改正国民投票法 新たな憲法の各論を深めたい

毎日新聞 2014年06月15日

投票法と憲法 論議を深めていく時だ

解釈改憲問題が動くさなかの成立である。憲法改正の手続きとなる国民投票ができる年齢などを確定した改正国民投票法が参院本会議で与野党8党の賛成で可決、成立した。

「宿題」とされた年齢問題が決着したことで国会が条文改正を発議すれば国民投票を実施できる法的な環境は整備された。だが、実際に何を憲法改正のテーマとするか、国民に議論が浸透している状況とは言えまい。改憲、護憲ありきでなく憲法を論じる「論憲」を深める時だ。

衆院同様、参院も駆け足審議だった。改正法はあいまいだった投票できる年齢を当面「20歳以上」で確定させ、施行の4年後から「18歳以上」に引き下げる内容だ。2007年に同法が成立した際、民主党は最終的に反対した。今回は自公、民主党、いわゆる第三極勢などより広範な勢力が賛成し、同法の基盤は強化されたことになる。

それだけに8党が改正案合意の前提として選挙権年齢も加えて18歳以上への2年以内の引き下げを目指すことを確認した事実は重い。与野党は早急に公職選挙法改正案を取りまとめ、次期国政選挙での実現を図るべきだ。改憲以外のテーマに国民投票の対象を拡大するかについても引き続き協議を進めてもらいたい。

今回の法改正は憲法改正に強い意欲を持つ安倍晋三首相の意向が働いた。投票年齢問題が決着しないと実際に国民投票を実施することは困難とみられていたためだ。

ところが首相は条文改正の手続きを踏むべき集団的自衛権の行使容認を解釈の変更で実現しようとしている。毎日新聞が4月に行った世論調査では9条改正に反対する意見は51%で前年より14ポイント増えている。9条改憲に国民の抵抗感が強いから解釈変更の道を選んだとも取られかねない対応である。

一方で首相が熱心に主張していた改憲手続きを定める96条の見直し論議は事実上沈静化している。国会で改憲発議に必要な衆参各院議員の賛成を現行の3分の2以上から「過半数」に引き下げる案は憲法の安定性を損ないかねず、そもそもが無理筋の話だった。自民党は今度は改憲実現のハードルが低いとみて「環境権」などに優先して取り組むというが、ご都合主義的な印象は否めない。

言うまでもないことだが、国民投票の機が熟するのは単に法的な課題が解決することではない。国民に論点が十分共有され、熟議を経た判断がなされることが前提だろう。

衆参両院の役割を見直す論議のように、統治の仕組みに関わる問題を重点的に議論するよう私たちは提案してきた。憲法をめぐる論点は多様であることを改めて確認したい。

読売新聞 2014年06月15日

改正国民投票法 新たな憲法の各論を深めたい

衆参両院の9割超の賛同を得たことは、憲法改正の実現への重要な基盤になると歓迎したい。

改正国民投票法が、自民、公明、民主、日本維新の会など与野党8党の賛成で成立した。反対した政党は共産、社民両党だけである。

改正法は、憲法改正の国民投票権について、当面は「20歳以上」とし、施行の4年後に「18歳以上」に引き下げると定めたものだ。国民投票を実施するための法制面の環境が整った意義は大きい。

2007年5月に第1次安倍内閣で国民投票法が成立した際は、民主党が反対し、自民、公明の与党などの賛成にとどまった。

今回も当初は、公務員の国民投票運動の制限などをめぐり与党と民主党が対立したが、双方が歩み寄って超党派の合意ができた。

憲法改正の発議には、衆参各院の3分の2以上の賛成を要するという高いハードルがある。各党は党利党略を排し、幅広い合意形成を目指してもらいたい。

日本国憲法は1946年の制定以来、一度も改正されていない。世界でも希有けうな存在だ。日本の経済・社会や国際情勢、安全保障環境の劇的な変化を踏まえ、様々な重要課題に迅速かつ適切に対応できるよう、憲法を見直す必要性は一段と高くなっている。

今後は、どの条文をどう変更するのか、具体論を深めることが大切だ。衆参の憲法審査会の議論で主要な論点は出そろっている。

自衛隊の位置づけの明確化、環境権といった新しい国民の権利の追加、大震災を含む緊急事態の発生時の首相権限の強化などは、多くの党が賛成している。

憲法改正の発議要件の緩和も急ぐ必要がある。衆参両院の役割分担の見直し、自衛権のあり方など、各党の主張が分かれるテーマについても、さらに議論を掘り下げねばならない。

国民投票年齢に合わせた選挙権年齢の引き下げなど、改正法の「宿題」についても、きちんと結論を出すことが求められる。

与野党は、作業部会を設置し、2年以内に選挙権年齢を「18歳以上」にすることで合意している。選挙と国民投票の最低年齢が一致した方が望ましいのは当然だ。

民法の成人年齢を18歳以上に引き下げるのは、社会の各方面への影響が大きく、簡単ではない。だが、世界のほとんどの国は18歳以上だ。日本だけが国際標準に合わせられないはずがない。

実現に向けて、与野党は着実に検討を進めることが重要だ。

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