G7首脳宣言 国際法秩序の維持へ結束せよ

朝日新聞 2014年06月07日

G7の意義 共生の道探る再出発を

足並みは必ずしも、きれいにそろっていたとは言いがたい。だとしても、不穏な国際秩序の中で、守るべき普遍的な価値を確認した意義は大きい。

ベルギーで開かれた主要7カ国(G7)首脳会議が、自由と民主主義をうたい、ロシアを非難する首脳宣言を採択した。

ウクライナのクリミア半島を一方的に併合したロシアをはずし、G8からG7へと、16年ぶりに戻ったサミットである。

各国のロシアとの関係には、それぞれ固有の事情がある。その違いを乗り越え、どこまで結束できるかが問われていた。

宣言は、ロシアによるウクライナの侵害を「一致団結して非難」した。天然ガスの供給停止などによる「政治的な威圧」を容認できないと言い切った。

米国が強く主張していた追加制裁については、「情勢が必要とすれば」との留保はつけたが「制裁強化などの用意がある」とすることでまとまった。

プーチン大統領から「北方領土交渉を中断させるつもりか」と牽制(けんせい)されていた安倍首相も、「ウクライナでもアジアでも、地域の秩序に挑戦する拡張主義は容認できない」と明言した。

ひと皮めくれば、首脳間に思惑の違いがあったのは確かだ。どの国も経済の悩みを抱えており、エネルギー確保や貿易、投資など、それぞれの事情に応じて中国やロシアなど新興国との結びつきを強めている。

世界経済に占めるG7の重みは下がり、新興国の存在感が増している。その現実のなかで、G7やG8では、もはや地球規模の課題は解決できない。そんな限界論もある。

だが、それでもG7は、自由で公平な社会をめざしつつ国民を豊かにした国家モデルを示していることに変わりはない。

先進国と新興国が一堂に集うG20の枠組みもあるが、そこでは経済より他の共通項は見当たらない。国連安保理も中国とロシアの拒否権で機能しにくい。その現状を考えれば、「法の支配」の原則を唱え続けるG7の存在意義は失われていない。

むろん、ロシアを排除したままでいいはずはない。あたかもロシアと中国に対抗するグループのようにG7を位置づけるのは、冷戦型の古い発想だ。

対立点はあっても、深まる経済の相互依存を断つことはできない。共生こそがグローバル化時代のキーワードである。

対話を通じてロシアや中国との距離を狭め、世界を安定させる共通利益の価値観を広げる。その知恵を絞るサミットへと、再出発してもらいたい。

毎日新聞 2014年06月06日

G7と中露 建設的対話への努力も

日米欧の主要7カ国首脳会議(G7サミット)が、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の一方的な編入やウクライナ東部を「不安定化させる行動」の停止を求め、非難する首脳宣言を採択した。また、東シナ海や南シナ海の緊張に懸念を表明し、中国の名指しは避けながらも「威嚇や圧力、武力を行使して領土や海洋に関する権利を主張する一方的な試みに反対する」ことを確認した。G7首脳が結束して中露に「国際法の原則」を順守するよう迫ったことは評価したい。

ロシアは、クリミア編入は住民の意思を尊重した結果で国際法にのっとった措置だと主張している。だがG7首脳は「ウクライナの主権と領土の一体性の侵害」と断じ、ロシアの独善的な国際法解釈を退けた。またウクライナ東部で親露派武装集団が起こしている混乱について、ロシアは直接の関与を否定しているが、G7首脳はこの弁明を認めず、武装集団への影響力を行使して暴力行為を放棄させるよう求めた。

対露追加制裁は「必要な情勢になれば」との警告にとどめ、ロシアにウクライナ大統領選の結果を認めて新政権と協力するよう促した。ウクライナの秩序回復には日米欧の支援に加えてロシアの協力が不可欠だ。早急に協議を始めてほしい。

首脳宣言は「国際法の基本原則に違反する」ロシアの行為を「すべての国にとって懸念すべきものだ」と明記したうえで「国際法の原則に基づく海洋秩序を維持することの重要性」を再確認し、国際法に挑戦するかのような中国の行動にもくぎを刺した。安倍晋三首相は日本の主張が受け入れられたと強調しているが、欧米が尖閣諸島をめぐる日中対立などアジアの緊張を懸念していることが背景にあるとみるべきだ。日本も緊張緩和のため中国との対話実現に真剣に取り組まねばならない。

今回のサミットは本来、ロシアも含めたG8の枠組みで開かれるはずだった。だが議長国を務めるはずだったロシアのクリミア編入強行に他の7カ国が反発し、20年ぶりにロシアを排除したG7に回帰する結果になった。これに対し、ロシアのプーチン大統領は先月、中国で習近平国家主席と会談し、中露の接近をアピールして対抗している。

