毎日新聞 2014年07月03日
イラク情勢 国連は傍観するのか
イラク情勢が悪化の一途をたどっているのに、国連の動きが鈍いのが気になる。内戦と国家分裂の危機にあるイラクでは、多数の死傷者や避難民が出ている。シリアに続いてイラクでも事実上「打つ手なし」なら、特に国連安保理の存在価値が問われることになりはしないか。
イラクでは先月末、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が独立を宣言した。指導者をカリフ(預言者ムハンマドの代理人)と呼ぶ彼らは女性に厳しい規制を課し、シャリア(イスラム法)を導入して地中海東岸に「大イスラム国家」を樹立することを目指している。
無論、独立を認める国などあるまいが、「イスラム国」がスンニ派の不満を吸収して拡大する可能性は小さくないし、何よりこの組織が2001年の米同時多発テロを実行したアルカイダの系列であることを忘れてはなるまい。「独立宣言」を機に、アルカイダ系組織が「イスラム国」に合流する動きも出ている。
同時テロ後、米ブッシュ政権は、形のないテロ組織と超大国の構図で「非対称の戦い」を始めた。アフガニスタンでアルカイダと戦い、イラクにも攻め込んだ。そして米国が「テロとの戦争」に疲れ果てたのとは対照的に、アルカイダが今、着々と国をつくろうとしているのは歴史の皮肉というしかない。
だが、情勢を傍観していてはシリアの二の舞いになるだけだ。「シーア派偏重」のマリキ・イラク政権は評判がよくないが、民主的に成立した同政権を重視するのは当然である。米国はイラクに軍事顧問団を送って過激派空爆に含みを持たせ、ロシアはマリキ政権に対して攻撃機などの兵器供与を始めた。
他方、国連の潘基文(バンキムン)事務総長は先月下旬の講演で、空爆は逆効果になりかねないと述べ、イランやサウジアラビアに宗派間の橋渡し役となるよう求めた。だが、外交解決を図るのはいいとして、国連の取り組みが積極的とは言い難く、足並みの乱れも目立つ。
シリア情勢ではロシアと中国が安保理決議案に拒否権行使を繰り返し、安保理が機能不全に陥る中、死者は14万人、避難民は900万人を超えた(3月末現在)。イラク情勢も剣が峰だ。今月に入ってクルド人も自治区独立に意欲を見せ、「イラク分裂」が現実味を増している。
事態収拾へマリキ首相辞任も一つの方法だし、スンニ派の待遇改善も必要だ。だが、それで過激派が武器を捨てると思うのも甘いだろう。まずはどうやって「イスラム国」の拡大と進攻を食い止めるか。その問題の答えは、アラブ世界と相談しながら、安保理が探すしかないはずだ。
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読売新聞 2014年06月29日
イラク流動化 無秩序の拡大を食い止めたい
イラクの混乱が、国境を越えて急速に広がっている。中東全体の不安定化を避けるため、イラクと米国など関係国は、協力して事態の収拾を図らなければならない。
イスラム法に基づく新国家建設を標榜するスンニ派過激派組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」がイラク中・西部で都市や油田を制圧し、国境地帯からイラク軍部隊を排除した。
シリア国境付近では、シリアのアサド政権と対立するアル・カーイダ系テロ組織「ヌスラ戦線」が、ISISと共闘を始めた。二つの過激派が、国境が存在しないかのように両国を自由に行き来し、無秩序状態を作り出している。
危機感を抱いたシリア軍が、イラク国境地帯を空爆し、イラクがこれを歓迎した。シーア派とスンニ派の対立に根ざす両国の内戦の一体化と、複雑な対立の構図を印象づけるものだ。
こうした混乱に乗じるように、イラク北部の少数派クルド人が独自に油田管理や原油輸出を始めた。イラクの分裂につながりかねない、憂慮すべき動きだ。
ISISに、スンニ派の大国サウジアラビアなど湾岸諸国内から巨額の活動資金が流れているとされる点も問題だ。サウジがこの資金の流れを断つことが、混乱収拾への重要な一歩となろう。
ケリー米国務長官が中東・欧州訪問で、「イラクが国家存亡の危機に直面し、中東全体が脅威にさらされている」と警告したのは、当然である。地上部隊を投入する選択肢を排除した米国は、外交努力を加速させるべきだ。
米国は、穏健なシリア反体制派に対する資金援助を決めた。穏健派によるヌスラ戦線への牽制を通じて、ISISの力を殺ぐ狙いがあるのだろう。
同時に、米国の軍事顧問団の約180人がイラクでの任務を開始した。イラク軍の立て直しを図りつつ、ISISの組織や動向に関する情報を集め、将来の選択肢である「無人機による空爆」の目標も特定するという。
イラクの国家基盤が崩れる事態を防ぐため、米国は、イラクに影響力を持つ国や勢力の結集を目指しているが、実現可能なシナリオを描き切れていない。
ケリー長官はマリキ首相に、スンニ派やクルド人を含む挙国一致の内閣作りを改めて求めた。首相は国民融和を急ぐ必要がある。
日本政府はイラク避難民支援に約6億円の緊急援助を決めた。イラク安定に日本も協力したい。
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