秘密監視機関 国会は関与への責任自覚せよ

朝日新聞 2014年06月01日

秘密の監視 国会よ、せめても

自民、公明両党は、特定秘密保護法の運用が妥当かどうかをチェックするため、衆参各院に「情報監視審査会」を設置することなどを盛り込んだ国会法改正案を、衆院に提出した。

秘密法は、世論の強い反対を押し切り、与党が強引に成立させた法律である。恣意(しい)的な運用を防ぎ、国民の不安が少しでも和らぐような仕組みをつくることが、与党が果たすべきせめてもの責任のはずだが、どうにも不十分と言わざるを得ない。

最低限の体裁は整えられた。

審査会は常設で、委員は8人。各会派の議席数に応じて割り当てられる。正副議長も会議に出席し、発言することができる。会議は非公開で行われる。

自民党は当初、常任・特別委員会からの要請があった場合にのみ審査するとしていたが、公明党の主張を受け入れて「常時監視」とし、政府から毎年、秘密の指定や解除の状況に関する報告を受ける。政府に特定秘密の提出を要求し、運用に問題がある場合は改善を勧告できることも明記された。政府が提出を拒否する場合は、審査会にその理由を明らかにしなければならないとしている。

ただし、監視の実効性には大きな疑問符がつく。

審査会が秘密の提出を求めても、政府が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れ」があると判断すれば拒否することができる。運用改善の勧告にも、何ら強制力はない。

これで「監視」と言えるだろうか。せいぜい、審査会が積極的に秘密の提出要求と運用改善の勧告を行い、その積み重ねで存在感を示す。それにより政府に緊張感を持たせるという遠回しの効果しか期待できない。

それにしても、与党プロジェクトチームの町村信孝座長の説明には首をひねってしまう。「国会が何でも命令して、政府が言うことを聞かないといけない状況になれば、本来の三権分立から逸脱する」。それほど三権分立を尊重するのならばなぜ、政府への権力集中をもたらす可能性をはらみ、国会の権能を脅かしかねない秘密法を成立させたのか。

国会は政府の追認機関になりつつあるのではないか。有権者の不信は募る。自分たちは有権者に何を託され、何をなすべきなのか。一人ひとりの国会議員が向き合うべき問いだろう。

法案の付則には、審査会の調査機能の充実強化について国会で常に検討を加え、必要な措置を講じるとある。当然だ。まずは党利党略を超えた、国会での真剣な議論を望む。

読売新聞 2014年06月01日

秘密監視機関 国会は関与への責任自覚せよ

安全保障にかかわる機密情報の保全と、国民の「知る権利」を両立させるため、国会が担う役割は極めて重い。

自民、公明両党は、特定秘密保護法の運用状況を監視する「情報監視審査会」を衆参両院に常設する国会法改正案を国会に提出した。日本維新の会、みんなの党などの賛成を得て、今国会中の成立を目指している。

衆参の情報監視審査会は、委員各8人で構成する。政府から秘密保護法の運用状況の報告・説明を受け、必要に応じて政府に秘密の提出を要求できる。秘密の指定や解除などに問題があると判断すれば、運用の改善も勧告できる。

国会の国政調査権に基づく政府の秘密保護状況の監視は、官僚による安易で恣意しい的な秘密の指定・解除に対する一定の抑止力になると評価できる。委員が多すぎると秘密漏洩ろうえいの危険性が高まる。8人は妥当な規模だろう。

政府は「安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがある場合」は秘密の提供を拒否できる。審査会の改善勧告には強制力がない。こうした点を問題視する向きもある。

だが、第三者への不開示を条件に他国から秘密を提供されることもある。国会への提供を拒む場合は、理由の明示が義務づけられる。三権分立の観点からも、改正案の規定はおおむね適切だ。

重要なのは、政府からの年次報告や、行政機関の長からの説明の聴取を充実させることだ。秘密指定の件数などの報告を受けるだけなら、審査会は、行政の「追認機関」に陥ってしまう。

12月に秘密保護法が施行されると、官僚が萎縮・過剰反応し、報道機関の取材に前向きに応じなくなる恐れが指摘されている。

審査会は、報道の自由の重要性も十分に踏まえて、政府の秘密保護法の運用を監視してほしい。

こうした一連の役割を果たすには、審査会の事務局職員に専門性のある人材を育成することが中長期的に欠かせない。

審査会委員も、秘密を漏らせば、刑事罰や国会の懲罰の対象となるが、国会内の発言は「院外で責任を問われない」との憲法51条の規定により刑事罰は免責される。

国会議員がこの特権を悪用してはならないのは、言うまでもない。秘密保護制度に関与する責任を自覚して行動すべきだ。

特定秘密は、一定期間後に公開され、後世の検証を受ける。国会もまた、どんな役割を果たしたかについて、将来、評価されることを忘れないでもらいたい。

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