法人税減税 空洞化の防止に欠かせぬ

朝日新聞 2014年06月15日

法人税率下げ 見切り発車は無責任だ

安倍政権が法人税の実効税率引き下げを決めた。現在の約35%から、数年かけて30%を切る水準にする。

投資を促し、日本経済の底上げをはかるためだという。

法人減税を急ぐ国が少なくないなか、日本も無縁ではいられないのは確かだ。ただ、税率を1%下げると税収が5千億円近く減るだけに、深刻な財政難に拍車をかけかねない。

法人課税を巡っては、わざと利益を出さない例を含めて赤字で納めていない企業が多いことや、税負担を軽くする租税特別措置が時代遅れになっている事例など、課題が山積みだ。

それらを見直し、企業の公正な競争を促して税収も増やす。それを財源に税率を引き下げていく――という姿勢が大切なのに、改革の具体案や財政への配慮を置き去りに減税幅だけ決めた。無責任だ。

成長戦略として、株式市場にインパクトを与える目玉が欲しいとの思惑が透けて見える。

「税率を下げないと国際競争で負ける」「税率が高いと海外の企業が日本に投資しない」

経済界や経済産業省は声高に訴えるが、必ずしも具体的に検証されているわけではない。

例えば、社会保険料を加えた企業の総負担は一部の欧州主要国の方が日本より重い、というデータがある。

日本に進出した外資系企業に問題点を尋ねると、法人税率の高さより、市場の特殊性や「英語人材」の乏しさの方が上位に来るという調査結果もある。

経済界には「法人減税で日本経済が復活すれば、かえって税収は増える」との声がある。そうした例は海外にあるが、景気が好転していた影響などを無視するのは乱暴だろう。

そもそも、日本企業全体ではすでに多額の利益をため込んでおり、「企業の負担減が経済を活性化させる」との主張は説得力に欠ける。

政府は「20年度に基礎的財政収支を黒字化する」との目標を堅持するという。15年度に消費税率を10%に上げても達成は難しく、大変高いハードルだ。

東日本大震災からの復興を支えるための特別増税は、個人への所得税では25年も続くのに、法人税では3年の予定が1年前倒しで打ち切られた。

政府税制調査会は、租税特別措置など現行制度の見直し論議を始めたが、早くも利害が交錯し、難航は必至だ。

まさか、見切り発車の法人税率引き下げの穴埋めを、個人へのつけ回しで取り繕うのではあるまい。

毎日新聞 2014年06月15日

法人減税 無責任な財源先送り

安倍政権は、2年目の経済政策の中核となる経済財政運営の基本方針「骨太の方針」の素案を公表した。安倍晋三首相が成長戦略の柱として強い意欲を示した法人減税は、「来年度から数年で20%台に引き下げることを目指す」と明記した。しかし、その分の税収減を穴埋めする財源の具体策は明確にせず、年末の税制改正協議まで先送りした。

国民は財政の危機的状況を考慮して4月の消費増税を受け入れた。来年10月には10%への消費増税が予定されている。その中で減税を言い出すなら、なぜそれが必要か、国民生活にどう利点があるのか納得のいく説明をしたうえで、財源案を示すのが当たり前だ。それができなければ責任ある政策の提示とは言えない。

国税と地方税を合わせた法人税の実効税率は約35%だ。主要国では米国に次いで高い。企業の拠点が海外に流出する「空洞化」に歯止めをかけ、海外から投資を呼び込むのが減税の狙いだ。1%で4700億円程度で、20%台に引き下げると2兆~3兆円の税収減が見込まれる。

政府や与党の税制調査会は、恒久財源が必要だとして、課税対象を広げる検討を進めた。赤字企業でも事業規模に応じて課税する「外形標準課税」の拡大や、設備や研究開発に充てる投資などに対して減税する「租税特別措置」の縮小が議論された。だが、負担増になる企業や業界の強い反発が見込まれ、検討項目を提示しただけにとどまっている。

