イラク緊迫 分裂の回避へ全力を

朝日新聞 2014年06月16日

イラク緊迫 分裂の回避へ全力を

中東のイラクが、またも内乱の危機に直面している。

政権をにぎるイスラム教シーア派に対し、スンニ派の武装組織が争いを挑んでいる。

混乱のなか、クルド人勢力も油田都市の掌握に動き始めた。

国家の分裂を食い止めるにはどうすればいいのか。米国はじめ国際社会は早急に行動を起こさねばならない。

武装組織は、国際テロ組織アルカイダ系の過激派である。国内第2の都市モスルを瞬く間に制圧し、さらに首都バグダッドをめざし南下している。

マリキ首相率いるイラク政府は空爆などで反撃を始めた。

問題の根深さをうかがわせるのは、現地から報じられる避難民の声である。

モスルから50万人が逃げ出したが、その多くが恐れるのは、必ずしも武装組織ではなく、むしろ政府軍の反撃だという。

スンニ派が多い都市や地域では、政府軍は「シーア派軍」としか見られていない。武装組織が地元にすんなり受け入れられた土壌もそこにある。

それは、この8年間、政権を担っているマリキ氏が自らのシーア派優遇に走り、国民の統合に失敗したツケといえる。

内戦に手を焼いた米軍が悟った教訓は、スンニ派の協力なしに国の安定はないことだ。

奪われた都市を力で奪い返すだけでは、また報復の連鎖に陥りかねない。マリキ政権は、穏健なスンニ派との融和策を打ち出し、どの宗派も共生できる国家像を示さねばならない。

一方、いまのイラクの混乱は、となりのシリアから伝染した病理ともいえる。

3年以上にわたる内戦で、アルカイダ系組織はシリアに広い支配地域を得た。そこで武器や財力を蓄えた末に、イラクへも版図を広げようとしている。

戦乱を放置すれば、荒廃はやがて地球規模で飛び火する。アフガニスタンで犯した過ちを国際社会は再び繰り返すのか。

それを防ぐ最大の責任は米国にあることは言うまでもない。大義のない戦争でイラク社会と中東の秩序を一変させた混沌(こんとん)が今も尾を引いているのである。

米軍がイラクを撤退して2年半。この間、オバマ政権は中東への関与からほとんど手を引いてきたが、このまま傍観を続けるようであれば、大国のご都合主義のそしりを免れない。

イラクの治安回復とシリアの停戦に向け、米国は本腰を入れるべきだ。国連やアラブ諸国、イランなどとも協調し、中東情勢のこれ以上の流動化を止めなくてはならない。

毎日新聞 2014年06月19日

イラク情勢 米の積極関与が必要だ

シリア情勢を放置したツケと、イラクの宗派対立が同時に表面化した形である。シリアに根を張るイスラム教スンニ派の武装組織が、シーア派主導のマリキ政権を倒すべくイラクの首都へ進撃している。近代兵器による攻防とはいえ、構図はイスラム草創期の宗派抗争と同じだろう。

イラクでは2003年、米ブッシュ政権によるイラク戦争でスンニ派のフセイン独裁政権が倒れ、シーア派が政権を握った。これにクルド人を加えた3者がイラクの主要勢力である。以後10年余り、3勢力は危ういながらも均衡を保ってきた。

ところが、隣国シリアの内戦でアラブ各地からスンニ派の戦闘員が同国に集まり、米同時多発テロを実行したアルカイダに連なる過激派も反アサド陣営の一員として着々と力をつけた。それを知りつつ米国は有効な手を打てず、ロシアと中国は国連安保理決議に拒否権を行使してシリア情勢は悪化の一途をたどった。

過激派は事実上、野放しだったのである。イラク北部を制圧して首都バグダッドへ向かっているのは、同国のほかシリアなど地中海東岸(レバント)へのイスラム国家樹立をめざす「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」で、アルカイダからの離反組織とされる。04年にイラク旅行中の香田証生さんを殺害した「イラクの聖戦アルカイダ組織」の出身者らで構成されるという。

そんな組織が、血も凍るような大量虐殺を繰り返しながら首都に迫っているのは恐るべき事態である。シーア派国家のイランはマリキ政権を助けるべく軍事行動も辞さない構えだ。イランは、シーア派の一派とされるアラウィ派主導のアサド政権も支援している。仮に米国が軍事行動を起こせば、長年対立してきたイランと間接的に共闘することになる。

そうした宗派抗争に巻き込まれたくないという米国の気持ちも分からないではない。シーア派を優遇するマリキ政権にも問題はあろう。だが、シリアとイラクがともに内戦状態に陥れば、中東情勢は一気に不安定化する。何よりも米国は、あの同時テロを実行したアルカイダ系の組織がイラクを分裂させ、権力を握ろうとするのを座視できるのだろうか。

イラク戦争で「パンドラの箱」を開けた米国には情勢安定への責任があろう。オバマ政権は地上部隊の派遣は否定しつつ空母をペルシャ湾に向かわせて軍事行動に備えているが、政治的にせよ軍事的にせよイラクと中東全体の混乱を抑えるには米国の積極関与が欠かせない。と同時に、米露中を中心とする安保理は、過激派の訓練場とも近隣国への出撃拠点ともなっているシリアの情勢改善を真剣に考えるべきである。

