少子高齢化のなか、年金制度をどう持続させていくか。
公的年金の財政見通しや受け取れる水準を確かめる「財政検証」の結果が発表された。5年に1度の健康診断だ。
年金の水準は、現役世代の手取り収入に対する割合(所得代替率)で表す。今の制度は、標準的な世帯の場合、厚生年金で「所得代替率50%以上」を約束している。
検証では、経済が順調に成長すれば、約30年後も50・6%以上の水準を維持できる結果となった。ただ支え手が減るため、現在の「代替率60%超」に比べると、大幅に下がる。
これを底上げする改革が必要だ。手がかりは、今回示された「オプション試算」にある。
たとえば、賃金・物価の上昇率よりも年金の上げ幅を抑える仕組み(マクロ経済スライド)を、年金が減額になる場合でも適用する選択肢だ。
そうすると、約30年後の水準は現制度より0・4~0・8ポイント上がる。そこに至るまでの年金が削られる分、将来世代に回す原資が増えるからだ。
年金が減る受給者は反発するだろう。ただマクロスライドがデフレ下で適用されなかったことで今の年金は高止まりしており、経済が沈滞するケースも想定すれば改革は急務だ。
さらに、勤め人が入る厚生年金にアルバイトやパートをもっと加入させる選択肢もある。
新たな加入者数を現実的な220万人と仮定すると、年金水準は0・5ポイント程度上がる。なにより非正規で働く人たちの年金が、雇用主の保険料負担分が加わることで底上げされる効果に目を向けるべきだ。
こちらの改革も、新たな保険料負担が生じる事業主らからの強い抵抗が予想される。
だが、非正規の人たちの将来の生活を守るには、厚生年金の加入拡大は不可欠だ。特に、今回の検証で国民年金の給付水準は厚生年金以上に下がる見通しになった。受け取れる年金額を考えれば、国民年金に入っている人たちが厚生年金に移る意味は大きい。生活保護の受給者を減らす効果もある。
こうした移行を進めて、なお低年金で生活が苦しい高齢者には、年金とは別の手立てで支えていく必要がある。
年金は制度それ自体をいくら改めても限界がある。子育ての支援で女性の就業率を上げる。元気な高齢者ができるだけ働ける環境をつくる。雇用の安定化をはかる。そうした社会全体の底上げがあってこそ、明るい展望がひらけてくる。
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