エジプトで再び軍出身の大統領が誕生する。国民の求める治安回復と経済再建が急務である。
エジプトで大統領選が行われ、国軍を率いてきたアブドルファタハ・シシ前国防相が、対立候補に大差を付けて勝利を確実にした。
シシ氏は昨年7月、事実上の軍事クーデターを主導した。モルシ大統領を解任し、暫定政府を樹立して、実権を握った。
暫定政府は、抗議デモやデモ隊同士の衝突を厳しく取り締まり、治安の悪化に歯止めをかけた。その結果、低迷していた主要産業の観光の収益は、ある程度回復した。巨額の予算をつぎ込んで、社会基盤整備にも取り組んでいる。
選挙では、シシ氏のそうした実績が評価されたとみられる。
「アラブの春」と呼ばれる民衆の蜂起によって、軍出身のムバラク大統領を倒したエジプト国民だが、混乱収拾を軍に頼らざるを得ないのが現状なのだろう。
新政権の最大の課題は、解任されたモルシ氏の支持母体だったイスラム主義組織「ムスリム同胞団」と、どう向き合うかである。
暫定政府下で、同胞団はテロ組織として非合法化され、当局はテロ容疑などで2万人以上を逮捕した。モルシ氏も、大統領在任中に反政府デモ隊へ発砲を命じた罪を問われて拘束されたままだ。
だが、同胞団は依然、エジプト社会の一部から根強い支持を受けている。大統領選挙の投票率が、前回を下回る推定44%にとどまったのは、同胞団が選挙をボイコットしたためとみられる。
同胞団を一方的に弾圧するだけでは、社会の安定は望めまい。同胞団の一部が過激化して、テロが一層広がることが懸念される。
シシ氏には、外交関係の立て直しも求められる。
モルシ前政権は、同胞団の方針に沿って、シリア反体制派や、パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスを支援した。
その結果、エジプトは、シリアのアサド政権やイスラエル政府との関係が悪化し、地域の仲介役としての影響力が低下した。
シシ氏が、米国との関係を重視するアラブの穏健派というエジプトのかつての外交姿勢を取り戻せば、中東の安定化に役立つ。
米国や欧州も、シシ氏の外交政策に期待している。米国が、モルシ氏解任後に凍結したエジプトへの軍事援助を今春に一部再開したのは、その表れである。日本にとっても、滞っていた支援の正常化を検討する機会となろう。
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