自民農協改革案 全中の指導体制温存を許すな

毎日新聞 2014年06月13日

農協改革の後退 首相の覚悟が疑われる

これでは安倍晋三首相の本気度が疑われる。

政府の規制改革会議が13日にまとめる農協改革案は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の廃止を柱としていた原案から大きく後退する見通しになった。農協を有力な支持母体にする自民党に押し戻された格好だ。「票田」を過剰に意識し、農業の強化という本来の目標を見失ってはならない。

改革案は全中を頂点とする中央会制度について「移行期間を設けたうえで自律的な新たな制度に移行する」とし、全中の権限を温存する可能性を残す。

全中は農協法で全国に約700ある地域農協を指導、監督する権限を与えられている。規制改革会議は原案の作成段階で、「全中の画一的な経営指導が地域の特性に応じた農業を阻んでいる」と問題点を指摘した。農業強化には地域農協の主体的な取り組みが不可欠であり、それには全中を廃止した方が良いという考えだった。

ところが、自民党内の議論で反対論が続出し、玉虫色の内容に変更を余儀なくされた。「新たな制度」のあり方については、農協の自主的な検討を尊重するという。

これまでの全中の取り組みが、競争力の乏しい中小零細農家の保護に偏り、結果として農業を強化できなかったことは否定できない。上納金ともいえる賦課金の徴収権限や上意下達の体制が温存されるようでは、全中という「看板」の付け替えに終わる。制度改革が骨抜きにならないよう政府が責任を持つべきだ。

全国農業協同組合連合会(JA全農)についても「株式会社化を前向きに検討する」にとどめ、株式会社転換を求めた原案から後退する。

協同組合である全農には独占禁止法が適用されない。そこで農産物の流通・販売、肥料・農機具などの共同購入を事実上、一手に引き受けてきたが、農家の間では農業資材がホームセンターより割高だとの不満も大きい。独占に甘え、経営効率化の努力が足りないためだ。

原案は株式会社化で独禁法の適用除外がなくなり、競争にさらされることで効率化が進むことを狙ったが、その行方も見通せなくなった。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの貿易自由化をにらみ国内農業の強化は急務だ。安倍首相は今後10年間で農家の所得を倍増させるという計画を打ち出している。農協改革は、そのための有力な手段に位置づけられていたはずだ。

首相は9日の参院決算委員会で「やらなければいけないと決意している」と述べた。関連法案の策定に向け、その覚悟が問われている。

読売新聞 2014年06月11日

自民農協改革案 全中の指導体制温存を許すな

日本農業の再生に向けて、農業協同組合(JA)グループの抜本的な改革をどう実現するか。正念場はこれからだ。

自民党が農業改革案をまとめた。全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とした地域農協に対する指導体制を改め、全中を新たな組織へと移行させることが柱である。

自民党案は、画一的な経営指導が生産現場の意欲を損なってきたとの批判を受けて、全中の役割を地域農協の意思集約や連絡・調整に限定するとした。

全中による地域農協への過度な介入をやめさせ、自主性を生かした「攻めの農業」への転換を促す改革の方向性は妥当だろう。

自民党は具体的な組織の在り方などについては、JAグループ内の検討も踏まえてさらに詰め、来年の通常国会で農協法などの改正を図るとしている。

気がかりなのは、改革の肝心な部分が固まっていないことだ。

先月、政府の規制改革会議は全中の廃止案を打ち出した。これに対し、全中は「JAグループの解体につながる」と、猛反発した。自民党の改革案が今後、全中の巻き返しによって「骨抜き」にされる懸念は拭えない。

全中を農協法に基づく法人から一般社団法人などに移行させる案も浮上しているが、地域農協への強い影響力が温存されれば改革の実効性は上がるまい。

全中が地域農協などから年間80億円の運営費を上納させている賦課金制度の扱いも不透明だ。

農協法に基づく強い経営指導権とともに、全中の権力基盤となっている多額の集金システムを、法改正で廃止すべきである。

自民党案は、農作物の集荷や販売を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化を「前向きに検討する」とした。

資金調達の多様化による事業拡大や、合併・買収(M&A)の手法も使った企業との連携強化を後押しする狙いは適切だ。

農協以外の改革も着実に進める必要がある。自民党案は、農業生産法人に対する企業の出資制限を「25%以下」から「50%未満」に緩和することも盛り込んだ。

国内の耕作放棄地は滋賀県の広さに相当する40万ヘクタールに上る。企業参入による農地の有効利用と、農業経営の効率化に期待したい。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も大詰めの段階で、日本農業の競争力強化は待ったなしである。意欲ある農家が報われる農業改革を急がねばならない。

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