EUの試練 寛容の精神見失わずに

毎日新聞 2014年05月28日

EUの試練 寛容の精神見失わずに

第二次世界大戦後、欧州の平和と安定を目指して進められてきた統合路線の試練と言えるだろう。欧州連合(EU、28カ国加盟)の立法機関である欧州議会(751議席)の選挙で、EU脱退や移民規制などを求める右派政党が大きく躍進した。

市民の直接選挙で選ぶ欧州議会は各加盟国の閣僚で構成する閣僚理事会と共同で立法権・予算決定権を持ち、行政機関である欧州委員会の活動を監督する。議席は人口比などで各国に割り振られ、選挙は国ごとに行われる。有権者総数は約4億人。欧州議会の場では各国の政党が横断的な連合会派を組んで活動する。

単一通貨ユーロの導入や域内の自由移動など金融・経済政策の共通化を進めてきたEUだが、一般市民の目が届かないブリュッセルのEU本部で重要な政策が決められることへの反発も強かった。このため2007年にEU基本条約が改正され、欧州議会の権限を強化し、議会の各会派がEU行政機関のトップである欧州委員長の候補を立てて議会選挙に臨む仕組みに変えた経緯がある。今回はこの改正基本条約(リスボン条約)発効後、初めての欧州議会選挙だったが、EUに対する市民の予想以上の不信感を示す結果になった。投票率も約43%と低迷した。

フランスでは国民戦線、英国では英国独立党と、いずれも反EU、反移民を掲げる政党が全国規模の選挙で初めて得票率で1位を占め、両国政権に衝撃を与えた。高い失業率など経済不振にあえぐ有権者の不満の受け皿になった形だ。債務危機脱却のためEUに緊縮策を強いられたギリシャでも、反EUの急進左派連合がトップになった。ドイツでは、ギリシャへの財政支援に反発しユーロ圏脱退を訴える政党が政権への批判票を集めて議席を獲得した。欧州債務危機への対応をめぐる各国政権への国民の不満が、結果的に反EU勢力の躍進につながったともいえる。

一方、東欧の比較的新しい加盟国ではなおEUへの信頼が高い。混乱からの脱却を目指すウクライナはEU加盟を目標に掲げている。EUの理想に期待する声はなお強い。

選挙の結果全体を見れば、メルケル独首相のキリスト教民主同盟などで構成する中道右派会派「欧州人民党」が約28%の得票率で第1位、ドイツの社会民主党やフランスの社会党などによる中道左派会派「社会民主進歩同盟」が約25%で第2位を占めた。ともに欧州統合推進派で、合わせて過半数を確保した。推進派が票を減らしたとはいえ、従来のEUの基本路線が覆るわけではない。

厳しい現実を直視しつつ、理想とする統合と寛容の精神を見失わず、その実現に向けて前進してほしい。

産経新聞 2014年05月29日

EUの将来 明確な道筋と決意を示せ

欧州連合(EU)統合の先行きを危ぶむ声が強まっている。

欧州議会選挙で統合推進に批判的な勢力が3割近い議席を得た。フランスでは反移民を掲げる極右の国民戦線(FN)が既成政党を抑え全国規模の選挙で初めて首位に立った。

背景には、ギリシャの放漫財政に端を発した欧州債務危機収拾の遅れがある。そのギリシャでもEU離脱を掲げる急進左派連合が首位についた。

選挙で突きつけられた統合の課題克服は、EUのみならず、国際社会全体にとっても喫緊の課題である。加盟各国は、欧州の生き残り策と定めた統合の原点に立ち返り、推進への明確な道筋と決意を改めて内外に示す必要がある。

スタート時点でメンバーは6カ国にすぎなかった欧州統合も、この半世紀で加盟国は28カ国と5倍近い規模にまで増えた。経済規模は、いまや世界の国内総生産(GDP)合計の3割を占める。

急ピッチの欧州統合には域内の格差拡大を招き、危機の遠因になったとの批判もある。だが統合が勢いを失えば、単一通貨ユーロの信頼は揺らぎ、ようやく回復基調が見えた世界経済の新たな足かせになりかねない。混乱が続くウクライナ情勢への影響も必至だ。

欧州議会は5年ごとの改選で、定数751の議席は各国の人口比で案分されている。各国政府を代表する閣僚理事会とともに、EUの行政機構である欧州委員会の活動をチェックするのが役割だ。

ただし、権限はEUとしての国際協定締結や新規加盟国の承認など限定的だ。加盟国別の政策決定には直接関与できないが、その選挙結果は各国の対EU政策に影響を及ぼすのは間違いない。フランスなど一部主要国の「内向き」志向の高まりは要注意だ。

救いは、議席を大幅に減らしたとはいえ、統合推進派が今回もかろうじて過半数を維持したことだ。イタリアでは統合推進を訴えるレンツィ政権が大差で勝利している。39歳の若い首相のリーダーシップに期待して、イタリア国債も大きく買い戻されている。この流れを取り戻したい。

選挙結果を受け、EUは直ちに非公式首脳会合を開いた。信頼回復に向け何より重要なことは、成長や雇用の確保を最優先に、加盟国が一致結束することだ。その基本を着実に進めてほしい。

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