沖縄慰霊の日 政治の想像力が足りぬ

朝日新聞 2014年06月24日

沖縄慰霊の日 犠牲者に誇れる平和か

沖縄はきのう、慰霊の日を迎えた。

69年前の沖縄戦最後の激戦地、摩文仁(まぶに)の丘であった追悼式で、安倍晋三首相は米軍基地の負担軽減にふれ、「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、できることはすべて行う」と約束した。

「鉄の暴風」と表現される米軍の猛烈な艦砲射撃や空襲。日本兵に殺されたり、集団死に追い込まれたりした住民もいた。沖縄戦は住民を巻き込んだ地獄だった。犠牲者は日米合わせて20万人を超えた。

慰霊の日は、「本土防衛の捨て石」となった沖縄の悲劇を後世に伝え、平和を誓う日だ。

そんな苦痛の記憶を抱える沖縄県民の多くにとって、安倍政権の進める外交・安全保障政策は、「気持ちに寄り添う」どころか、不安をかき立てる。

昨年暮れ、特定秘密保護法が成立。今年4月、武器輸出三原則を緩和し、輸出禁止政策を放棄した。そしていま、集団的自衛権行使容認に向け、憲法解釈変更の閣議決定を急ぐ。

政府は、日本を取り巻く安全保障環境の変化を指摘する。尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化など、不穏な空気が存在しているのは事実だろう。

だが、現在でも国内の米軍基地の74%が集中する沖縄に、さらなる負担を押しつけていいのか。普天間飛行場の移設先を名護市辺野古にすれば、負担増にしかならない。

一方、集団的自衛権の行使が認められれば、沖縄の自衛隊もさらに強化されるのではないかと心配する声が沖縄にはある。

米軍に加えて自衛隊まで出撃基地となれば、沖縄の軍事的負担はさらに増す。他国から攻撃される危険性が高まり、沖縄をさらに国防の最前線へと押しやることになるのではないか。

きのう、沖縄戦に動員された瑞泉(ずいせん)学徒看護隊の生存者、宮城巳知子(みやぎみちこ)さん(88)の証言を記録した映画「17才(さい)の別れ」が県平和祈念資料館で初上映された。

軍医から重傷者を毒殺するよう命じられ、注射を打つふりをしてごまかしたことなど、当時の過酷な体験を全国から来る修学旅行生らに語り続けてきた。だが近年、体力の衰えで講演を断ることも増えたため、証言の映画化に協力した。

その宮城さんは「本土の方は沖縄戦のことをご存じない。もっと知って戦争をなくすことに協力して」と訴える。

沖縄に負担を強いて成り立つ今の平和は、20万の犠牲者に誇れる平和だろうか。国民全員がそう問いかけられている。

毎日新聞 2014年06月24日

沖縄慰霊の日 政治の想像力が足りぬ

沖縄は23日、太平洋戦争末期の沖縄戦で旧日本軍の組織的戦闘が終結した日とされる「慰霊の日」を迎えた。沖縄戦は3カ月に及ぶ凄惨(せいさん)な地上戦で、犠牲者は日米で20万人を超え、このうち約9万4000人は沖縄の一般住民だった。沖縄は戦後27年間の米国統治を経て本土復帰したが、今も過重な基地負担に苦しむ。

戦後69年たち、国民の約8割が戦後生まれだ。戦争の記憶をいかに風化させないか、沖縄の痛みに寄り添えるか。政治はもちろん、私たち一人一人が意識しなければ、難しい時代に入っていくだろう。沖縄の苦悩を人ごとにせず、想像力を持って基地問題などの解決に取り組む必要がある。

戦没者追悼式には、安倍晋三首相、沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事、ケネディ駐日米大使らが出席した。

首相のあいさつは昨年と同じく沖縄振興や基地負担軽減に言及した内容だったが、知事の平和宣言は大きく変わった。昨年まで3年連続で主張した「一日も早い普天間飛行場の県外移設」は、「県外への移設をはじめとするあらゆる方策」を求める柔軟姿勢に変わった。「日米地位協定の抜本的見直し」は姿を消した。

