理研の改革 覚悟を決めて取り組め

朝日新聞 2014年06月14日

理研への提言 改革で信頼取り戻せ

科学と社会に対する重い責任を自覚せよ。理化学研究所を、しかりつける声である。

「STAP(スタップ)細胞」の研究不正をめぐる問題で、理研の改革委員会が厳しい提言をまとめた。

小保方(おぼかた)晴子氏が所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB)には、不正を誘発する構造的な欠陥がある。理研本体にも不正を防ぐ認識が不足している。そう強く批判した。

おおむね妥当な内容である。

大幅な組織改編や幹部の人事刷新も求めている。理研は正面から受け止めて、改革を断行し信頼回復に努めるべきだ。

理研のサイトに掲載された提言は、ほかの大学や研究機関にも耳の痛い内容をたくさん含んでいる。多くの人びとが一読し、自らの組織の点検と改革に生かしたい。

小保方氏は、所定の手続きを経ずに採用されていた。CDB副センター長の笹井芳樹氏は秘密保持に走りすぎた。そうしたCDBにはびこる成果主義の負の側面を提言は指摘した。

理研本体については、10年前にも別の研究不正があったのに十分な再発防止策をとらず、今回も事実解明の姿勢が消極的だとしてガバナンスを問うた。

研究の営みは、従来の個人プレー中心から組織プレー中心に変わってきている。どんな研究者を採り、育て、公正な研究成果をあげるか、組織の責任が重くなったと心してほしい。

改革委は、CDBを早急に解体することを提言している。研究組織を根幹からつくり直さなければならないという主張には同感である。

ただ、CDBが00年に発足して以来、蓄えた研究成果やノウハウを有効に生かすことも大切だろう。いま在籍する研究者たちが培ったチームとしての機能もできれば維持したい。

再生医学は、細胞や組織の再生で病気を治そうという最先端の研究分野である。近年、iPS細胞の発見によって研究状況は大きく変わった。

その分野で日本の先頭をゆく京大iPS細胞研究所と理研のすみ分けは考えて当然だ。幅広い研究機関との連携を強め、透明性の高い組織に徹底改革すべきだろう。

大事なのは、世界有数と言われてきたCDBの残すべき財産は生かしつつ、難病患者らの期待が高い再生医療研究の体制を日本全体で整えることだ。

改革委は外部有識者ばかり6人で構成され、しがらみのない立場から病巣に遠慮なく切り込んだ。不祥事究明の一つのあり方も示したといえよう。

毎日新聞 2014年06月14日

理研の改革 覚悟を決めて取り組め

STAP問題をめぐり理化学研究所が設置した改革委員会が、論文の主要な著者が所属する「発生・再生科学総合研究センター(CDB)」の解体を盛り込んだ再発防止の提言をまとめた。CDB幹部の処分や、理事の交代なども提言している。

外部委員が独立性を保ち、厳しい提言に徹したことは評価できる。STAP論文については、不正を招いた体制はもちろん、疑惑が生じた後の理研の対応にも大きな問題があった。CDB解体まで含めた改革が求められるのはやむを得ない状況だ。

理研は提言を真摯(しんし)に受け止め、覚悟を決めて立て直しに取り組んでもらいたい。

改革委は小保方晴子・研究ユニットリーダーの採用にさかのぼって分析した。実績がなく、経験の浅い研究者を特別扱いまでして採用し、論文作成にあたって秘密保持が優先された背景に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)への対抗意識があっただろうとの分析は多くの人が感じていることだ。実績もあり、若手研究者も育成してきたCDBが、成果主義や研究費獲得への期待から本来の科学研究のあり方をゆがめたのだとすれば、なんとも残念な話だ。

再発防止のため、改革委は理事長直轄の「研究公正推進本部」の新設を提言している。今回の問題は、理研本部にも野依良治理事長にも責任がある。データ管理のルール作り、論文の信頼性確保のための仕組み作り、研究倫理教育などについて、具体策を早急に講じ、組織統治の改善にも真剣に取り組むことが必要だ。

改革委はSTAP関連2論文についての徹底検証も強く求めている。理研は調査に及び腰だが、共著者や第三者による試料やデータの解析によって、認定された不正以外に重要な疑問が生じている。中にはSTAP細胞とされたものが別の細胞だったことを強く疑わせる分析も含まれる。これが本当なら、理研が進めている検証実験も無意味になる。

事実をはっきりさせ、不正防止策を実効性のあるものにするためにも、理研は改革委が提言する外部委員会を設け、疑惑の全容解明を急ぐべきだ。煮え切らない態度は組織改革の妨げにもなる。

STAP騒動にはさまざまな問題が凝縮されている。政府も含め、日本の科学界全体が教訓をくむことが重要だが、一方で、画一的な管理強化には注意も必要だ。

今回、責任ある立場の科学者らが科学的な手続きを怠ったことは大問題だが、未知の現象に魅せられること自体は科学者として当然のことだ。不正防止にあたっては、科学者を萎縮させたり、若手の自由な発想を妨げたりしないための工夫も求められる。

読売新聞 2014年06月16日

理研改革提言 組織再構築へ力量が問われる

未熟な研究者の暴走を許した、ゆがんだ成果主義への指弾である。

STAP細胞問題をめぐり、理化学研究所が設置した外部有識者の改革委員会が提言をまとめた。研究不正の舞台となった理研の発生・再生科学総合研究センターの解体まで求めている。

研究を主導した小保方晴子ユニットリーダーについて「不正行為は重大で、極めて厳しく処分されるべきだ」と理研に注文した。論文共著者の笹井芳樹副センター長ら上層部の更迭も促した。

日本の科学研究の信頼性を根底から損なった小保方氏らと、その組織の責任が問われたのは当然と言えよう。

改革委が特に問題視したのは、センター上層部が小保方氏の実績を確認せずに採用し、適切に監督しなかった点だ。

STAP細胞研究に着目した笹井氏が、予算獲得への期待から小保方氏を優遇したと批判した。小保方氏の不正を知った後も理研本部に申告せず、隠蔽工作が疑われるとも指摘している。

真実を追究する科学研究の基本をおろそかにした行為としか言いようがない。元々、再発防止策の検討を求められていた改革委も、関係者の重い処分やセンター解体の提言にまで踏み込まざるを得なかったのだろう。

ただ、センターは再生医学の国内有数の研究拠点である。若手研究者を積極的に登用し、実績を上げてきたのも事実だ。有力科学誌に掲載された論文は多い。

研究不正の問題ばかりが注目される中で、有能な人材が萎縮したり、海外に流出したりする事態が懸念される。

センターではiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床研究が進んでいる。年内には目の難病患者にiPS細胞から作った網膜細胞を移植する。

日本が力を入れる再生医療分野の研究を停滞させてはならない。理研を挙げての対策が急務だ。

理研本部のガバナンス(組織統治)も強化せねばならない。問題の発覚後も、「不正行為の背景や原因の詳細な解明に及び腰」だったと改革委は非難している。

理研は、年800億円を超える国費が投じられている日本を代表する巨大研究機関である。

改革委は、理事長と5人の理事による体制は手薄であり、外部委員が参画する経営会議や、研究不正を防止する組織を新設するよう提案した。組織をどう立て直すのか、理研の姿勢が問われる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1847/