石原「金目」発言 政府の本音がのぞいた

毎日新聞 2014年06月18日

石原「金目」発言 政府の本音がのぞいた

原発事故の放射能汚染に追われ、困難な生活を続ける住民の心情を逆なでする発言である。政治家としての資質を疑わざるを得ない。

東京電力福島第1原発事故の除染で出た汚染土などの中間貯蔵施設建設を巡る被災地との交渉に関し、石原伸晃環境相が記者団に「最後は金目(かねめ)でしょ」と語った。交付金や補償金で解決できるという政府の本音がのぞいたと被災住民は受け止めたことだろう。佐藤雄平・福島県知事が「原発災害の厳しい状況を分かっているのか」と批判したのは当然だ。

石原環境相は「金で解決できるなんて一言も言ったことはない」と釈明し、陳謝した。しかし、石原環境相自身は、中間貯蔵施設の地元住民向け説明会に一度も出ていない。一刻も早く現地を訪れて謝罪し、発言について説明を尽くす責任がある。

政府は同県双葉、大熊の2町の土地計約16平方キロを取得して施設を整備する方針だ。汚染土などは仮置き場に保管されており、来年1月の一部供用開始を目指している。

政府は2町の住民らを対象とした説明会を5月末から計16回開いた。石原環境相の発言は、最後の説明会の終了翌日、首相官邸で菅義偉官房長官に中間貯蔵施設の今後の予定などを報告した後に飛び出した。

政府側は説明会で、県外での最終処分の道筋や国有化する際の補償額などについてあいまいな姿勢に終始した。地元の理解を得られたとは言い難く、政府は住民の生活再建や風評被害対策に使える自由度の高い交付金の創設などを検討している。

石原環境相は発言を「最後は用地補償額や生活再建策、地域振興策の金額を示すことが重要な課題になるという趣旨だった」と説明する。

だが、発言は原発推進のため巨額の交付金を立地自治体に拠出してきた旧来の政治手法をほうふつとさせる。米軍普天間飛行場の移設問題が争点となった今年1月の沖縄県名護市長選で政府は、移設容認派が有利になるよう振興策を打ち出した。しかし、不発に終わった。金で受け入れを迫る発想は時代遅れだ。

石原環境相に住民に寄り添う気持ちがあれば、「金目」などという言葉が出てくることはなかったはずだ。自民党幹事長時代、福島第1原発をオウム真理教の施設「サティアン」になぞらえた発言をし、釈明に追われたことを忘れたのだろうか。

中間貯蔵施設の候補地周辺で、津波で行方不明になった子どもを捜し続けている親もいるという。施設の建設は、住民が生まれ育った土地を失うことにつながる。

政府が住民の心情を受け止め、地元から信頼される存在にならなければ、建設交渉が進むはずはない。

産経新聞 2014年06月20日

石原環境相 寄り添う気持ち忘れたか

政治家が「最後は金目(かねめ)でしょ」と口にすれば、カネの多寡で異論を抑えようとしている-と取られても仕方ない。

東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の中間貯蔵施設をめぐり、石原伸晃環境相が福島県との交渉が難航している状況をこう語った。

地元などから厳しい反発を招き、国会では野党が参院に問責決議案を提出した。軽率かつ無神経な発言であることは言うまでもない。そもそも気になるのは、この件に関する安倍晋三政権の問題意識が低いように感じられることだ。

首相は毎月、被災地訪問を重ねてきた。「被災者に寄り添う」「福島の再生なくして日本の再生なし」と繰り返してきたことが、担当閣僚の一言で無になりかねない。そういう危機認識を欠いたまま、今後の復興や地元との交渉に臨めるのだろうか。

19日の参院環境委員会で、石原環境相は発言について謝罪し、撤回した。当初は「記者会見での発言ではない」として撤回を拒んでいた。「住民説明会では補償の話が多かった」と、発言を正当化するような釈明ぶりもみられた。

この間、菅義偉官房長官は問題発言があった16日の夜に、石原環境相に対して「誤解されないようにするのが当然」と電話で指示したという。事の重大性から判断すれば、菅氏や安倍首相が石原環境相を官邸に呼び出し、発言の撤回や現地での謝罪などを直ちに指示すべきだった。

地元側の反発は誤解に基づくものではない。金銭的解決に露骨に言及すれば政府への信頼は損なわれる。信頼関係が壊れれば、中間貯蔵施設の交渉はさらに難航しかねない。石原環境相が、現地で16回行われた住民説明会に一度も出席していないとの批判もある。

すでに国会会期末を迎え、法案審議に大きな支障はない。問責決議案が出ても、与党多数で否決することができる。そうした計算があって厳しい対応をとらなかったとすれば、政権のおごりや緩みを示すものといえる。

石原環境相は、皇居での国賓の歓迎行事に出席できるのに欠席し、参院環境委員会に遅刻するなど問題行動が続いている。内閣としての緊張感の欠如と指摘されてもおかしくない。任命者である安倍首相も、責任を免れない問題であることを指摘しておきたい。

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