司法取引 捜査の新たな切り札になるか

朝日新聞 2014年06月27日

司法取引 乱用を防ぐ手立てを

刑事事件の容疑者や被告が共犯者について話したら、自らの処分が軽くなる。そんな司法取引を採り入れることが現実味を帯びてきた。

いわば、容疑者に利益を与えて供述を引き出す手法を正当化するしくみだ。

無関係の人が罪を着せられたり、実際の関与より重い責任を問われたりするおそれがある。きわめて慎重に扱うべきだ。

自らの罪を認めたり、他人の犯罪について捜査協力したりしたら、処分が軽くなる司法取引は欧米で広く行われているが、日本は導入に慎重だった。

それがいま、刑事手続きを改革する法制審議会の部会で前向きに検討されている。

取り調べの録音・録画の制度化に伴い、供述を得るのが難しくなると心配する捜査当局が司法取引の導入を望んでいる。

検討されている対象は、汚職や詐欺、薬物・銃器犯罪など。共犯者など他人の行為について話す見返りに、不起訴、軽い求刑などの利益が与えられる。検察官と容疑者ら、弁護人が合意し、書面化するという。

容疑者を利益誘導するやり方は捜査現場で現にあり、いっそ制度化すべきだという指摘もある。複数がからむ事件で主犯者を確実に罰するため、指示に従っただけの人に口を開いてもらう効果はあるかもしれない。

そんな利点をふまえてもなお、懸念は残る。米国では、容疑者らの供述が、無関係の人を事件に引き込むことが少なくないと言われている。

その対策としてウソの供述を犯罪とする検討もされているが、十分だろうか。利益が確約されるなら、他人を悪く言って自分の罪を軽くしようとしたり、取調官が言う筋立てに迎合したりしても不思議でない。

取引で得た供述でかえって捜査が誤った方向に導かれる可能性もありうる。捜査当局も「新たな武器」と喜んでばかりはいられないはずだ。

乱用を防ぐには、取引の前後で供述がどのように変わったかを検証可能にすることだろう。この部分の取り調べの録画・録音は、逮捕されていようが在宅だろうが不可欠だ。

取り調べを適正にする改革で、逆に冤罪(えんざい)のきっかけを生んでは元も子もない。

導入されれば、裁判所の責任は重みを増す。取引で得た供述の信用性を、より厳しい目で吟味するのは当然のことだ。

取引をした被告に対して検察が求刑を軽くしても、きちんとふさわしい刑の重さを決める。それが裁判所の役割だ。

読売新聞 2014年06月26日

司法取引 捜査の新たな切り札になるか

警察・検察の犯罪捜査が、大きく変わる可能性がある。欧米で普及している司法取引が、日本にも導入される見通しが強まったためだ。

政府の法制審議会の部会では、導入賛成の意見が多数を占めている。法務省は、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。事件の真相に迫る上で、司法取引という新たな捜査手法を採り入れる意義は小さくない。

司法取引は、容疑者が首謀者の犯罪を明らかにするなど捜査に協力すれば、見返りとして、本人の起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする制度である。

振り込め詐欺や覚醒剤売買などの事件では、末端の容疑者を逮捕しても、首謀者まで捜査がたどり着けないケースが多い。司法取引で首謀者を特定できれば、犯罪の全容解明につながる。

談合や粉飾決算など会社ぐるみの経済犯罪の捜査にも有効だ。犯罪に加担した従業員から供述を得やすくなり、経営陣の刑事責任の追及が円滑に進むだろう。

今回の導入論議は、取り調べの録音・録画(可視化)の法制化を検討する中で浮上してきた。

可視化には、捜査官による供述の誘導や強制を防ぐ利点がある一方で、容疑者がカメラを意識し、供述を渋る弊害も指摘される。

今後、可視化を本格的に実施する場合、司法取引で供述を引き出す仕組みを作っておけば、捜査力の低下をある程度食い止める効果が期待できよう。

司法取引の対象から殺人などを除外し、薬物・銃器犯罪や詐欺・汚職などに限定する方向で議論が進んでいるのは妥当と言える。殺人の共犯者が捜査機関との取引によって軽い刑になることに、被害者側の抵抗感が根強いためだ。

懸念されるのは、容疑者が自らの刑を軽くしてもらおうと、他人に罪を着せる虚偽の供述をする恐れがあることだ。冤罪えんざいを生んではならない。

法務省が示した試案では、対策として、司法取引の際に容疑者の弁護士の同意を必要としている。虚偽供述に対しては、5年以下の懲役という罰則も設けているが、これらだけで十分だろうか。

警察・検察が供述の裏付け捜査を徹底する必要がある。裁判所も公判で供述の信用性を厳正にチェックすることが求められる。

暴力団が絡む事件では、組員らが報復を恐れ、捜査に協力しないケースも出るだろう。司法取引は万能でないことも、捜査機関は念頭に置くべきだ。

産経新聞 2014年06月28日

司法取引 組織犯罪解明に期待する

捜査協力を受けた見返りに、検察が容疑者の起訴を見送ることなどができる「司法取引」が法制化される見通しだ。

司法取引は、取り調べの録音・録画(可視化)で供述を得ることが難しくなるとして、捜査機関が導入を求めていた。振り込め詐欺など、組織が関わる犯罪の捜査に効力を発揮することが期待できる。

捜査機関には、新たな捜査手法を切り札として、社会の公正と安全を守ってほしい。

導入が見込まれるのは、(1)共犯者の犯罪を解明するために供述した容疑者らと起訴の見送りや取り消しの合意ができる「協議・合意制度」(2)自らの犯罪について捜査機関が知らない新事実を話せば刑を軽くすることができる「刑の減免制度」(3)公判での証人尋問請求に際して証言が証人の不利益にならないと条件をつけられる「刑事免責制度」-の3つだ。

横行する振り込め詐欺などの特殊詐欺では、現金の受け取り役などを摘発しても上部へたどることは困難を極める。贈収賄、横領などの会社犯罪や、薬物・銃器などの暴力団犯罪でもそれは同様だ。事件の全容を解明するための新たな手段が必要だった。

司法取引は欧米で広く取り入れられ、企業犯罪やマフィア対策に効果を発揮している。外国での事例も参考に、効果的な運用を模索してほしい。

導入に伴い、取引に応じた容疑者をどう保護するかが課題となるほか、自分の罪を軽くするための虚偽の証言で冤罪(えんざい)事件が作り出される可能性もある。

これらの対策として、司法取引の際には弁護士の同意を必要とし、虚偽の供述には罰則を設けることも検討されている。

課題を克服しつつ、それでも、捜査機関には多種多様の犯罪集団と対峙(たいじ)してもらわなくてはならない。取り調べの可視化は、冤罪防止に一定の効果が望める一方で、真相に迫る供述は確実に得られにくくなる。

捜査機関を弱体化させては、治安の維持という最大の責務を全うすることはできない。司法取引はそのための新たな武器だが、一つの手段にすぎないともいえる。

可視化や司法取引導入論議のきっかけとなった大阪地検特捜部による冤罪事件などを反省し、捜査機関が真に正しく強い組織であることが何よりも重要である。

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