視点…集団的自衛権 日米安保

朝日新聞 2014年05月29日

集団的自衛権 疑問が募る首相の答弁

安倍首相が集団的自衛権の行使容認への検討を表明してから初めて、きのうの衆院予算委員会で国会論戦があった。

憲法解釈の変更による行使容認に否定的な野党と首相との議論はかみ合わなかった。ただでさえわかりにくいこの問題の論点が、国民の前に明らかになったとは言い難い。

はっきりしたのは、首相がめざす夏までの憲法解釈変更の閣議決定など、とうてい無理な相談だということだ。解釈変更の根拠についても、首相はまともに答えようとしなかった。

私的懇談会の報告を受けた先日の記者会見で首相は、憲法前文や13条をもとに自衛の措置をとることを認めた72年の政府見解を引き、必要最小限度の集団的自衛権の行使に向けた研究を進めると表明した。

だが、72年見解は「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」と明記している。

きのうの審議では、72年見解が集団的自衛権を認める根拠になるのかという根本にふれる疑問を、公明党や民主党の議員が投げかけた。ところが、首相は「与党や政府において、議論していく」とはぐらかすばかりだった。

もうひとつはっきりしたことがある。首相がいくら「必要最小限度」と強調しようと、明確な歯止めをかけるのは不可能だということだ。

政府はおとといの自民、公明の与党協議会に、集団的自衛権やPKO、有事の一歩手前の事態にかかわる15のケースを、法的な対応が必要な事例として示した。首相が先の記者会見で説明した「邦人を運ぶ米艦の防護」も含まれている。

きのうの答弁で首相は、日本人が乗っていなかったり、米国以外の船だったりしても、自衛隊が守る可能性があることを示した。機雷除去のため中東のペルシャ湾に自衛隊を派遣する可能性にも言及した。

首相の答弁を聞けば、「自衛隊の活動範囲はどこまで広がっていくのだろうか」との懸念がやはりぬぐえない。

集団的自衛権については、きょうも参院の外交防衛委員会で審議される。しかし、国会は会期末まで1カ月を切った。この問題が正面から議論されそうなのは、いまのところ来月に予定される党首討論ぐらいだ。

自公協議は週1回のペースで続けられる。与党間で議論するのは当然だが、ことは憲法の根幹と安全保障政策の大転換にかかわる問題である。国会を置き去りにして閣議決定に突き進むことは許されない。

毎日新聞 2014年05月30日

視点・集団的自衛権 悩める韓国=中島哲夫

安倍政権による集団的自衛権行使容認の動きは韓国にとっても当然、重大関心事である。

韓国メディアの報道は「総理が思いのままに憲法解釈を変える日本は民主国家なのか」「戦争ができる国に生まれ変わる」(朝鮮日報)といった厳しい批判ないし警戒の論調が目立つ。

一方、韓国外務省は安倍晋三首相が記者会見した5月15日に論評を出し、日本の安保防衛論議につき「平和憲法精神堅持、透明性維持、地域の安定と平和維持に寄与する方向で」と注文を付けた。朝鮮半島の安保と韓国の国益に影響を与える事項は韓国の要請か同意がない限り決して容認できず、日本は過去の歴史に起因する周辺国の疑念と憂慮を払拭(ふっしょく)していかねばならないとも言及した。一見、「断固反対か」とも思えてしまう。

だが注目すべきは韓国政府が公式には反対とも賛成とも明言していない点だ。あまりに複雑で悩ましい現実があり、態度を鮮明にしかねるのである。

例えば韓国は米国との間で集団的自衛権を行使できる立場にある。北朝鮮との厳しい緊張・対立関係にある韓国の安保環境は生易しいものではない。

同時に、今や中国との貿易から国家発展の最も力強い原動力を得ている韓国は、圧倒的多数の国民が中国を敵に回す選択肢などとんでもないと考えている。それが韓国人の本音だろう。

すると万一「何らかの事情で日米中がからむ軍事衝突が起き、米国が韓国にも集団的自衛権の行使を要請した」といった状況が発生すれば、韓国にとって実に悩ましいことになる。韓国政府は米国が日本の集団的自衛権行使に反対していないので厳しい安倍政権批判を控え、賛否も明言できないのだろう。

一方、韓国には日本であまり知られていない学者たちの、メディアや国民感情とは異質の戦略観と対日認識が存在する。

ある軍事研究者によると、少なからぬ学者たちが「日本は周辺国家との歴史問題に関する和解が十分でないため摩擦があるが、正常な国家へと向かう過程にある。外部からの攻撃に対する防御は当然の権利だ」と認識しているという。

韓国では若者も含めて日本を「戦犯国家」と呼ぶ人も少なくないことを考えれば、この学者たちの姿勢には前向きの意味があるように思えなくもない。

しかし、こうした認識は朝鮮半島有事の際に、日本の想定を超えた、より直接的な軍事支援要請につながる可能性もある。これはこれで、日本にとって極めて悩ましい話にならざるをえないだろう。(論説委員)