骨太の方針でも、「課税ベースの拡大などによる恒久財源の確保」としただけで財源の具体的な項目を示さなかった。しかも、「アベノミクス効果で経済が構造的に改善しつつある」として、景気回復による税収増を、減税の財源とみなす道筋を残した。

税収は景気動向に左右される。景気回復で増える税収を恒久財源と位置づけるのは無理がある。そもそも税収が増えるなら、巨額の財政赤字を少しでも減らすのが筋だ。

骨太の方針で、財政再建の政府目標である「2020年度の基礎的財政収支の黒字化」は堅持された。税収増を法人減税に回せば、目標達成が一段と困難になる。

法人減税で国民生活にどんな恩恵があるのか、説明も不十分だ。政府は賃金や設備投資が増えるというが、企業の内部留保に積まれるだけではないかとの疑問は残されたままだ。

法人減税は株式市場に強くアピールする。政権がこだわるのはこのためだ。それでも、きちんとした財源が示されなければ「財政の足を引っ張る」として、失望感から株式の売りを浴びる可能性がある。成長戦略としても失格だ。

読売新聞 2014年06月16日

法人税率下げ 20%台を「数年」で実現させよ

日本経済の成長基盤を強化するには、企業の競争力を高める法人減税が有効である。減税の財源を確保し、着実に実現を図るべきだ。

政府は、6月末に閣議決定する「経済財政運営の基本方針」(骨太の方針)の素案に、法人税の実効税率を数年で20%台まで引き下げる方針を盛り込んだ。2015年度から引き下げを始める。

法人減税は産業空洞化に歯止めをかけ、海外から日本への投資を呼び込む効果が期待される。

安倍首相は「日本の法人税は成長志向に変わる」と強調した。

日本の実効税率は35・64%(東京都)と国際的にみて高い。

税率を何年で、どこまで下げるのか明示できなかったとはいえ、欧州やアジア諸国なみの20%台とする目標を、正式に打ち出したことを評価したい。

減税の財源については、年末の税制改正までに、政府・与党で結論を出すことになった。

素案は、アベノミクスの効果も踏まえて、恒久財源を確保するとした。安定的な財源の必要性を強調する一方、将来の経済成長による税収増加も財源とみなすことに含みを残した。

甘利経済財政相や経済界が大幅な法人税率引き下げの早期実現を求めたのに対し、自民党税制調査会や財務省は恒久財源の確保を減税の前提と主張し、意見が折り合わなかったためである。

できるだけ多くの恒久財源を見つけ出し、税収の減少を補う努力をするのは当然だ。幅広い企業に広く薄く負担を求める「課税ベースの拡大」を進めたい。

特定業界の法人税負担を軽減している租税特別措置のうち、すでに役割を終えたものや、効果の薄い項目は廃止すべきだ。税制の軸足を、既存産業の保護から、成長産業の育成へ移さないと、日本の成長力は底上げできまい。

国内企業の約7割が法人税を支払っていないという問題もある。赤字企業でも事業規模などに応じて納税する外形標準課税の拡大も検討課題となろう。

法人税収は景気動向に大きく左右される。自然増収へ過度に期待するのは禁物だが、上振れ分を減税の先行に活用することは、選択肢になり得る。

無駄な予算の一層の削減や、歳出の増大に歯止めがかからない社会保障制度の改革も、税収減を補う有効な手立てだろう。

政府・与党は日本の成長促進や税・財政の在り方などを総合的に勘案し、議論を深めるべきだ。

産経新聞 2014年06月14日

骨太の方針 成長と財政再建に覚悟を

政府が経済財政運営の指針となる「骨太方針」の素案をまとめた。脱デフレの足取りを確かなものとし、持続的な経済成長を図るため、確実に実現していかなければならない最重要政策だ。

企業の活性化につながる法人税の実効税率引き下げについて、平成27年度から数年で20%台にすると明記し、人口減少対策に本腰を入れることも打ち出した。

いずれも経済の活力維持に欠かせないもので評価できる。

忘れてはならないのは、経済成長と両立させるべき財政健全化への取り組みである。成長で税収を増やし、財政再建につなげる。それをさらなる成長に結びつけるという好循環の実現こそ、安倍晋三政権の責務といえる。

