東京五輪計画 スポーツの未来図を

朝日新聞 2014年06月25日

東京五輪計画 スポーツの未来図を

2020年東京五輪・パラリンピックの会場計画が見直されることになった。

東京は昨秋、選手村を中心に8キロ圏内に会場の85%が収まる「世界一コンパクトな大会」を掲げ、招致に成功した。

国際公約である計画をむやみにいじるのは望ましくないが、大会後に活用されない「負の遺産」を残すようでは困る。

準備の進みぐあいを視察する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会の初視察が、きょうから始まる。広げすぎた風呂敷を率直に説明し、新たにスタートを切る好機としたい。

IOCも、ことさら立派で新しい施設を奨励しているわけではない。03年に五輪の肥大化を抑える提言をまとめ、「のちの利用も考えた規模」「既設・仮設の活用」を打ちだした。

今回、東京都が受けもつ施設の建設費だけでも、当初予定の1538億円が3800億円に膨らむことがわかった。

都は一部の会場建設をやめ、さいたま市などにある既存の施設を使う考えだ。IOCの思想にも沿った方針といえよう。

今回の見直しは舛添要一知事と大会組織委の森喜朗会長の話し合いで決まり、スポーツ界は蚊帳の外。政治主導が色濃い。

国内の競技団体からは「招致のときの約束を破るのは信頼を失う」との不満が聞かれる。

国立競技場、代々木、駒沢など都内の主要施設は、半世紀前の五輪の遺産だ。どれも老朽化し、今回の五輪で再生を願う気持ちは関係者の間に強い。

だが、立派な施設の建設を望むだけでは説得力が乏しい。これほど巨額の投資をスポーツ界が受けるのだから、長い視点で時代を読み解く必要がある。

日本の人口は減っている。東京も、五輪のある2020年をピークに人口が縮んでゆく。

その現実から目をそらさず、ポスト五輪の未来予想図をどう描くか。スポーツ振興の具体的な行動計画やビジョンを発信すれば、共感も広がるだろう。

例えば、国際大会を誘致すれば、スターの競演を子どもたちが見て、競技の楽しさを知る。ひごろは市民レベルの大会に施設を開放し、トップアスリートたちが指導する。そんな試みがもっと広がっていい。

スポーツ愛好者が増えれば、国民の健康増進に役立つ。医療費も抑えられるかもしれない。そうした市民の暮らしに根ざした目線に立つことで、施設計画の優先順位が見えてくる。

少子高齢化が進む社会でスポーツが果たす役割は何か。その構想力が問われている。

読売新聞 2014年06月28日

東京五輪計画 整備費の膨張防ぐ工夫が要る

東京五輪に投入できる財源は限られている。施設整備費の大幅な膨張が見込まれる以上、計画を柔軟に見直し、可能な限り費用を圧縮していく努力が求められる。

2020年東京五輪・パラリンピックの競技会場の計画が一部で変更されることになった。東京都が新設する10か所分の施設整備費などの見積もりが、当初の1538億円から約3800億円に増加することが分かったためだ。

建設資材や人件費の高騰が主な要因とされる。都は五輪資金として、4100億円の基金を有しているものの、施設整備費だけにその大半を充てれば、周辺の道路整備費などが不足してしまう。

舛添要一都知事が「適切かつ速やかに改める」と計画変更を表明したのは、もっともである。

見直しの対象として浮上している施設のうち、カヌー・スプリントとボート競技を行う水上競技場については、69億円のはずだった整備費が1000億円にまで膨らむ可能性が出てきた。

工法の変更で費用の圧縮を図るというが、当初の見通しが甘過ぎたことは否めない。

五輪後の活用が見通せないため、364億円をかけて整備する予定だったバスケットボールとバドミントン会場は、建設中止を検討する。賢明な判断だ。五輪施設は将来にわたり、スポーツ振興の拠点となることに意義がある。

他の施設の建設についても、コスト削減を図ってもらいたい。

東京は、選手村から半径8キロ以内に主要会場を集める「コンパクトな五輪」をアピールし、開催を勝ち取った。計画見直しで、会場の多少の分散は避けられまい。

12年のロンドン五輪などでも、計画の変更は行われた。東京五輪の準備状況視察のために来日した国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会は27日、「早い段階で改善の作業をすることは、非常に重要だ」と理解を示した。

大会組織委員会と都は来年2月までに、開催の基本計画をIOCに提出する。選手の利便性が著しく損なわれないよう留意し、各競技団体の理解を得て計画を練り直す必要がある。

政府が整備する新国立競技場についても、「巨大過ぎる」といった批判がある。

五輪のメイン会場だけに、IOCとの約束である8万人収容の規模は維持せねばならない。一方、当初より延べ床面積を2割以上縮小した設計案にも無駄な部分がないか、徹底した点検が必要だ。

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