読売新聞 2014年05月29日

衆院集中審議 15事例の安保論議を深めたい

安倍首相は、集団的自衛権の行使を容認する必要性を丁寧に説明し、国民の理解を広げる努力を続ける必要がある。

衆院予算委員会で集団的自衛権の集中審議が行われた。首相は、政府が示した15事例のうち、紛争地から邦人輸送中の米艦防護に関連し、米国以外の船や、邦人が乗船していない米艦の防護も可能にすべきだと強調した。

民主党の岡田克也前副総理は、米国以外の国も対象にすると、集団的自衛権の対象が際限なく広がると批判した。公明党の遠山清彦氏は、邦人が乗っていない米艦の防護に疑問を呈した。

米国との同盟関係を最重視するのは当然だが、米国以外には集団的自衛権を行使しないという見解を取るべきではない。

アジアや欧州各国との重層的な防衛協力は日本の安全確保に役立つ。2011年のリビア情勢悪化の際は、邦人がスペイン軍機や米国のチャーター船で退避した。

一連の退避活動の中で、邦人が乗っている船は守るが、乗っていない船は守らないと区別する対応も、現実的ではあるまい。

どんな事態が発生するか、想定するのは困難な以上、政府が情勢を総合的に勘案し、政策判断できる余地を残すことが望ましい。

首相は、他国の武力行使と一体化する自衛隊の補給・輸送支援などを禁じる現行の憲法解釈について、維持する考えを示した。

政府の有識者会議が提言したように、自衛隊の米軍支援を充実させるため、解釈を全面的に変更するのは一つの選択肢だ。「非戦闘地域」といった概念は日本独自のもので、国際的に通用しない。

一方で、従来の政府見解との整合性を保つため、一体化を禁じる考え方自体を維持するのは、やむを得ない面がある。

その代わりに政府は、禁止される自衛隊の支援活動の対象を極力限定し、自衛隊が活動できる地域や内容を拡大すべきだ。

安全保障の論議は、抽象論でなく、具体的事例に即して行うことが重要である。15事例に基づく議論をさらに深めたい。

日本維新の会の小沢鋭仁元環境相やみんなの党の浅尾代表は、集団的自衛権の憲法解釈の変更を支持する考えを表明している。公明党も、日本が15事例に対応することには基本的に前向きだ。

民主党は依然、党内の意見が分かれている。亀裂を恐れ、安全保障論議を先送りしてきたツケだ。早急に議論を開始し、党の見解をまとめることが求められる。

産経新聞 2014年05月29日

安保法制15事例 先延ばしする余裕はない

安全保障上必要にもかかわらず、日本にこれほど「できないこと」があったのかと改めて驚く。政府が新しい憲法解釈や法整備が必要として提示した、集団的自衛権の行使容認などをめぐる15の事例には、国の安全や国民の生命にかかわる課題が並んでいる。

具体的事例を基に国会で論戦せねばならないのに、肝心の与党協議では重箱の隅をつつくような議論が先行している。無用の駆け引きを排し、国益を考えた真摯(しんし)な議論を望みたい。

衆院予算委の集中審議で安倍晋三首相は「切れ目のない防衛体制を作ることで抑止力を高め、国民の生命と財産をより確かに守りたい」と訴えた。

首相は事例集の「邦人輸送中の米輸送艦の防護」に関連、「日本人が乗っているから守るが、乗っていないから守れないのは現実的ではない」と答弁した。

公明党の遠山清彦氏は「邦人が乗っていなければ(日本国民の安全が)覆されるとは言い難い」などとただしたが、朝鮮半島有事で外国市民が乗った船が日本へ避難してくる場合、日本人の有無にかかわらず自衛隊が守るのは当然である。集団的自衛権の行使が必要なのは明らかだ。首相は今後も国会などの場で法整備が急務であることを説いてほしい。

15の事例は国民に安全保障法制の整備の必要性を伝え、論戦を分かりやすくする効果がある。「米艦の防護」についても日本が武力攻撃を受けていない場合、公海上で米艦を自衛隊が守ることができず見捨てるようなことがあれば、米国世論は反発するだろう。

日米安保条約は紙切れ同然となり、日本の安全保障の根幹が揺らいでしまう。

事例集に関しては集団的自衛権の行使を嫌うあまり、個別的自衛権の行使と見なせば済むとの意見が、公明党のほか野党にも強い。憲法解釈の変更は必要ないとの考えなのだろうが、国際基準に反した危うい主張であろう。

憲法解釈見直しのための閣議決定の前提となる与党協議では公明党が細かな質問を繰り出しており早くも停滞気味だ。

これで、国を守る与党の責任が果たせるだろうか。与党協議に加え、国会論戦という舞台装置が整ったのだから、日本の置かれた安全保障上の環境を考え結論を急いでもらいたい。

