維新の会分裂 野党再編は政策本位で進めよ

毎日新聞 2014年05月30日

維新の会分党へ 再編より反省が先だ

実態は自壊である。衆院で野党第2党の日本維新の会の石原慎太郎、橋下徹両共同代表が分党で合意した。石原氏が結いの党との合流に憲法観の違いなどから反対したことで方向性の違いが決定的となり、維新の会は分裂する。

石原、橋下両氏という東西の二枚看板で現在の姿となった同党だが、憲法観や原発政策が異なり、体質も違う旧太陽の党と旧維新の会が合体した矛盾が結局、露呈したと言える。理念なき野党再編に走るような愚を繰り返してはならない。

石原氏は記者会見で「憲法を直したい。結いの党との合体は合点がいかない」と強調した。石原氏は結いの党との共通政策に「自主憲法制定」を盛りこむよう求めたが、江田憲司代表は拒否したという。

江田氏によると橋下氏は「自主憲法など大した問題ではない」と折り合いをつけようとしたとされる。だが、その認識は誤っている。

自主憲法制定を掲げるかどうかは現憲法下の戦後政治を肯定的に評価するか、さらに憲法論議をいわゆる「押しつけ論」に立脚して展開するかを決定づけるものだ。政治の根幹にかかわる部分で相いれない以上、分裂はむしろ当然だ。

衆院選を控えた1年半前、理念や政策に違いを抱えたまま構造改革路線の旧維新の会とタカ派色の濃い旧太陽の党は合流した。当時「憲法破棄」を唱える石原氏に橋下氏は強く反論していたものだ。方向性の違う双頭体制が機能しなかった反省が足りないのではないか。

維新の会迷走の大きな要因は橋下氏の言動にもある。従軍慰安婦問題をめぐる発言が混乱を呼び、肝心の大阪都構想は失速状態で、出直し大阪市長選も空回りに終わった。いわゆる第三極勢ではみんなの党も分裂したうえ、渡辺喜美前代表は「政治とカネ」の問題で党首を退いた。与党との対立軸を示せず、野党として十分機能しなかった責任は重い。

分党が橋下氏らの勢力と結いの党の合流を加速させる可能性はある。だが、理念と政策軸を打ち出さない限り、生き残り目当ての離合集散という印象はぬぐえまい。

石原氏は結いの党との合流に反対した理由に集団的自衛権問題もあげた。安倍晋三首相が目指す憲法解釈の変更を橋下氏は支持するが、江田氏は慎重姿勢だ。安全保障、歴史認識など根幹に関わる部分で一定の共通認識に立たなければ「なぜ再編か」の説得力を欠く。橋下氏が首長として国会議員団と調整し続ける課題も残されたままだ。

第三極勢は衆院で約70議席を持ち、民主党を上回る。反省なき再編は危うい。巨大与党を監視する責任をもっと自覚すべきだ。

読売新聞 2014年05月30日

維新の会分裂 野党再編は政策本位で進めよ

第3極勢力の中核だった日本維新の会が分裂する。野党再編の進め方や基本政策で足並みが乱れてきた以上、当然の帰結と言えよう。

維新の会の石原慎太郎、橋下徹両共同代表が会談し、維新の会を「分党」することで一致した。石原、橋下両氏を中心に、それぞれ新たな政党を作ると見られる。

分裂の引き金は、橋下氏が主導する結いの党との合流問題だ。

石原氏は、結いとの政策合意に「自主憲法制定」の明記を求めたが、結いの江田代表は、幅広い野党結集の妨げとなると反対した。協議は行き詰まっていた。

石原氏は記者会見で、憲法や集団的自衛権の扱いに関し、結いと「大きな齟齬そごを感じた」と語った。橋下氏が結いとの合流を優先したため、分裂はやむを得ない。

維新の会は2012年9月、橋下氏らが結成し、その後、石原氏率いる旧太陽の党が合流した。両氏を二枚看板に12年12月の衆院選では躍進したが、昨年の参院選は振るわなかった。

石原氏は原発を推進する立場なのに対し、橋下氏らは「原発ゼロ」を持論としている。党内では、エネルギー政策などを巡る「東西対立」が絶えなかった。

今回の分裂は、政策の違いに目をつむり、選挙戦術を優先して合流したツケが回ったと言える。

今後は、野党再編が加速しよう。橋下、江田両氏は7月にも新党を作り、来春の統一地方選に向けた準備を急ぎたいとしている。

橋下氏は、自民党に対抗するため、野党結集の必要性を強調する。民主党やみんなの党の一部にも新党参加を呼び掛ける構えだ。

民主党も、傍観してはいられまい。党内では、海江田代表は指導力に欠けるとして、辞任を求める声が出ている。維新の分裂が、民主党内の反執行部の動きを後押しする可能性もある。

一方、石原氏は、将来の自民党との連携を視野に、憲法改正の実現を目指す意向だ。安全保障の考え方が近いみんなの党との協力も模索すると見られる。

肝心なのは、野党再編を進める際に、政治理念や政策を共有することだ。維新の会は分裂後も、合致する政策については政権と協力する「責任野党」の立場を忘れるべきではあるまい。

昨夏の参院選以降、自民党だけが突出した「1強多弱」の状況が続く。野党は存在感を示せていない。政府・与党の政策の問題点を指摘し、政治に緊張感を持たせる役割を果たさねばならない。

産経新聞 2014年05月31日

維新の会分裂 改憲路線の維持期待する

政界を変える起爆剤となる期待も背負って登場した日本維新の会が、衆院選から2年を待たずに分裂した。

新たな「第三極」が注目されたのは、自民党とともに憲法改正を志向する立場を掲げたことからでもあった。

だが、その憲法観がきっかけで橋下徹、石原慎太郎両共同代表がたもとを分かつ結果となったのは残念だ。

それでも、日本の立て直しに何が必要かという両氏の認識に変わりはないはずだ。今後とも率先して憲法改正を政治課題に位置付ける路線を維持してもらいたい。

分裂の背景にあったのは、橋下氏が今夏までに実現しようとしている結いの党との合流問題だ。

共通政策作りにあたり、石原氏の強い持論でもある「自主憲法制定」の文言を盛り込むことに、結いの江田憲司代表は反対した。

維新内でも、橋下氏に近い議員らの間には「自主憲法」に固執する必要はないとの判断が広がっていたようだ。

石原氏は29日の会見で「憲法をなんとしても直すことに政治生命を賭してきた」として、結いとの合流には反対で、橋下氏に「分党」を申し出たと説明した。

また、憲法とともに集団的自衛権の行使容認についても「江田氏の見解との間には大きな齟齬(そご)がある」と語り、「野党が団結する眼目は否定しないが、選択の方法が違う」と指摘した。

これについては、橋下氏自身にも明確にしてもらいたい。橋下氏は憲法解釈を変更して集団的自衛権を限定的に容認する考えを示しているが、江田氏は「対米追従などの観念論で解釈改憲を認めるべきではない」と慎重だ。

結いとの合流には、野党第一党に躍り出たいというもくろみもあるのだろう。だが、共通政策作りで安全保障政策の根幹での食い違いを残してはならない。

維新内部にも、原発エネルギー政策をめぐる溝があった。橋下氏は2030年代の原発ゼロを捨てていないと主張し、石原氏は原発輸出反対の党方針に反対した。両氏が東西に分かれ、党内で意思疎通を欠いていた問題も大きい。

他の野党には、維新の分裂が野党再編につながるとの見方も出ている。だが、民主党が党内の亀裂を恐れて政策論議を先送りし、政権与党でありながら大分裂したことを忘れてはいまい。

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