拉致再調査 全員の帰国だけが解決だ 結果見ぬ制裁解除を危惧する

朝日新聞 2014年05月30日

拉致再調査 今度こそ真の救済を

日本人拉致問題について、北朝鮮が再調査を約束した。

スウェーデンで開かれた外務省局長級協議で日朝両政府が合意し、きのう安倍首相らが発表した。北朝鮮は再調査のための特別委員会をつくり、それに応じ日本は北朝鮮に対する独自の制裁を解除していく。

これまで日朝協議が開かれても、「拉致問題は解決済み」と繰り返してきた北朝鮮だ。「すべての日本人に関する包括的な調査」へと態度を変えさせたことの意味は大きい。

この合意を、長年苦しめられてきた被害者とその家族にとって真の救済となるような結果に結びつけたい。

「全面解決へ向けて、第一歩となることを期待している」と安倍首相が語った。この機会を逃してはならない。

もっとも、合意文書をみる限り、実際にはこれからも日朝間では激しい駆け引きが繰り広げられそうだ。

北朝鮮は08年、再調査を約束し、今回のように委員会を立ち上げて対応すると表明した。だが、日本の政権交代を理由に、突然、委員会の設置をとりやめると一方的に通告してきた経緯がある。

政府間での合意とはいえ、今回も疑念がぬぐえないのはそのためだ。日本政府は北朝鮮側から適宜、調査の報告を受けるとしているが、経過を慎重に見極めながら、細かく注文をつける必要がある。

それでも、今回の合意は、08年のときよりも幅広い内容になっている。

終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨問題や、北朝鮮国内に住むいわゆる日本人妻の帰国問題にも言及している。これに対し、日本側は北朝鮮が強く望む船舶の入港禁止措置の解除などにも踏み込んでいる。

北朝鮮は金正恩(キムジョンウン)・新体制が発足して以降、核・ミサイル開発といった強硬路線を続ける一方、国民に約束した経済回復はまったく進んでいないという事情がある。

日本政府には、北朝鮮の内部事情を探りつつ、硬軟両面でのしたたかな外交が求められる。制裁緩和を活用し、北朝鮮が誠実に対応せざるをえないような状況をつくる工夫が要る。

日朝首脳が初めて会談し、日朝平壌宣言を発表したのは12年も前のことになった。

平壌宣言は国交正常化をうたい、隣国同士のあるべき姿を網羅的に示している。関係が悪化し続けた歳月を補う作業は困難を伴うが、時間を浪費する余裕はない。

毎日新聞 2014年05月31日

拉致再調査 機会を最大限いかせ

北朝鮮が拉致被害者の再調査を約束し、日本が北朝鮮への制裁を一部解除することで、両政府が合意した。調査の実効性をどう確保し、検証するかなど課題は多いが、双方ともこの機会を最大限にいかし、拉致問題の解決につなげてほしい。

合意によると、北朝鮮は特別調査委員会を発足させ、拉致被害者や特定失踪者だけでなく、行方不明者、日本人妻など全ての日本人を対象に包括的で全面的な調査を行う。

これに対して日本は人的往来の規制、送金報告や現金持ち出しの届け出義務、人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止を解除する。

北朝鮮は2008年にも再調査に合意したが、当時の福田康夫首相の退陣により、調査開始を一方的に見送った経緯がある。今回はその時の合意が基本だが、日朝双方とも一歩、踏み込んでいる。調査の対象が広がり、船舶入港禁止などの制裁解除が盛り込まれ、日朝平壌宣言に基づく国交正常化の意思が強調された。

