自衛隊の支援 戦闘と紙一重の危うさ

朝日新聞 2014年06月05日

自衛隊の支援 戦闘と紙一重の危うさ

国連決議に基づく多国籍軍の活動を、自衛隊がどこまで支援するのか。

安倍政権が、これまでの政府の姿勢を大きく転換させる新たな案を自民、公明の与党協議会に示した。

イラクの復興支援の際にとられた「非戦闘地域」という線引きはやめ、「戦闘地域」であっても水や燃料の補給、他国の兵の輸送、負傷者の治療といった後方支援をするという。

集団的自衛権とは異なる国連の「集団安全保障」にかかわる活動だ。国際協力について議論する余地はあろう。とはいえ、従来とはあまりにかけ離れた提案であり、自衛隊の役割が決定的に変わることになる。

政府は、他国による武力行使と一体化するような支援は憲法9条によって禁じられているとの考えは維持。そのうえで「一体化」にあたるのは▽支援先が戦闘中▽提供する物品が戦闘に直接使われるなど、四つの条件をすべて満たした場合に限った。ひとつでも欠ければ支援できるようにするという。

これに従えば、戦闘中の他国軍に弾薬を直接補給することはできないものの、そのほかは戦闘地域であってもたいていの支援ができるようになる。

ただし、敵軍にしてみれば、武力行使と一体化しない後方支援という線引きに意味はない。自衛隊の活動範囲が前線に限りなく近づくことで、自衛隊員が戦闘に巻き込まれる可能性は格段に高くなる。

一体化論に対しては、「日本にしかない概念で、自衛隊の活動をいたずらに制約してきた」との批判がある。だが、私たちが9条をもつ以上、自衛隊の活動に一定の制約が生じるのはあたりまえだ。

政府の案は、一体化の範囲を極限まで狭めるものだ。このままでは、9条の意味が失われかねない。

さらに心配なのは、明確な国連決議がないままブッシュ政権が突き進んだイラク戦争のような紛争にまで、米国の求めるままに支援を強いられないかという点だ。

これらを考えあわせれば、突然の提案に公明党が驚き、難色を示したのは当然だ。慎重に議論を進める必要がある。

安倍首相は先月の記者会見で、一連の安全保障政策の検討では「私たちの命と平和な暮らしを守る」と強調した。

ペルシャ湾での機雷除去や多国籍軍への支援拡大。次々と繰り出される政府の提案は、そこからかけ離れていくばかりではないか。

毎日新聞 2014年06月06日

憲法と後方支援 歯止めにならぬ新基準

国連決議に基づく多国籍軍などへの自衛隊の後方支援を、憲法9条のもとでどこまで認めるべきか。

湾岸戦争以来の重い課題について、政府は自民、公明両党の協議会に4項目の新基準を示した。

これまで禁じてきた戦闘地域での自衛隊による後方支援活動を認め、医療や輸送支援に加え、場合によっては武器・弾薬の提供まで可能にする内容だ。自衛隊の活動に歯止めがかからず、多国籍軍の武力行使と一体化し、戦闘に参加するのと変わらなくなる恐れがある。

政府は、他国の武力行使と一体化する活動は認められないと憲法解釈してきた。イラク戦争では、自衛隊の復興支援の活動領域を「非戦闘地域」に限定することで、武力行使と一体化しない仕組みを確保した。

だが「戦闘地域」「非戦闘地域」の線引きはあいまいだ。当時の小泉純一郎首相は「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」と答弁した。

多国籍軍は、侵略に対し国際社会が協力して制裁する国連の集団安全保障措置に位置づけられる活動だ。

明確な国連決議があり、日本もその正当性を認め得る多国籍軍に対し、現在の憲法解釈の枠内で輸送、水・燃料の提供、医療などの自衛隊の後方支援を拡充できないか。そんな政府の問題意識は理解できる。

しかし、政府の基準は乱暴だ。

(1)支援する他国部隊が戦闘行為をしている(2)提供物品が戦闘行為に直接使われる(3)活動場所が他国部隊の戦闘現場にある(4)戦闘行為と密接に関係する−−のすべてに該当する場合だけ武力行使と一体化したとみなし、それ以外は認める。「非戦闘地域」「後方地域」の区分もやめる。

例えば、4番目の「戦闘行為と密接に関係」はどうにでも解釈できる。これにさえ該当しないと判断すれば、どんな後方支援もできる。武器・弾薬でも、他国軍隊への定期的補給なら「密接」基準に該当しないと判断され、可能になるという。

安倍晋三首相は5月15日の記者会見で、安保法制懇が提言した「国連の集団安全保障措置への参加に憲法上の制約はない」という考え方について、「政府の憲法解釈と整合しない」と否定し、「自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してない」と強調した。

政府の基準は集団安全保障への戦闘参加でなく、後方支援拡充を可能にするものだ。だが、敵軍から見れば、戦闘地域では参加も後方支援も区別はない。自衛隊が攻撃され、戦闘に巻き込まれる危険性は高まる。

結果として首相の意に反して、憲法9条を逸脱するのではないか。そんな懸念を払拭(ふっしょく)できない。

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