効率的に働いて能力を存分に発揮し、仕事と生活の調和を図る。そうした労働環境の実現につなげることが大切だ。
政府が、働いた時間に関係なく成果に応じて賃金を払う新たな労働時間制度の導入を打ち出した。成長戦略の一環で、生産性向上が狙いだ。
一方で、新制度では労働時間に関する規制がなくなり、長く働いても残業代が出ない。
労働基準法は「1日8時間、週40時間」を法定労働時間と定め、残業や休日勤務には割増賃金を支払うよう企業に義務づけている。例外として上級管理職には、この規定が適用されていない。
新制度では、例外を管理職以外に広げ、「少なくとも年収1000万円以上」かつ「高度な専門職」を対象とする。年収要件を満たす労働者は4%に満たない。
働き方に大きな影響を及ぼすだけに、範囲を絞り込んでスタートするのは、妥当だろう。
企画力や発想力が問われる仕事であれば、働く時間と成果が必ずしも一致しないのは確かだ。
短時間で効率的に働く人より、だらだらと会社に長く居る人の方が、待遇面で評価される。そんな実態を変えるため、労働時間と賃金を切り離し、効率的な働き方を促して、生産性を向上させる。新制度の狙いは理解できる。
だが、懸念もある。
労働側は、残業代という経営側にとっての歯止めがなくなることで「長時間労働を助長する」と反発している。高い成果を求められ、際限なく働かされるのではないかという不安も覚えよう。
職務の範囲が明確で、仕事量や働く時間を自分で決められる職種に限定することが重要だ。
「高度な専門職」に該当する具体的な職種については今後、厚生労働省の審議会で検討する。為替ディーラーやファンドマネジャーが想定されている。
安倍首相は「希望しない人には適用しない」と強調している。
経営側は大幅な対象拡大を要求しているが、なし崩し的に一般労働者にまで広げることが、あってはなるまい。
新制度が、長時間労働や賃金カットに悪用されないよう、行政の監視の強化も求められる。
高収入の高度な専門職といえども、働き過ぎは心身の健康を損なう。一定期間の労働時間や労働日数に上限を設ける。休日・休暇を強制的に取らせる。制度設計にあたっては、こうした規制や運用も検討する必要がある。
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