都議会ヤジ 「品位」以前の問題だ

朝日新聞 2014年06月21日

都議会の暴言 うやむやは許されぬ

議場が公の場であることをわきまえず、汚いヤジを飛ばして恥じることがない。名乗り出る潔さすら、持ち合わせない。

そんな人が首都の議会にいるとは情けない。

東京都議会の本会議。塩村文夏(あやか)議員が、東京は全国でとびぬけて晩婚晩産だと指摘し、妊娠・出産・育児に悩む女性への支援の充実を訴えていた。

そこへ、男の声で「早く結婚した方がいいんじゃないか」などとヤジが飛んだ。

塩村氏が絶句すると、議場に冷笑が広がった。暴言の出どころと疑われた会派の幹部は「臆測で言われても困る」と、発言者を特定せずに幕を引こうとしている。

発言そのものも、事後の対応も、二重三重に罪深い。

まず、少子化は、子どもを産み育てることを難しくしている社会構造の問題だ。

それを、ヤジの主は「あなたが産めば解決する」と個人の問題にすりかえた。

世の女性ひとりひとりに「あなたが産まないのが悪い」とメッセージを送ったに等しい。

晩婚や晩産は男女双方の問題であるのは当然だが、そういう認識もまるで感じられない。

この無理解こそ、既婚の女性に仕事か子どもかの二者択一を迫り、未婚の女性に結婚をためらわせる元凶ではないか。

このまま発言者を特定もせずにうやむやにすれば、議会として暴言を許容したことになる。不心得な議員が一部にいたという話にとどまらなくなる。

議員たちは選挙を通じて住民らに選ばれた代表である。その姿勢は、世の中の空気を映していると受け取られる。

妊娠や出産の悩みを語ったり支援を求めたりすると、こんな仕打ちにあうのか――。

職場や家庭で悩みを抱えている女性たちを、そんなふうに萎縮させる。そして、社会の難題の解決をますます遅れさせる。それがなにより罪深い。

猪瀬直樹前知事のカネの疑惑の際は、あれほど厳しく「都民をなめるな」「自らえりをただせ」と迫った都議会である。自浄作用を働かせることを強く求めたい。

塩村氏のツイッターへの投稿は、1日のうちに約2万回もリツイート(転載)され、全国に怒りが燃え広がった。

ふつうの生活者の怒りが目に見える時代になった。あっという間に議員たちを取り囲んだ。救いはそこにある。これを教訓に、公に発言する責任の重さを全国の一人でも多くの議員にかみしめてもらいたい。

毎日新聞 2014年06月27日

視点:幕引き都議会 惰眠の府が演じた醜態=人羅格

反省どころか隠蔽(いんぺい)に等しい。東京都議会の女性蔑視ヤジ問題は発言議員は懲罰を受けず、他のヤジの発言者も特定されないまま「再発防止決議」で議会が幕引きを図る事態となった。

首都の議会が演じた醜態は地方議会全体の問題でもある。だが、都議会が都道府県議会の中でもとりわけ改革努力に乏しく惰眠をむさぼってきた議会であることは指摘しておきたい。

人権侵害のヤジを制止するどころか、笑い声すら起きた議場そのままの決着だ。一部報道によると、発言を認めた鈴木章浩議員に議場での謝罪を求める動きに「人権侵害だ」と反対があったというのだからおそれいる。幕引きを急いだ都議会自民党を支えたのは数の力でうやむやにする発想だろう。

議会の自浄能力の欠如を象徴したのが、ヤジを受けた塩村文夏議員が地方自治法133条に基づき当初提出した発言者の処分を求める要求書を議長が受理しなかったことだ。「発言者が特定できない」ことが理由というが条文上、受理は可能だった。その後鈴木議員が発言を認めたが、今度は会議規則に「(懲罰動議は)事犯があった日から3日以内に提出」とあるため懲罰は封じこまれてしまった。

「首都の言論の府でさえこれでは……」とは多くの人が抱く印象だろう。だが、現実は都議会は全国的にみても改革が遅れた議会だ。早稲田大マニフェスト研究所が情報公開、住民参加などから毎年集計する地方議会の改革度で都議会は47都道府県中42位に過ぎない。

1990年度以降、議員提案で制定された政策に関する条例は二つだけだ。議会改革に向け、多くの地方議会が定める議会基本条例も未制定だ。つい最近も議員提案で四つの政策条例を可決した横浜市議会などと比べ、活動には雲泥の差がある。

「国会議員を目指しての腰掛け気分や、気位ばかり高い議員が多い」とある首長は手厳しい。首都・東京が待機児童対策や超高齢化への対応で立ち遅れてきたのは都議会の怠慢にも責任の一端があるのではないか。

都議会事務局はここ数日、抗議電話の対応に忙殺されている。だが、都議127人を昨年、過去2番目に低い投票率で選んだのは都民自身でもある。

鈴木議員が一転、発言を認めた要因はネットなどを通じた批判の広がりだろう。年間約1700万円の報酬に値する行動を議員に促すのであれば、住民が関心を持続する以外にない。住民の直接請求による議会解散、議員解職手続きも地方自治法にはちゃんと定められている。(論説委員)