日朝双方の意欲の表れだろう。安倍晋三首相が言うように「全面解決へ向けて第一歩」となるよう期待したい。だが、交渉は簡単ではない。

北朝鮮は04年にも再調査に応じたが、横田めぐみさんの遺骨として提出した骨が日本側のDNA鑑定で別人のものと判明したことがある。調査に対する日本側の不信感は強い。

合意では調査開始した時点で、日本は独自制裁を一部解除する。調査が進まなかったり、いいかげんなものに終わったりして、制裁解除が食い逃げされる懸念は否定できない。

北朝鮮に正確で迅速な調査をさせ、検証できるようにする必要がある。日本側は調査状況について随時、通報を受け、調査結果を直接確認できる仕組みを確保するという。

また進展があった場合でも、どういう結果が得られれば拉致問題の解決とみなすかという判断は難しい。

調査対象が全ての日本人に広がったのは、北朝鮮が全面的解決への意思を示したようにも見えるが、逆に十分な調査をせず何人かの日本人の帰国で終結させてはならない。

安倍首相も北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記も、日朝関係を打開したい事情を抱えている。首相は拉致問題を政権の最重要課題に掲げて成果を求め、金第1書記は国内経済の疲弊や国際的孤立から脱するため日本との関係を突破口にする狙いとみられる。

首相が前のめりになるあまり性急にことを運べば、北朝鮮に足元を見られかねない。一方で、拉致被害者家族の高齢化が進み、被害者の早期帰国が待たれる。北朝鮮の核・ミサイル開発に厳しく対処する国際社会との連携も忘れずに、焦らず着実に成果をあげてほしい。

読売新聞 2014年05月31日

拉致再調査 北朝鮮は誠実に約束を果たせ

北朝鮮が拉致被害者の安否などについて全面的な再調査を約束した。この機会を逃さず、長年の懸案の解決につなげなければなるまい。

26~28日の日朝協議に基づく合意文書は、再調査について「包括的かつ全面的に実施する」と明記した。未帰国の拉致被害者12人に加え、拉致の疑いのある特定失踪者約470人も対象に含めた。

北朝鮮が、国内の全機関を調査できる権限を持つ「特別調査委員会」を設置し、調査状況を日本側に随時報告する。「日本人の生存者が発見された場合、日本側に伝え、帰国させる」としている。

安倍首相は「拉致被害者救出の交渉の扉を開くことができた」と強調した。北朝鮮が「拉致問題は解決済み」とする従来の主張を撤回したのは、日本から経済支援などを引き出す思惑からだろう。

菅官房長官は、再調査について1年以内にも結果を公表するよう求める考えを示している。

ただ、北朝鮮は横田めぐみさんの「遺骨」を返還し、日本側の鑑定で別人のものと判明した前例がある。こうした不誠実な対応を許さぬよう、外務省や警察当局が協力し、北朝鮮の調査状況を監視して注文を付けることが重要だ。

再調査の開始時に、日本側は北朝鮮に対する独自制裁を一部解除する。北朝鮮籍船舶の日本への入港禁止措置などが対象だ。さらに「適切な時期」に北朝鮮への人道支援を検討するとしている。

再調査だけで、制裁の一部を解除することに、日本国内では疑問の声もある。だが、制裁解除の約束なしでは北朝鮮の譲歩を引き出すのが難しかったのも事実だ。

政府は、具体的な進展を見極めつつ、慎重かつ段階的に制裁を緩める必要がある。人道支援は、重大な成果を前提とすべきだ。

北朝鮮は、朝鮮総連中央本部の土地・建物の競売に懸念を示し、善処を求めていた。だが、この問題は、朝鮮総連が巨額融資を返済しなかったことが原因だ。政府が応じなかったのは当然である。

北朝鮮が日本との関係改善に動いたのは、国際的な孤立を打開する狙いもある。中国との関係は冷え込み、米国や韓国との協議も最近は途絶えている。

大切なのは、日本が北朝鮮包囲網の足並みを乱さないことだ。米韓両国と緊密に情報共有し、協調体制を維持せねばならない。

北朝鮮は核やミサイルで軍事的挑発を続けている。日本は、拉致と核・ミサイル問題を包括的に解決する方針を堅持すべきだ。

産経新聞 2014年05月30日

拉致再調査 全員の帰国だけが解決だ 結果見ぬ制裁解除を危惧する

安倍晋三首相は、北朝鮮による拉致被害者の安否についての再調査に関し、北朝鮮側が「拉致被害者と拉致の疑いが排除されない行方不明者を含め、すべての日本人の包括的な全面調査を行うことを約束した」と述べ、「全面解決へ向けて第一歩となることを期待する」と話した。