ロシアがクリミア編入を断念していない現状では、G8の復活は難しい。しかし、中露が「新国際秩序」を求めて結束し、G7への対抗姿勢を強めるのでは、国際社会の緊張は強まるばかりだ。ウクライナ情勢の安定と、欧州やアジアの緊張緩和のために、G7には今後、中露を建設的な対話に引き込んでいく一層の努力も求められている。

読売新聞 2014年06月06日

G7首脳宣言 国際法秩序の維持へ結束せよ

国際社会のルール違反は容認しない。そんな明確なメッセージを発信したことは評価できる。

先進7か国(G7)がブリュッセルで首脳会議を開いた。クリミア半島を編入し、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害しているロシアを非難する首脳宣言を発表した。

ロシアは、国際法違反のクリミア編入の既成事実化や、ウクライナ東部の不安定化を図っている。G7が批判したのは当然だ。

首脳宣言は、新生ウクライナを支援する方針を表明した。ロシアに対し、ウクライナ政府との対話を促す一方、今後の対応次第では追加制裁を行う余地も残した。

この問題の解決には、G7が一致団結し、「対話と圧力」の両様の姿勢で臨むことが大切だ。

宣言は、名指しは避けながらも、中国が強引な海洋進出を進める東・南シナ海の現状に「懸念」を表明した。国際法に基づく航行・飛行の自由を確保する重要性に言及し、「力による一方的な試みに反対する」とも明記している。

安倍首相は首脳会議で、中国の海洋進出とロシアのクリミア編入を関連づけ、「世界のどこでも力を背景とする現状変更を許してはならない」と訴えた。その認識をG7が共有した意義は大きい。

中国に強権的な外交姿勢の転換を促すことは今や、国際社会の共通の課題だ。G7を中心に、関係国の足並みをそろえたい。

G7は、北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難した。日本人拉致問題を含む人権侵害について、北朝鮮の速やかな対応も求めた。

日本は、拉致と、核・ミサイル問題の包括的な解決を目指す方針を堅持し、国際社会との連携を強めなければならない。

今回の首脳会議は、ロシアを排除した、G7で開かれた。

G7は、東西冷戦終結後の1997年にロシアが正式参加し、主要8か国(G8)に拡大した。だが、グルジア、シリア問題などでG7とロシアの溝は徐々に広がり、プーチン大統領は近年、米国との対決姿勢を強めていた。

中国、インドなど新興国の台頭でG7の相対的な影響力は低下しているが、主要20か国・地域(G20)は、各国の自己主張が目立ち、意味のある合意が難しい。

自由や民主主義などの価値観を共有するG7の役割は依然、大きい。この先、ロシアとの対話も国際社会の安定に欠かせない。

ウクライナ情勢と中国の問題への対処が、転換期を迎えたG7の試金石となろう。

産経新聞 2014年06月06日

G7サミット 「対中認識」を行動に移せ

先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の首脳宣言が、名指しを避けながらも中国の海洋進出拡大に懸念を示した。

日本の主張が反映されて、民主主義や法治など共通の価値観を持つG7で対中認識が共有されたことを歓迎したい。

サミットは、ウクライナ南部クリミア半島を武力で併合したロシアへの制裁の一つとして、同国を主要国(G8)から排除する形で開かれた。対露制裁強化も視野に7カ国の結束を確認したのは当然である。

主権、領土の侵害は絶対に認められない。クリミアが本来、帰属すべきウクライナに戻る日まで対露圧力を緩めてはならない。

安倍晋三首相は会議で、「ウクライナ問題は他の地域の問題に連動してくる」と中国の問題にも首脳の関心を向け、「航行の自由、空路の自由について発信していく必要がある」と強調した。

中国は東シナ海で尖閣諸島周辺への領海侵入を重ね、戦闘機を自衛隊機に異常接近させてもいる。南シナ海ではパラセル(西沙)諸島近海で勝手に石油掘削を始め、領有権を争うベトナムの艦船に体当たりし越漁船も沈めている。

中国の尖閣奪取の試みや、南シナ海の大半を領海視しての振る舞いは、国際法・規範を破って一方的に行動する点で、ロシアによるクリミア併合と変わらない。

首脳宣言が東シナ海、南シナ海に言及し、「力を背景とする一方的な現状変更の試みに反対」と謳(うた)ったことは成果である。

安倍首相は先のシンガポールでの講演で、中国の覇権主義的な行動を批判して「法の支配の拡大」を訴え、東南アジア諸国の安全保障専門家らの賛同を得た。

その主張がG7の欧州諸国にも理解された意味は小さくない。

中露双方に対し首脳宣言を言葉だけに終わらせてはならない。

フランスはヘリ着艦装置を中国に提供し、ロシアにも強襲揚陸艦2隻を売却しようとして、米国の強い反対を受けている。

G7が足並みを乱すことがあってはならない。中国に対しても結束し、国際ルールの順守を求めていくべきだ。

首脳宣言は北朝鮮の核・ミサイル開発の継続を強く非難し、拉致問題を含む人権侵害にも迅速な対応を求めた。拉致被害者全員の帰国に向けて、G7諸国の後押しを期待したい。

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