ODA大綱改定 平和構築へ戦略性を高めよ

朝日新聞 2014年06月29日

ODA見直し 危うい軍への支援解禁

政府の途上国援助の基本方針であるODA大綱。この見直しに向け、有識者懇談会が岸田外相に報告書を出した。

これまで大綱が禁じてきた軍への支援でも、災害救助など非軍事目的ならば認めてよいとの提言が含まれている。

今年で60年を迎える日本のODAは、報告書が指摘するように「平和国家として世界の平和と繁栄に貢献してきたわが国の最大の外交ツール」であり、各国から高く評価されてきた。

それが軍への支援に踏み出すとなれば、従来の方針からの大きな転換である。

武器輸出三原則の撤廃、そして集団的自衛権の行使容認に向けた動き。安倍政権は「積極的平和主義」の名のもと、戦後日本が堅持してきた「平和国家」としての外交政策を次々と変えようとしている。

今回のODA改革も、その文脈にある。性急に結論を出すのは危うい。

台風、地震、津波。ODAの対象となる東南アジアの国々は自然災害と隣り合わせだ。昨年11月、フィリピンで約1千万人が被災したというすさまじい台風被害は記憶に新しい。

これらの国々で災害救助に大きな役割を果たす軍に対し、日本がその目的を限って支援することの意味がないとは言えないだろう。

とはいえ、日本がいかに非軍事という線引きをしても、その線がいつまでも維持される保証はない。それに、他国からみれば、軍への支援は「軍事支援」にほかならない。

政府はフィリピンなどへの巡視船供与に続き、軍民共用港の整備も検討しているという。南シナ海への攻勢を強める中国への牽制(けんせい)が念頭にあるならば、「力には力」の悪循環を招きはしないか。

厳しい財政事情を反映して、政府全体のODA予算はピークだった97年からほぼ半減した。効率を高め、国民の理解を得られるような改革は大いに進めるべきだ。

だが、それが途上国の発展やそこに住む人たちの福祉の向上というODAの本質を損なうことになってはならない。

軍への支援解禁を含む今回の大綱見直しの動きには、現地でさまざまな支援活動に取り組む多くの非政府組織(NGO)が懸念を表明している。

政府は、年内の新大綱決定前にこうした団体とも意見交換する予定という。これを形式的に終わらせてはならない。

積極的平和主義の一方的な押しつけは、禍根を残すだけだ。

読売新聞 2014年06月27日

ODA大綱改定 平和構築へ戦略性を高めよ

安倍政権の掲げる「積極的平和主義」を具体化するため、政府開発援助(ODA)も積極的に活用すべきだろう。

ODA大綱の見直しを検討してきた外務省の有識者会議が、岸田外相に報告書を提出した。11年ぶりの見直しで、政府は年末までに、新しい大綱を閣議決定する予定だ。

報告書は、ODAの基本方針の一つとして「非軍事的手段による平和の希求」を掲げた。

従来は、軍隊に対する支援は認めていなかったが、民生目的や災害救助などの非軍事目的の支援については、「一律に排除すべきではない」として、ケースによっては認めるよう提言した。

軍民共用の港湾や空港を整備したり、軍人を日本に研修に招いたりすることなどが想定される。

多くの国が軍隊を平和構築や民生目的に活用している。日本が重要な外交カードであるODAをこうした分野に使うのは、「積極的平和主義」の理念とも合致すると評価できる。

平和構築目的のODAでは、政府は、円借款により、フィリピンに巡視船10隻を供与することを決めた。ベトナムにも巡視船を供与する方向で検討している。

南シナ海では中国が力ずくの海洋進出を展開しており、両国の海上保安能力の向上を支援することは、日本の海上交通路(シーレーン)の安全確保にも資する。こうした戦略的なODAのさらなる拡大が欠かせない。

報告書は、ODAと国連平和維持活動(PKO)の連携強化も提言した。政府が昨年末に決定した国家安全保障戦略が同様の方針を示したことを踏まえたものだ。

PKOに参加する自衛隊が道路や施設を整備する一方、国際協力機構(JICA)がODAで国づくりを支援する。双方の取り組みが相乗効果を上げるよう、大いに知恵を絞りたい。

日本のODAは今年で60周年を迎えた。政府のODA予算は、1997年度の約1兆1700億円をピークに減少傾向をたどり、今年度は約5500億円とほぼ半減した。そろそろ、ODAの減少に歯止めをかけるべきだ。

報告書は、開発協力分野での民間資金の活用も求めている。

先進国から途上国に流れている民間資金は、ODAの2・5倍に上るとされる。政府のODAと日本企業の経済活動を有機的に組み合わせて途上国の社会資本整備を支援することは、日本の成長戦略にも沿うはずだ。

産経新聞 2014年06月29日

ODA大綱見直し 実効ある支援の出発点に

長年の懸案だった政府開発援助(ODA)のあり方が、大きく変わる見通しとなった。

外務省の有識者懇談会がODA大綱の見直しに関する報告書をまとめた。現大綱の「軍事的用途の回避」原則を緩和し、「民生目的、災害援助など非軍事目的」であれば他国の軍隊も支援できるように改正を勧めている。

日本を取り巻く国際環境が厳しさを増す中で、ODAにも戦略性が求められるようになっている。政府は時代の要請に応じた報告書の方向性を、年内に策定する新大綱に生かしてほしい。

「軍事的用途の回避」原則は非軍事面の支援まで妨げてきた。

例えば、各国の軍隊が担う災害救援任務への援助である。

大型台風など大規模自然災害の多発に伴い、どの軍隊もこの面の能力向上が急務となっている。だが、日本は従来、ODAで災害救援のノウハウや器材を提供しようにも、「他国の軍への支援」と見なされ、実現できなかった。

また、その国の経済発展や災害救援態勢の整備のため、港湾や飛行場の建設を手助けしようとしても、軍も滑走路を使うといった軍民共用の性格が少しでもあれば、対象から外されてきた。

「軍が関係しているがゆえに一律に排除すべきではなく、実質的意義に着目」するようにという報告書の指摘はもっともだ。

中国による海洋進出という現状変更圧力にさらされるベトナムやフィリピンに対しては、海上警察能力を向上させようと、ODAで巡視船の供与を約束している。

そのベトナムが昨年、巡視船を使用する海上警察を国防省から独立させた。日本のODA供与条件を満たさなかったからだ。

受け入れ国に負担を強いるODAでは意義も薄れよう。「軍事的用途の回避」に縛られすぎては変化に即応した援助は適(かな)わない。

ODA外交の今日的目標はこれらの国々を支え、法の支配などの価値観を普及させることに置かれるべきではないか。そうすることで、報告書が謳(うた)う「国際社会の平和、安定、繁栄の確保に積極的に貢献する」道が開けてくる。

一方で、日本が国際的に評価されてきた貧困削減や保健対策、気候変動など地球的規模の課題などへの取り組みも決しておろそかにしてはいけない。「戦略」と「民生」は両輪であるべきだ。

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