製薬元社員逮捕 医師との癒着の解明を

毎日新聞 2014年06月12日

製薬元社員逮捕 医師との癒着の解明を

製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤「バルサルタン」(商品名ディオバン)を巡る臨床試験疑惑が、刑事事件に発展した。

東京地検特捜部は元社員を薬事法違反(虚偽広告)容疑で逮捕した。京都府立医大の臨床試験データをバルサルタンに有利になるように改ざんし、論文に掲載させていた疑いが強まったためだ。今後は、ノバルティスの組織的な関与や医師、大学側とのかかわりが焦点となる。捜査当局には、医師と製薬会社の根深い癒着を徹底して解明してもらいたい。

疑惑が指摘された臨床試験は、バルサルタンについて、他の降圧剤よりも脳卒中予防などの効果が大きいかどうかを国内5大学が検証するものだった。ノバルティスは「効果あり」との論文を宣伝に多用し、バルサルタンは累計売り上げ1兆2000億円を超す大ヒット薬になった。

ところが、5大学すべてでこの元社員が肩書を伏せたまま論文のデータ解析に関与していたことが発覚。各大学が調査に乗り出し、府立医大、東京慈恵会医大、滋賀医大、千葉大でデータ操作された疑いが判明した。ノバルティスは当時の社長らの決裁を経て、5大学に計11億円を超す奨学寄付金を提供していた。

こうした金銭の流れは強い癒着ぶりを感じさせる。

厚生労働省が設置した有識者検討委員会の調査では、関係者いずれもがデータ操作への関与を否定したため、同省は今年1月、容疑者不詳のまま刑事告発に踏み切った。

元社員は、知人男性に「会社が自分のせいにしようとしている。裏切られた」と話していたという。検討委によれば、ノバルティスも、寄付金が臨床試験のために使われることを期待していたことは認めている。常識的には、元社員が個人の意思で操作をしたとは考えにくい。

複数の大学で、データ操作の疑いが発覚したことも疑惑を深めている。臨床試験には多くの研究者らがかかわっている。だれも改ざんを見抜くことができなかったのか。医師側の関与は本当になかったのか。

製薬会社は、同じ薬効を持つ他社製品と差別化するため、自社製品の副次的効果を臨床試験で見つけ出そうとする。そこに医師と製薬会社のもたれ合いも生まれる。バルサルタン疑惑はその典型例といえる。

日本製薬工業協会は、自社の薬が対象の臨床試験に絡み、医師側への奨学寄付金の提供禁止を加盟社に通知した。厚労省も臨床試験の法的規制に関する議論を始めた。バルサルタン疑惑が問題となっている今こそ、制度改革を進め、もたれ合いを断つ好機だ。国や医学界、製薬業界は再発防止に全力を挙げてほしい。

読売新聞 2014年06月15日

薬効改竄逮捕 産学のもたれ合いも解明せよ

臨床研究のデータ改竄かいざん問題が、刑事事件に発展した。全容を解明し、再発防止につなげなければならない。

東京地検特捜部が、高血圧治療薬「ディオバン」を販売する大手製薬会社「ノバルティスファーマ」の元社員を、薬事法違反容疑で逮捕した。

京都府立医大の医師らに、薬が脳卒中の予防に効果があるかのように改竄した虚偽のデータを提供し、論文などに掲載させた疑いが持たれている。

元社員は容疑を否認しているとされる。特捜部は捜査を尽くし、データ改竄の経緯や動機を明らかにすることが求められる。

ディオバンは医療機関で広く使用され、売り上げは年間約1000億円に上る。ノバ社は、不正データに基づく論文を宣伝に利用していた。医薬品の信頼を著しく損なう行為であり、薬効を期待した患者への背信にほかならない。

会社による組織ぐるみの関与がなかったのか、究明が必要だ。

元社員は京都府立医大のほか慈恵医大など4大学の臨床研究でデータ解析に携わり、その多くでデータ操作が判明している。各大学の医師たちは、なぜ不正に気づかなかったのだろうか。

これらの大学の研究室には、ノバ社からこれまでに計11億円を超える奨学寄付金が提供された。企業から資金を得たい大学と、研究成果を販売促進に役立てたい企業のもたれ合いが、不正の温床となった可能性がある。

ディオバンのような処方薬の臨床研究は本来、医師や患者が最適な治療を選択するためのデータを集めるのが目的だ。特捜部は、製薬会社と大学の癒着構造にも切り込んでもらいたい。

臨床研究を巡る不正は後を絶たない。ノバ社は東京大病院などが実施した白血病治療薬の研究に関与し、患者の個人情報を不正に取得した。副作用についても厚生労働省に報告しなかった。

製薬会社と大学病院は、自浄作用を高めるべきだ。

日本製薬工業協会は、自社製品の臨床研究を行う大学に対しては、寄付金を提供せず、データ解析を引き受けないことを申し合わせた。日本学術会議は、医薬品の臨床研究を中立的に運営する公的組織の整備を提言している。

政府は現在、データの長期保存や第三者による研究のチェックを大学側に求める倫理指針を策定中だ。実効性のある取り組みで、臨床研究の公正性を担保することが肝要である。

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