読売新聞 2014年06月17日

イラク情勢緊迫 過激派の攻勢をどう抑えるか

イラク情勢が緊迫の度を増している。

「新たなイスラム国家建設」を掲げるスンニ派の過激派組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」が、イラク北部の複数の都市を制圧した。

マリキ政権は軍による空爆を行い、支持基盤のシーア派から義勇兵を募って応戦している。

中東の混乱に拍車をかける、憂慮すべき事態と言えよう。

ISISは、国際テロ組織アル・カーイダの流れをくむ武装集団だ。シリア内戦に乗じて勢力を拡大し、推定5000人規模に膨れ上がった。イラクに転戦する際には、シリアとの国境の抹消までも宣言していた。

指導者は「第2のビンラーディン」とも呼ばれており、米国が1000万ドルの懸賞金をかけて国際指名手配した。

ISISは、制圧地域で厳格なイスラム法を適用し、従わない者を殺害している。人道上、極めて問題である。国連が「司法手続きを経ない即決の処刑だ」と非難したのはもっともだ。混乱拡大で、原油価格も上昇し始めた。

マリキ首相にもこうした事態を招いた重い責任がある。首相は、国民の多数を占めるシーア派を政権で優遇し、スンニ派の政敵追い落としに固執した。

軍や治安機関の内部でも宗派対立が顕在化し、士気は低下した。ISISが攻め込んだ地域では、将兵らが制服や装備を投げ出して逃亡したという。

国民融和を怠った首相の統治手法のツケが回った結果である。

ISISの攻勢をマリキ政権が単独で食い止めるのは困難だろう。当面は、国際社会がマリキ政権を支え、連携して混乱の拡大を回避する必要がある。

カギを握るのは米国の対応だ。オバマ大統領は、「あらゆる選択肢を排除しない」と述べ、空爆も念頭にペルシャ湾へ空母を派遣した。一方で、紛争介入への消極姿勢は変わらず、地上軍投入の可能性を早々に排除した。

オバマ氏は、米軍のイラク撤退を掲げて当選し、2011年に撤収を完了させた。イラク情勢の悪化は、撤収後の治安確保の手当てなどが十分だったのかという問いを大統領に突きつけている。

シーア派大国で、マリキ政権に影響力を持つ隣国イランの出方も焦点だ。イラク支援をめぐり、断交中の米国とも直接協議する方針という。中東の周辺国は、この動きに加わり、対ISISで共闘していくことが求められる。

産経新聞 2014年06月17日

イラク危機 内戦回避へ米国も行動を

イラクの都市がイスラム教スンニ派過激組織に次々と制圧され、シーア派主体のマリキ政権が空爆などで必死の反撃に出る事態となっている。

このままでは、宗派間の本格的な内戦に発展し、イラクは分裂しかねない。マリキ政権は過激派の掃討に全力を挙げる一方、今こそ、スンニ派も取り込んだ挙国一致体制の構築を急がなければならない。

ここは、中東への関与に尻込みしてきたオバマ米政権も、限定的にせよ介入に転じ、国家存続の危機を食い止めるときだろう。

過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」はイラク戦争後、国際テロ組織アルカーイダ系の反米勢力を糾合し、隣国シリアの内戦でも反アサド政権側で戦い、武器や戦闘員、資金を得て勢力を伸ばした。

今回、ISILが攻略した都市のうちイラク第2のモスルもあっけなく陥落した。シーア派中心の軍が、スンニ派の住民や現地武装勢力の反感を買い、逃げ出さざるを得なくなったからだ。

こうした状況を招いた最大の責任は、政府も軍もシーア派で固め、首相、内相を兼務し独裁権限を振るったマリキ氏にある。

マリキ政権やシーア派宗教指導者らは今、同派義勇軍を募るなどして反攻に出ようとしている。混乱に乗じ、北部に安定した自治圏を構えるクルド人勢力は近隣の油田都市キルクークを掌握した。宗派紛争の色彩が強まればシーア派の南部、スンニ派の中部、クルドの北部にイラクが3分裂していくことが懸念される状況である。

ISILの支配地は今や、国境をまたぎシリア、イラク双方に広がる。固定化すれば、イラクばかりかシリアの分割にもつながり、中東はさらに不安定化する。そこが国際テロの拠点となれば、脅威は欧米にまで拡散しよう。

オバマ政権は米軍のイラク撤退を急ぎ、シリア反政府勢力への武器供与や化学兵器を使ったアサド政権への軍事行動も控えた。消極姿勢ゆえに、危機を未然防止できなかった面も否定できない。

オバマ大統領は今回、地上軍派遣は否定したが、空母艦載機や無人機による攻撃、政府への武器援助という選択肢もある。介入をためらっている場合ではない。

イラクのフセイン独裁政権を倒した米国には、その後に築いた国家を救う責務もある。

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