読売新聞 2014年06月24日

都議会ヤジ問題 セクハラ謝罪で収拾できるか

なぜ、もっと早く名乗り出て、謝罪できなかったのだろうか。

東京都議会で、みんなの党の塩村文夏都議が質問中に浴びせられたヤジの問題である。

18日の本会議で、塩村氏は、晩婚・晩産の傾向が進み、不妊治療を受ける女性が増えている現状を踏まえ、都の子育て支援体制などについて質問した。

その際、議場から、男性の声で「早く結婚した方がいいんじゃないか」というヤジが飛んだ。別の声で「まずは自分が産めよ」「産めないのか」といった不規則発言も続いたという。

議場では、ヤジを面白がるような笑い声さえ上がった。

ヤジの張本人や同調した議員の不見識には、あきれるばかりだ。子どもを産みたくても産めない女性や、不妊治療を続ける夫婦には、どう聞こえただろうか。

「ヤジは議会の華」とも言われ、核心を突いたヤジが議論を活性化させることもある。だが、個人の尊厳を傷つけるセクハラ発言が許されないのは、当然である。

23日になって、自民党の鈴木章浩都議が、最初にヤジを飛ばしたことをようやく認めた。塩村氏に面会し、「ご心痛をおかけして誠に申し訳ない」と頭を下げた。

鈴木氏は記者会見で、「誹謗ひぼうするつもりはなかった。謝罪する機会を逸してしまった」と釈明し、「逃げていたと言われても仕方ない」と述べた。

都議会自民党の吉原修幹事長も「事の重大性を深く受け止める」と、会派代表として謝罪した。

鈴木氏はこれまで、ヤジへの関与を一貫して否定していた。騒ぎが大きくなり、名乗り出ざるを得ない状況に追い込まれたということだろう。

鈴木氏は、発言の責任を取り、会派を離脱したが、都議としての活動は続けるという。

塩村氏は、鈴木氏の謝罪について、「少しほっとした」「一つの区切りがついた」と語った。

一方で、鈴木氏以外の発言者が名乗り出ていないことに対しては、「一人だけで終わるというのは違うんじゃないか」と疑問を呈した。ヤジの内容のひどさを考えれば、もっともである。

問題を収束させるには、ヤジを飛ばした他の都議も自らの発言にけじめをつける必要がある。これ以上、頬かぶりは許されまい。

都議会には抗議が殺到している。議会の品位が問われていることを自覚し、各会派は再発防止に努めなければならない。

産経新聞 2014年06月27日

女性蔑視発言 これで幕引きは甘すぎる

「セクハラヤジ」などと報じられているが、これは明確な、女性蔑視発言である。

晩産化対策や出産支援について質問中の塩村文夏都議が女性蔑視のヤジを受けた問題で、都議会は再発防止を誓う決議案を採択したが、ヤジの発言者の特定を求める決議案は否決した。これで幕引きを図るつもりらしい。

発言を疑われている自民党はそれでいいのか。このままうやむやで終わればいいとの判断があるとすれば、甘くはないか。

問題のヤジは、18日の都議会本会議での質問中、みんなの党の塩村都議に対し「早く結婚した方がいい」「まず自分で産めよ」などの声が飛んだとされる。

不妊に悩む人はこれをどう聞いたか。不快であり品性のかけらもない。残された映像ではこの直後、議場は笑いに包まれた。信じがたい光景である。

塩村都議は地方自治法に基づき発言者を特定するよう要求したが、議長側はこれを受理しなかった。23日になって自民党の鈴木章浩都議が発言を認めて謝罪し、会派離脱を表明したが、「早く結婚-」以外のヤジについては否定した。これを受け都議会自民党は会派の全議員に聞き取り調査し、「鈴木氏以外のヤジを聞いた人はいなかった」と結論づけた。

だが鈴木氏自身、当初は「私ではない」と党の調査に虚偽の回答をしていたことを認め、近くの議員も「聞いていない」と答えていたとされる。今さら調査結果など信じようがない。別の声によるヤジも多くの議員が聞いている。

みんなの党は声紋分析を行うとしているが、これも異常だ。議場での発言である。殺人事件なみの捜査を必要とするはずもなく、発言者本人と周囲にいた都議の多くは、ただ口を閉ざしているだけなのだろう。

首都の議会に自浄作用がないとすれば、恥ずかしい限りだ。

安倍晋三首相は「女性の活躍推進」を成長戦略に掲げている。舛添要一都知事は所信表明で、「家庭と両立しながら社会で活躍したい女性の力を最大限引き出す」と訴えた。ヤジは、いずれの政策をも否定するものだ。

鈴木氏が名乗り出たのは、党本部の意向が強く反映したらしい。今後も自ら問題の解決を図れないなら、都議会自民党は恥の上塗りを内外に示すことになる。

毎日新聞 2014年06月24日

ヤジ議員判明 説明にもあきれ果てる

こんな説明で幕引きなど、あり得ない話だ。東京都議会で塩村文夏(あやか)議員(35)が女性蔑視のヤジを浴びせられた問題で都議会自民党の鈴木章浩議員(51)が「早く結婚した方がいい」と発言したことを認め、謝罪した。