国と地方の基礎的財政収支を32年度までに黒字化するとした国際公約を維持し、その具体的な道筋を早期に明示するよう検討することを盛り込んだ。ぜひ効果的な収支改善策を講じてもらいたい。

もはや黒字化目標を掲げるだけでは意味がない。4月に8%への消費税増税を予定通り実施した意義は大きい。だが、内閣府の試算では、来年10月に消費税率を10%に再引き上げしても、32年度の収支には約12兆円の赤字が残る。

しかも、約10年で団塊の世代は75歳以上の後期高齢者となる。医療や介護の給付増は、確実に財政収支上の重い負担となる。

収支の黒字化は財政健全化の第一歩にすぎず、先送りするゆとりはない。20年秋のリーマン・ショック以降、膨張したままの歳出の削減は欠かせない。

景気回復で税収が増えたからといって、バラマキに走ることは許されない。社会保障を含め「聖域なき見直し」を掲げたのは当然である。

骨太方針には、経済財政諮問会議で半年ごとに財政健全化の進捗(しんちょく)状況を確認することが盛り込まれた。政権が一体となって取り組み、政策の遅れが生じれば直ちに対応をとることが重要だ。

引き続き注視すべきは、年末まで結論を先送りした法人税引き下げの代替財源をどうするかだ。

素案は「恒久財源を確保する」としたが、曖昧さを残した。経済成長と財政健全化を両立させる政権の覚悟は、この問題への対応にも表れる。

税制全体で財源を見いだす実現可能な方策を目指してほしい。

産経新聞 2014年06月11日

法人税減税 空洞化の防止に欠かせぬ

法人税減税をめぐる政府・与党の協議が大詰めを迎えている。

経済財政諮問会議が示した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の骨子では「法人税改革を推進する」との表現にとどまった。減税に伴う税収の減少をどう穴埋めするかの調整がついていないためだ。

法人税率を引き下げて企業の活性化を促すことは、日本の産業空洞化を防ぎ、経済成長のためにも不可欠だ。先進国で米国に次いで高い水準にある実効税率の見直しは、海外から投資を呼び込むためにも避けて通れない。

代替財源の確保は重要だが、これを理由に改革を小手先のものに終わらせてはならない。広く薄く負担を求める工夫が必要だ。

日本の法人税の実効税率は35%強(東京都)であるのに対し、欧州やアジアの主要国ではほとんどが20%台だ。このため安倍晋三首相は「法人税を国際標準に照らして競争的なものにする」と強調し、引き下げを指示している。

最大の焦点は税収減対策だ。甘利明経済再生担当相は5年程度で20%台に引き下げたい意向を示し、財源の確保を求める自民党税制調査会の野田毅会長と協議が続いている。政府税調も恒久減税には恒久財源が必要との立場だ。

政府税調が財源の一つに企業向け減税措置の見直しをあげているのは妥当だ。時代に合わなくなった租税特別措置は、大胆な改廃が欠かせない。企業の7割が赤字のために法人税を払っていないという実態を踏まえ、赤字企業にも負担を求める外形標準課税の拡大も課題といえる。

一方で、経営基盤が弱い中小・零細企業への配慮も必要だ。雇用全体の7割を抱える中小などの税負担を重くしては、産業界全体の活性化にはつながらない。

税収の上振れ分を財源に充てるべきだとの主張もある。確かに企業活動の活性化で税収の伸びは見込めるが、景気動向に左右されるなど恒久的な財源とはいえない。所得税など税制全体で現実的な財源確保を目指すべきだ。

法人税が軽減される企業には、日本経済の成長に資するためという減税の目的をきちんと認識する責任がある。国際競争力を高めて収益を増やし、これを積極的に雇用拡大や賃金増に結びつけなくてはならない。減税分がそのまま内部留保に回るようでは困る。

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