天安門事件25年 民主化なき発展続くか

朝日新聞 2014年06月04日

天安門25年 改革になぜ踏み出せぬ

6月4日を忘れるな。

中国で許されぬスローガンを、今年も香港、東京、世界各地で掲げる中国人とその友人がいる。

民主化を求める学生を中国共産党政権が武力で封じた天安門事件から、25年が過ぎた。

なぜ忘れてはならないのか。彼らが提示した民主化の方向性は正しいからであり、政権が事件を歴史から消そうとしているからである。

あのころ社会主義圏の国々は次々に変革を余儀なくされた。その中で中国の政権はもちこたえ、急速な経済成長を遂げた。

その自信ゆえか、習近平(シーチンピン)国家主席は4月の訪欧時こう講演した。「立憲君主制、帝政復活、議会制、多党制、大統領制、みな試したがうまくいかない。最後に中国が選んだのが社会主義の道だ」。しかしこれは、共産党の観点から歴史を単純化した議論にすぎない。

計画経済を捨て去った今、習氏のいう社会主義とは、共産党の一党支配への批判を許さぬ体制を意味する。弾圧されているのは活動家や知識人だけではない。各地で、党の幹部が絡んだ行政や司法の不正に庶民が声を上げられずにいる。

それでも事件の主役の一人、王丹氏は、「人権」の意識を権力が無視できなくなったという成果を指摘する。04年には憲法に「国家は、人権を尊重し保障する」と書き込まれた。

前首相の温家宝氏は、政治参加を徐々に広げ、教育によって個人の自由と発展を重視することを度々表明していた。

習政権になってから、それが逆流しているようにみえる。6月4日を前に、活動家らの拘束を徹底し、外国メディアにも圧力をかけてきたのは異常だ。

政治を変えようという意思はこの25年、民間で受け継がれてきた。ネットの普及は市民の連帯を促し、監視や弾圧に屈せず発言を続ける人々がいる。都市部での工場立地反対など、市民運動も芽生えている。

社会にかかわり、政治を考える人びとの層は着実に厚みを増している。国民の水準が低いとか、国情に合わないといった、民主化尚早論は通用しない。

自由を求める民の声に、習政権は耳を傾けねばならない。権力批判の発言だけで投獄するのは正義に反する。

言論と結社の自由を認め、健全な批判ができる幅を広げる。そんな民主化の段階的な発展なくして、国の安定はない。

四半世紀前の学生らの叫びは今なお価値を増している。決して忘れるわけにはいかない。

毎日新聞 2014年06月04日

天安門事件25年 民主化なき発展続くか

1989年6月4日、北京の天安門広場で民主化運動に参加していた学生らが武力弾圧された天安門事件から25年を迎えた。この間、中国の国内総生産(GDP)は20倍以上に増え、日本を抜いて世界第2位の経済大国になったが、政治改革はほとんど進んでいない。

改革を求める知識人への抑圧はむしろ強まっている。5月には25年を記念した小規模な研究会に参加した人権派弁護士や作家、教師らが相次いで拘束された。言論弾圧の強権政治は隣国としても看過できない。

事件後、中国が驚異的な経済発展を遂げたことは確かだ。特に改革・開放政策の創始者、トウ小平氏の指示で92年に全面的な市場経済化の方針を決めて以降、しゃにむに高度成長路線を進んできた。昨年には米国を抜いて世界一の貿易大国になった。

1人当たりGDPは400ドル(89年)から6800ドル(2013年)に増えた。北京や上海など大都市では自家用車で大型ショッピングモールに出かけ、映画や食事を楽しむといった先進国型のライフスタイルが普及してきた。

こうした中間層の拡大は共産党の一党独裁体制を揺るがし始めている。権利意識が高まり、所得格差や官僚の腐敗に対する不満も強まっている。ネット上では不正などの情報を拡散する人々と規制する当局とのいたちごっこが繰り広げられる。住民の要求を政治に反映させる手段が限られるため、各地で集団的な抗議行動も多発している。

習近平政権は「中国の夢」を新たな国民統合のスローガンに掲げ、腐敗追及や司法改革、行政改革で「政治の現代化」や「法治」を進めようとはしている。危機感の表れではあるのだろう。しかし、「憲政」「三権分立」など西側モデルの民主主義を拒否する姿勢に変化はない。

天安門事件で失脚した趙紫陽(ちょう・しよう)元総書記は軟禁状態下で録音し、国外で出版された「回顧録」で議会制民主主義の優越性を認め、政治改革の必要性を強調している。それがなければ「健全かつ現代的な市場経済を持つことはできない」という元指導者の指摘は重い。

天安門事件後、トウ小平氏は経済を最優先に国際協調路線を取った。習近平政権は逆に貪欲に海洋進出、エネルギー獲得を進め、日本を含めた周辺国との摩擦を広げている。

しかし、国内の不満を外にそらすような手法は長続きすまい。今後は成長が鈍化し、発展が社会矛盾を吸収した時代は終わりに近づく。中国の指導者がよく口にするように「歴史をかがみに」、国民の声をすくい上げる政治改革に着手しなければ、体制の危機が深まるのではないか。