鈴木氏は発言の責任を取るとして会派からの離脱を表明したが、議員辞職は否定した。他のヤジの発言者はまだ特定されておらず、都議会は対応が鈍い。自民党も含め、国際的に日本の印象を傷つけた言動に明確なけじめをつけるべきだ。

非常識なヤジから5日を経て、やっと当事者が発言を認めた。鈴木氏は記者会見で「反省」を連発、塩村氏に深々と頭を下げ謝罪した。

だが、その説明はあきれるような内容だった。まず問題なのは鈴木氏が自身のヤジについて「単に早く結婚してほしいという思いで発言した」と釈明したことだ。音声で記録された鈴木氏のヤジは塩村氏を中傷する意図から発せられたことは明らかだ。結果的に問題だったと言わんばかりの説明では反省を疑う。

週明けまで名乗り出なかったことへの「話す機会を逸した」との説明もしらじらしい。鈴木氏は当初からヤジの発言者との見方があったが、報道各社の取材に発言を否定、ウソをついていた。騒動が拡大する中で「声紋」分析まで浮上、隠し通せないと観念したのが実態ではないか。

毅然(きぜん)とした対応を取らず、手をこまねいた都議会も同罪だ。議場でヤジを制止せず、塩村氏が地方自治法133条に基づき議長あてに提出した発言者の処分を求める要求書も受理すらしなかった。ヤジの発信源と指摘されながら厳しい確認を怠った都議会自民党の対応も異常である。

発言者が特定されない間にヤジ問題は海外でも報じられ「日本には女性に対する人権感覚が欠如しているのではないか」との疑惑の目が国際社会から向けられた。「産めないのか」など、あったとされる他のヤジの発言者もなお特定されていない。鈴木氏の言動に今後、どのように対応するかも含め、都議会の姿勢が厳しく問われよう。

自民党の石破茂幹事長は鈴木氏のヤジを「党の責任者としておわびする」と謝罪した。今回の発言や事後の会派の対応を見る限り同党には女性の社会進出に理解が足りず、差別的な価値観を押しつける体質があるのではないか、との疑念を抱かざるを得ない。

さきの石原伸晃環境相の「金目」発言もそうだが、一連の国政選挙や都議選での自民大勝のおごりも言動に影響しているのではないか。本当に事態を重視しているのであれば党首である安倍晋三首相(総裁)こそ党による収拾を主導しなければならない。

毎日新聞 2014年06月21日

都議会ヤジ 「品位」以前の問題だ

これが首都の議会か。こうあきれた人も多いだろう。

東京都議会みんなの党会派の塩村文夏(あやか)議員(35)が本会議で一般質問の最中、議場からセクハラというべきヤジを浴びせられた。さらには、その発言者がなかなか名乗り出ないという異例事態である。

不作法だとか品位を欠くといったこと以上にこのヤジの根は深い。

近年、政治や行政が女性の社会進出、子育て支援などを力説しながら、一皮むけば、このような不見識や偏見が今もあっさりと顔をのぞかせるのではないか。意識変革の遅れを今回の問題は示唆する。

塩村議員が質問に立ったのは18日。女性の妊娠・出産をめぐる都の支援体制などを取り上げた。

塩村議員によると、ヤジは男性の声で「自分が早く結婚した方がいいんじゃないか」「まずは、自分が産めよ」「産めないのか」などと言った。声は最大会派の自民党席あたりから聞こえたという。だが、発言者の特定には至っていない。

社会各分野で指導的地位の3割以上を女性にするという目標を掲げるなど、安倍政権は女性の社会進出と活躍の機会拡大を「成長戦略」の柱にしている。そのためには、子育て支援充実など課題は多岐にわたり、男女の緊密な協力が支えとなる。

その理念や取り組むべき課題を踏まえていれば、議場で今回のようなヤジが飛ぶはずもない。驚くべき無理解というほかはない。

過去においても、政治家の問題発言はあり、例えば、2007年には当時の柳沢伯夫厚生労働相が「女性は産む機械」とたとえて、厳しい批判を受けた。

政治家らの認識も高まったはずだが、今回のような問題が起きるとむなしい。

一方、都議会(定数127)全体の対応の鈍さはどうしたことか。

ヤジが飛んだ時、議場には笑い声さえ上がったといい、たしなめたりする様子はなかったという。

問題化しても、ヤジを飛ばした当人がすぐに名乗り出ないという事態も異例なら、周辺に座っていてヤジの発声を間近に聞き、発言者を特定できるであろう議員がいない、というのも納得できない。

この悪質なヤジに議会がただちに反応し、発言者不明なら超党派で徹底調査するぐらいの即応力を発揮していれば、ここまで議会不信の傷は深くならなかったかもしれない。

みんなの党会派は、ヤジの主が自ら名乗り出ないなら、声紋分析も考えるという。そのような事態になる前に、議会自らが主体的に解明し、この苦い体験を今後に生かすべきではないか。

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