年金財政検証 将来への備えを怠るな

朝日新聞 2014年06月04日

年金の検証 底上げはかる改革を

少子高齢化のなか、年金制度をどう持続させていくか。

公的年金の財政見通しや受け取れる水準を確かめる「財政検証」の結果が発表された。5年に1度の健康診断だ。

年金の水準は、現役世代の手取り収入に対する割合(所得代替率)で表す。今の制度は、標準的な世帯の場合、厚生年金で「所得代替率50%以上」を約束している。

検証では、経済が順調に成長すれば、約30年後も50・6%以上の水準を維持できる結果となった。ただ支え手が減るため、現在の「代替率60%超」に比べると、大幅に下がる。

これを底上げする改革が必要だ。手がかりは、今回示された「オプション試算」にある。

たとえば、賃金・物価の上昇率よりも年金の上げ幅を抑える仕組み(マクロ経済スライド)を、年金が減額になる場合でも適用する選択肢だ。

そうすると、約30年後の水準は現制度より0・4~0・8ポイント上がる。そこに至るまでの年金が削られる分、将来世代に回す原資が増えるからだ。

年金が減る受給者は反発するだろう。ただマクロスライドがデフレ下で適用されなかったことで今の年金は高止まりしており、経済が沈滞するケースも想定すれば改革は急務だ。

さらに、勤め人が入る厚生年金にアルバイトやパートをもっと加入させる選択肢もある。

新たな加入者数を現実的な220万人と仮定すると、年金水準は0・5ポイント程度上がる。なにより非正規で働く人たちの年金が、雇用主の保険料負担分が加わることで底上げされる効果に目を向けるべきだ。

こちらの改革も、新たな保険料負担が生じる事業主らからの強い抵抗が予想される。

だが、非正規の人たちの将来の生活を守るには、厚生年金の加入拡大は不可欠だ。特に、今回の検証で国民年金の給付水準は厚生年金以上に下がる見通しになった。受け取れる年金額を考えれば、国民年金に入っている人たちが厚生年金に移る意味は大きい。生活保護の受給者を減らす効果もある。

こうした移行を進めて、なお低年金で生活が苦しい高齢者には、年金とは別の手立てで支えていく必要がある。

年金は制度それ自体をいくら改めても限界がある。子育ての支援で女性の就業率を上げる。元気な高齢者ができるだけ働ける環境をつくる。雇用の安定化をはかる。そうした社会全体の底上げがあってこそ、明るい展望がひらけてくる。

毎日新聞 2014年06月04日

年金財政検証 将来への備えを怠るな

年金を受給する高齢者が増え、保険料を払う現役世代が減っていくと年金制度は破綻するのではないか。そうならないために厚生労働省は5年ごとに年金の財政検証を行い、改善策を検討している。今回の検証ではさまざまな経済状況を想定した8通りの試算を行い、「標準的なケース」では現行制度が将来も維持できるとの結果を示した。最近の株高や賃上げが続くことへの期待値の高さが反映されているようにも思えるが、少子高齢化の傾向はしばらくは変わらない。将来のリスクに備えた制度改革を怠ってはならない。

現在の年金制度は、現役世代が払う保険料を少しずつ上げていき2017年までに厚生年金は年収の18.3%、国民年金は月1万6900円で固定、高齢者への受給額は下げていくものの現役サラリーマンの平均手取り額の50%を下回らないようにする。足りない分は積立金の運用益と取り崩しで補填(ほてん)するが、少子高齢化が進むと50%を維持できないのではないかと心配されている。

人口構成だけでなく、年金財政は経済動向に大きく左右される。賃金が上がれば入ってくる保険料は増えるが、高齢者に払う給付額も現役世代の賃金や物価と連動しているため賃金や物価の上昇によって増える。また、積立金の運用利回りが良ければそれだけ財政は余裕が出る。実際、12年度の積立金運用益は株高などの影響で11兆円以上となり、取り崩した分を差し引いても積立残高が増えている。

財政検証では出生率、賃金や物価の上昇率、運用利回りなどの数値を変えて試算しているが、現行制度の持続可能性を強調しようとすると、どうしても楽観的な経済状況を前提にする傾向となる。前回(09年)の検証では積立金の運用利回りを高く設定したことが批判を招き、逆に現行制度や財政検証の信頼性に疑問を持たれる結果となった。

現行制度を批判する野党や専門家は極端に厳しい経済状況を前提にした独自の試算を示すなどして、年金の破綻を警告してきた。年金への国民の関心は高いが、その数理計算は複雑かつ難解で国民にはわかりにくい。政治や専門家の思惑で不安と混乱を広げてきた面はなかっただろうか。

今回の財政検証では、パート労働者への厚生年金の適用拡大、国民年金の納付期間延長をした時の効果についての試算も示した。年金財政の維持だけでなく、パート労働者や自営業者の給付水準の引き上げ、自らは保険料を払わなくても年金が受給できる第3号被保険者(専業主婦)をどうするかといった現実的な改善策について冷静に検討することが必要だ。