北朝鮮も国営朝鮮中央通信を通じ、同様の発表を行った。北朝鮮は特別調査委員会を設置し、調査をスタートさせる。

これに伴い、日本政府は北朝鮮に対する制裁を一部解除し、「適切な時期に人道支援の実施も検討する」と発表した。

いうまでもなく、拉致事件の解決は、全被害者の帰国である。拉致被害者についての全面再調査の約束は一定の前進ではあるが、あくまで再スタートの地点に立ったにすぎない。

そもそも再調査の約束は、6年前に日朝間でなされたものである。一方的に約束を破り、放置してきたのは北朝鮮の側だ。この程度の合意で制裁を一部解除するのは時期尚早である。

これまでの交渉で、何度も裏切られてきた経緯を忘れてはいけない。再調査に日本側は加わらず、期限も設けられていない。制裁解除は、あくまで再調査の結果に対して行われるべきものである。

≪各国との連携も考慮を≫

北の核、ミサイル開発に対し、国際社会と連帯して圧力をかけてきたことも忘れてはならない。

菅義偉官房長官は、北朝鮮側の調査が開始された時点で、人的往来の規制措置、送金に関する措置、人道目的の北朝鮮籍船舶の入港規制措置を解除すると発表した。これらはいずれも、北朝鮮側が求めていたものだ。

再調査の結果が何ら分からない時点での制裁解除が、かえって北朝鮮側に足元をみられることにつながらないか、危惧も大きい。

日朝両政府は3月、安倍政権下で初めての公式協議を約1年4カ月ぶりに再開させた。今月26日から28日にかけては、スウェーデンで開いた局長級会合で、拉致問題を継続協議とすることを確認していた。北朝鮮にとっては、経済的困窮に加え、拉致という非人道的行為に国際圧力が強まる中で行われた交渉の再開だった。

ところが協議で北朝鮮側は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルの売却問題を持ち出し、懸念を表明したという。協議後に宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使は「必ず解決しなければならない問題だ」と話した。

法律に従って処理が進められている問題を持ち出すこと自体、おかしかった。政府は司法に介入できないという当然の立場を説明したが、北朝鮮側はこれを理解しなかったという。

≪無法な要求に応じるな≫

総連中央本部は北朝鮮の大使館としての機能を持ち、さまざまな対日工作にかかわってきたとされる。破綻した在日朝鮮人系の信用組合の不正融資事件にからみ、総連に対し約627億円の債権を持つ整理回収機構が総連本部の土地建物の強制競売を申し立て、東京高裁が高松市の不動産関連会社への売却を許可した。

総連側は不服として最高裁に特別抗告したが、法により解決される問題だ。立ち退きを求められたら従うのが法治国家としてのルールだ。外交の舞台で法を曲げるようなことがあってはならない。

再調査の開始に伴う制裁解除などの合意条件にも、総連中央本部の問題は含まれていないという。当然だろう。こうした原則は今後も堅持しなくてはならない。

朝鮮中央通信と平壌放送は日本側との合意について、「わが方は日本人の遺骨および墓地と残留日本人、日本人配偶者、拉致被害者および行方不明者を含むすべての日本人に対する包括的な調査を全面的に同時並行して行うこととした」と表明した。

「遺骨」や「墓地」を前面に出したこうした文言を聞くと、過去に飲まされた煮え湯の記憶がよみがえる。北朝鮮は調査の結果として、拉致被害者の横田めぐみさんや松木薫さんの「遺骨」を出してきたが、日本側の鑑定で偽物と判明した。

安倍首相は「全ての拉致被害者の家族が自身の手でお子さんを抱きしめる日がやってくるまで、私たちの使命は終わらない」とも話した。この言葉を、すべての関係者が忘れてはならない。

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