知事は昨年末、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う埋め立てを承認した。平和宣言にも安倍政権との協調ぶりがにじんだ。ところが、県民の辺野古移設への反対は根強い。移設先となる名護市の市長選では反対派市長が再選を果たした。

安倍政権は、地元の民意に反する形で、辺野古移設の手続きを着々と進めている。今年11月16日に投開票される沖縄県知事選の前に既成事実を積み重ねておきたいのだろう。

国民の理解が得られないまま安全保障政策を推進する政権の姿勢は、集団的自衛権の問題でも顕著だ。

米軍と自衛隊の前線基地となる可能性が高い沖縄では、集団的自衛権への反発が強い。それにもかかわらず首相は、追悼式後、集団的自衛権について「政治の責任として、決めるべき時には決めていきたい」と記者団に語った。

首相が記者会見で集団的自衛権の行使容認の検討を指示した5月15日は、沖縄が42年前に本土復帰した日だった。

県民が戦没者を慰霊したり、本土復帰を振り返ったりする日に、国の指導者が集団的自衛権への意欲を語る。大詰めを迎えている集団的自衛権を巡る与党協議は、現実的な安全保障論というよりは、自民、公明両党の字句修正に終始している。

集団的自衛権を巡るこうした経緯もまた戦争の記憶の風化と無縁ではないように見える。政治の想像力の欠如を危惧する。

読売新聞 2014年06月24日

首相沖縄訪問 米軍基地負担を着実に減らせ

沖縄の米軍基地負担を着実に軽減するため、政府は全力で取り組まなければならない。

太平洋戦争末期の沖縄戦の終結に合わせた「慰霊の日」の23日、安倍首相は、沖縄全戦没者追悼式に出席した。

あいさつで、沖縄県内の基地負担軽減について「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、『できることは全て行う』との姿勢で全力を尽くす」と強調した。

仲井真弘多知事は昨年末、米軍普天間飛行場の辺野古移設に伴う埋め立てを承認した。式典の平和宣言では、3年連続で「県外移設」を訴えてきたが、今年は県外に固執しない表現に変えた。

沖縄県では依然、県外移設を求める声が根強い中、苦渋の判断をした仲井真知事を支えるためにも政府は、様々な基地負担軽減策をきちんと実行する必要がある。

仲井真知事の任期満了に伴う11月の知事選では、普天間問題が大きな争点となろう。辺野古移設に反対する保守系市長が出馬の構えを見せる一方、知事は3選出馬に関して態度を保留している。

知事選結果が辺野古移設に与える影響を最小限にするため、可能な手を打つことが重要である。

政府は、埋め立て予定地のボーリング調査を7月にも開始し、代替施設の工事をできる限り前倒しする方針という。設計・工事期間の短縮を図り、「2022年度以降」とされる普天間飛行場の返還を早めるべきだ。

日米両政府は先週、埋め立て予定地を含む周辺水域を常時立ち入り禁止とすることで合意した。

反対派による妨害を排除し、不測の事態を避けるにはやむを得ない。作業を円滑に進めるため、防衛省だけでなく、警察、海上保安庁など関係機関が連携し、万全の体制をとることが求められる。

政府は、「24~25年度以降」とされる牧港補給地区の返還の大幅繰り上げも検討している。

返還予定の米軍基地内の環境調査を事前に行えるようにする新たな協定の締結に向けた日米交渉も行っている。事実上の日米地位協定の改定に当たるもので、実現すれば、その意義は大きい。

普天間飛行場に配備されている米軍輸送機MV22オスプレイの訓練についても、県外への分散移転をさらに拡大したい。沖縄の過重な負担を日本全体で引き受けることが大切である。

在沖縄米軍の抑止力を維持しつつ、地域振興とも連動した基地再編を進めることが、安倍政権と地元の信頼関係を強化しよう。

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