読売新聞 2014年06月05日

年金財政検証 将来世代守る改革につなげよ

老後の支えとなる年金制度を将来世代に引き継ぐため、改革を着実に実行せねばならない。

政府が公的年金の財政検証の結果を公表した。5年に1度、人口や経済の動向を踏まえ、年金財政の健全性をチェックするものだ。

少子高齢化で年金の給付水準は低下していく。検証結果では、現役世代の平均収入に対する標準世帯の受給額の比率(所得代替率)は、2014年度の62・7%が43年度には50・6%まで下がる。

04年の年金改正で政府が掲げた「50%超」という約束は何とかクリアする。ただ、出生率低下や女性・高齢者の就業率の低迷を見込んだ試算では50%を割り込む。少子化対策や雇用政策の重要性が改めて確認されたと言えよう。

今回の検証では、基礎年金の加入期間延長などの制度改正を想定した3種類の特別試算も示した。いずれも財政改善の効果があり、早期の実現が望まれる。

中でも急がれるのが、給付抑制を図る仕組みの見直しである。

今の制度は、現役世代が払う保険料に上限を設け、収入の範囲内で高齢者に給付する方式だ。収支のバランスを取るため、少子高齢化の進展に応じて自動的に給付水準を下げる「マクロ経済スライド」を採用している。

問題は、物価や賃金の下落時や低成長時には適用を制限するルールを設けていることだ。年金の減額を避けて高齢者の反発をかわす狙いがある。

今の高齢者の給付水準引き下げが進まず、年金額が高止まりしたままでは、将来世代の取り分が減ってしまう。マクロ経済スライドを完全実施し、将来世代の年金を守るべきだ。

特別試算では、基礎年金の加入期間の5年延長と併せて、受給開始年齢を遅らせる選択をした人の年金水準も示した。

保険料を長く納めて年金額を増やす道を広げる。さらに、受給開始を65歳より遅くすると加算される制度を使いやすくする。できるだけ長く働き、遅く受給すれば、年金水準は高まるわけだ。

高齢者は健康状態や経済力の個人差が大きく、受給年齢の一律引き上げには反発が強い。当面は選択制が現実的な手法だろう。

前提となるのは、高齢者の雇用の確保である。労働力人口が減少し、高齢者にも働いて経済の支え手になってもらうことは、成長戦略としても重要だ。政府と企業は、高齢者が働きやすい環境の整備に努める必要がある。

産経新聞 2014年06月04日

年金財政検証 成長頼みとせず改革急げ

厚生労働省は5年ぶりにまとめた公的年金の財政検証で、制度の安定化には経済成長や女性の就業などを進め、少子化を食い止めることが不可欠であると結論づけた。

いずれももっともではあるが、経済成長頼みでいいのか。「デフレから脱却しさえすれば年金財政は安定する」との発想に陥ることなく、制度改革を急ぐ必要がある。

年金財政の検証では、現役世代の収入に対してどれぐらい受給できるかを示す「所得代替率」という数値をチェックする。政府は平成16年の年金制度改正時に、会社員と専業主婦世帯で50%を上回ることを公約した。

今回の検証では経済の成長から低迷まで幅広い経済前提で8通りの試算を行ったが、50%以上を確保できたのは経済成長に成功し、30代女性などの就業がかなり進んだ場合に限られる。その実現は容易ではない。

年金制度の足腰をより強固なものとし、将来世代の給付への影響を少しでも和らげるためには、改革の実現こそ避けられない喫緊の課題と認識すべきだ。

昨年末に社会保障改革プログラム法が成立し、検討すべき改革メニューは出そろっている。

今回の試算ではプログラム法を踏まえ、「マクロ経済スライド」を物価や賃金の伸びが低くても発動させた場合や、厚生年金対象の大幅拡大、保険料納付期間と受給開始を65歳、67歳としたケースの試算も行った。

産経新聞も(1)年金額が多い高齢者の基礎年金を減額し、低所得高齢者に振り向ける「自立応援年金制度」(仮称)の創設(2)デフレ経済下などで機能しない現行の「マクロ経済スライド」に代わる自動調整機能の導入(3)支給開始年齢のさらなる引き上げ-を提言してきた。これらを含め早期に具体的検討に着手してもらいたい。

改革の実現には国民に痛みを求めなければならない。国民受けの悪い改革だからといって逃げることがないよう、安倍晋三首相のリーダーシップに期待をしたい。

同時に、経済成長なしには国民生活は豊かにならない。出生率が改善されれば、受給水準も大きく変わる。それ以前に、少子化にブレーキがかからなければ日本社会が維持できなくなる。経済再生と少子化対策に全力で取り組む必要があることは言うまでもない。

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