な資金はない」と言い切る小沢氏に対し、特捜部は土地購入疑惑を契機に政治とカネをめぐる違法行為にメスを入れたのだ。

首相が検察捜査に介入するような発言を繰り返し、政権内でも情報漏洩(ろうえい)の可能性を強調して検察やマスコミを牽制(けんせい)する動きが続いている。こうしたことは厳正中立な捜査を妨害し、疑惑解明を遠のかせている。

小沢氏に幹事長を続投させた鳩山由紀夫首相は「潔白だと言っていたから信じたい」と述べた。国民の信を失っている状況にどう対処するかが問われる。小沢氏は今後も捜査に協力する姿勢を示したが、国会や国民へのさらなる説明責任を果たしてほしい。

昭和60年に衆参両院でつくられた「政治倫理綱領」は、国会議員が「疑惑をもたれた場合にはみずから真摯(しんし)な態度をもって疑惑を解明」することや政治不信を招く公私混交を断つことを定めている。衆院議院運営委員長として制定した小沢氏は、綱領の目的である「国会の権威と名誉」を率先して守るべきだろう。

産経新聞 2010年01月22日

小沢氏の形式犯論 虚偽記載は重大な犯罪だ

民主党の小沢一郎幹事長は、自らの資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件について「本来ならばこの種の問題は形式犯だから、修正で済む」などと述べた。

小沢氏は16日の党大会でも「形式的なミス」で「何ら不正なお金ではない」と語っていた。23日行われる東京地検特捜部の参考人聴取に対し、小沢氏は形式犯を主張して幕引きを図ろうとしているのだろう。

小沢氏が主張する規正法違反の虚偽記載は形式犯ではない。政治資金をどこから得たかや、使途が何かを公表する政治資金収支報告書は、有権者にとって政治家の信頼度を測る重要な手がかりだ。虚偽記載は国民を欺く犯罪であり、かつ重大な背信行為といえる。

石川知裕衆院議員ら小沢氏の側近3人がすでに逮捕されているこの事件では、土地購入をめぐり銀行融資を受けた形をとるなど複雑な資金操作が行われ、故意に虚偽記載した疑いがある。

小沢氏はその疑惑の核心であり、単純ミスや形式ミスなどの言い訳は通用しない。

終戦間もない昭和23年につくられた政治資金規正法は抜け道が多い法律といわれたが、政治とカネをめぐる不祥事で政治不信が高まる度に法改正を重ね、罰則も強化された。

平成6年の政党助成法制定に伴って、収支報告書に虚偽記載した場合の罰則は、5年以下の禁固か100万円以下の罰金へと強化された。

平成15年には、1億円超の企業献金を収支報告書に記載しなかったとして、坂井隆憲元衆院議員が国会議員として初めて規正法違反容疑だけで逮捕された。検察当局が虚偽記載などの規正法違反を重大な犯罪とみている表れだ。

検察当局が西松建設の違法献金事件で小沢氏の公設第1秘書を逮捕・起訴した際、政治資金規正法の意義を「議会制民主主義の根幹をなすべき法律」と強調した。

だが、民主党内では小沢氏の主張に呼応するように、虚偽記載を軽視する言動が見られるのはきわめて残念だ。

21日に始まった衆院予算委員会の質疑で、鳩山由紀夫首相は小沢氏について「堂々と訴えるべき所へ行って、潔白を証明してもらいたい」などと述べた。首相も形式犯との認識があるなら、この党の政治不信への感覚を疑う。

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