毎日新聞 2014年05月29日

集団的自衛権 説得力欠く首相の答弁

なぜいま集団的自衛権の行使を認める必要があるのか。この根本的な問いに対し、安倍晋三首相は衆院予算委員会の集中審議で、安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守るため、日米同盟を強化しなければならないと強調した。

だが、その方法がなぜ集団的自衛権でなければならないのか、首相から納得のいく答えは示されなかったように思う。

この日の審議は、首相が私的懇談会・安保法制懇の提言を受け、行使容認に向けた検討を正式表明してから初の本格的な国会論戦となった。

朝鮮半島有事を念頭に、取り残された在留日本人を日本に向けて輸送中の米軍輸送艦を、自衛隊が集団的自衛権を行使して防護する事例などで、激しいやり取りがあった。

例えば、民主党の岡田克也議員はこう主張した。集団的自衛権の概念を使うから米国艦船にだけ対処するおかしな結果になる。自衛隊の海上警備行動と似た概念で、日本人が乗っている船舶を国籍にかかわらず守れる仕組みを作るべきだ。

安倍首相は「米国の船以外は駄目と言ったことはない」と反論した。

だが、その国が武力攻撃を受けていなければ、日本は集団的自衛権を行使できない場合がある。そのとき、日本人を乗せた米国以外の船舶をどう守るかという問いに首相は直接、答えなかった。

集団的自衛権を行使する際の要件や歯止めがあいまいなことも、改めて浮き彫りになった。

安保法制懇の提言では「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」がある場合に、政府が総合的に判断して行使できるよう求めている。

審議では、米国の要請を断れず、正当性を欠いたまま集団的自衛権が乱用される恐れなどが指摘された。

首相は、行使には法律の歯止めがかかるとしたうえで、行使は「権利であって義務ではない」「慎重に判断する」と述べたが、これでは安心して政府に判断を任せられない。

政府は、ホルムズ海峡などシーレーン(海上交通路)での機雷掃海活動への参加も事例にあげている。シーレーン封鎖による原油供給の停滞という経済的理由を「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」ととらえ、集団的自衛権行使にまで広げていいのかという疑問も出された。

首相は、戦闘行動が目的ではなく、機雷除去という限定的行使だとして理解を求めた。

だが、戦闘中の機雷除去は武力行使にあたるため反撃され、自衛隊が戦闘行動に入らざるを得なくなる可能性がある。戦争とはそういうものだ。どう歯止めをかけるつもりなのか、首相はきちんと示してほしい。

毎日新聞 2014年05月28日

視点…集団的自衛権 日米安保

安倍政権が集団的自衛権の行使容認を目指す理由に、見捨てられ論がある。

日米安保条約のもと、日本が攻撃されれば米国は日本を守る義務があるが、米国が攻撃されても日本に防衛義務はない。集団的自衛権の行使を認め、日本が血を流して米国を守る覚悟を示さないと、同盟は維持できず、いざという時、米国は日本を助けてくれないという議論だ。

自民党の高村正彦副総裁らが言っている。

日米安保条約は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本から基地提供を受けて極東の軍事拠点として使える仕組みだ。米国にも多大なメリットがある。米国だけが一方的義務を負う片務条約ではない。

安倍晋三首相も3月の衆院本会議で「日米の義務は同一ではないが、全体として見れば双方の義務のバランスはとられている」と述べた。しかも、日本は在日米軍駐留経費を思いやり予算と称して日米地位協定で定められた枠以上に負担している。

ただ、首相らの本音は違う。首相は2005年に月刊誌の対談でこう語っている。

「(米国と)対等な関係をつくるには、集団的自衛権の行使を議論する必要が出てくる」

「祖父は安保改定に全力を尽くしたが、完全な双務性の実現には至らなかった。われわれの世代の政治家の宿題だ」

祖父の岸信介元首相の遺志を継ぎ、集団的自衛権の行使を容認して安保条約の双務性を高め、ひいては憲法を改正して戦後レジーム(体制)から脱却するのが、首相の悲願なのだろう。

その首相の理念に、米国不信と中国への懸念から来る政権幹部らの見捨てられ論が結びつき、安倍政権は行使容認に突き進んでいるように見える。

安保体制は、沖縄の過重な基地負担の上に成り立っている。行使を認めるなら、基地や米軍駐留経費の見直しも議論されなければ、バランスがとれない。

見捨てられ論が想定しているのは、沖縄県・尖閣諸島で日中が軍事衝突した場合だろう。安保条約があっても米軍が軍事介入する保証はない。安倍政権は日本が血を流す覚悟を示すことで、米国を巻き込める可能性を高めたいのだろうが、あまりに一面的な同盟の見方だ。

有事には、まず日本が個別的自衛権を行使して領土、領海、領空を守るのは当然のことだ。

そのうえで、日本が米国にとって助ける価値のある国になるには、先の大戦の反省に立って国際協調主義を貫き、アジアで信頼される国になることこそ優先されるべきではないか。

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