読売新聞 2014年06月04日

天安門事件25年 政治改革に背を向ける習政権

中国共産党が、民主化を求める学生らのデモを武力鎮圧した1989年の天安門事件から、4日で25年になる。

少なくとも数百人が死亡した天安門事件を、共産党は「反革命暴乱」と断じ、報道を規制しただけでなく、その後も事件の再評価を求める動きを徹底的に封じ込めてきた。

四半世紀の節目を前に、習近平政権も、犠牲者の追悼活動などへの締め付けを強めている。

5月には、事件に関する研究会に参加した弁護士ら5人を拘束した。ジャーナリストなどを摘発し、外国人記者への取材妨害も続けているのは、ゆゆしき事態だ。

インターネット上の事件に関する情報もつぶさに監視し、取り締まりを強化している。

天安門事件の話題が集会やネットで広がれば、新たな反政府運動の火種になりかねないと警戒しているのではないか。

中国は市場経済を大胆に取り入れて、急速な経済成長を実現した。「発展の果実」を国民に分け与えることで、民心の離反を防ぐ効果を期待した。

政治面では民主化運動を弾圧し、共産党独裁体制の安定を図ることを最優先してきた。

共産党は天安門事件について、学校教育などでも取り上げてこなかった。権力による「不都合な歴史」の隠蔽と言えよう。

事件後、「反日」を柱とする愛国主義の宣伝・教育を強化してきたことも、民族感情に訴え、政権の求心力を保つ狙いだろう。

だが、経済的な発展の裏で経済格差や腐敗、環境破壊など様々な問題が顕在化し、国民の不満は強まっている。ウイグル族など少数民族との対立は、激しさを増すばかりである。

習国家主席は4月の演説で、「他国の政治制度をまねることはない」と明言した。民主的な制度は不要であり、一党独裁を維持するとの意思表示と見られる。

習政権が政治改革や法治主義に背を向け続ければ、国民との対立がより先鋭化しよう。

年間約20万件とも言われる集団抗議行動の広がりは、これまでの強権的な統治手法が、限界に近づいていることを示している。

中国は最近、東・南シナ海で周辺国との対立を激化させている。国民の批判をかわすため、これまで以上に覇権的な対外姿勢を強める恐れがある。

日本政府は米国や東南アジア諸国と連携し、中国の威圧的な行動への警戒を怠ってはならない。

産経新聞 2014年06月04日

天安門事件25年 圧政と挑発いつまで続く

学生らの民主化運動を武力で弾圧した天安門事件から25年を迎えた。

事件は「解決済み」だとして真相を闇に葬った共産党支配の下で、中国は民主化を置き去りにして経済だけを膨張させ、内で圧政を強め外では覇権を求めだしている。

内外の平和と安定のため習近平政権は政治改革に踏み出さなければならない。

改革派の胡耀邦総書記の死に始まった民主化デモを、党支配への脅威とみた●小平氏ら長老が軍で押さえ込み、惨劇に至った。

血の鎮圧は今でも許されるものではない。事件を風化させることなく、民主化を強く求めたい。

四半世紀を経た中国は近隣諸国の抗議に耳を貸さず、東シナ、南シナ海での強引な海洋進出が目立つ。事件を境に民主化に背を向けて経済成長へひた走りし、軍備拡張を進めた帰結である。

冷戦終結などで生じた共産主義イデオロギーの空洞を埋めるために、「愛国教育」という反日思想を広めたことも、中国を対外強硬路線へと突き動かしている。

習指導部になって、国内の圧政は一段と強化されている。

少数民族には「テロ防止」を掲げた抑圧が続き、天安門事件25年を控えた今春からは、浦志強氏ら人権派弁護士や民主化を求める知識人が多数拘束された。

インターネット上の言論弾圧も厳しさを増し、宗教にすがる人々が増えた温州では、政府公認のキリスト教団体の教会まで形式違反を口実に取り壊された。

わずかでも自由な思想や信条を一切認めない手法は、政治体制の違いを超えて容認できない。

対外的な強硬姿勢と国内的な抑圧政治が共産党支配の本質だとしたら、世界が見守る中で「人民の軍隊」が国民に銃を向けた天安門事件は、その本性がむき出しになった出来事だったといえる。

事件後もしばらくは、経済成長に伴い段階的に民主化が進み、国際的な責任も担える国になるとの期待もあった。だが、今の姿はそれを裏切るものでしかない。改革を支援してきた米国などの関与政策の見直しは当然だろう。

天安門事件で、中国の民主化は25年も遅れてしまった。発展著しい経済と後進性から脱せない政治の間の落差はあまりに大きく、中国はますます「いびつな大国」になってしまう。いつまでも放置されていいわけがない。

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