新疆テロ事件 暴力と弾圧の連鎖を断て

毎日新聞 2014年05月25日

ウルムチのテロ 力だけでは解決できぬ

中国新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチで22日朝、自爆テロが起き、約40人が死亡した。4月末にもウルムチ南駅で自爆テロが起きたばかりだ。テロは非難されなければならないが、厳しい監視体制の中、なぜ治安悪化が進むのか。構造問題にも目を向けなければならない。

かつてはトルコ系のウイグル族が圧倒的多数を占めていた同自治区だが、1950年代以降、漢族の流入が続いた。今やウイグル族は2200万の人口の半数を割り、漢族が4割を占める。辺境防衛と開発を担う屯田兵的な軍事組織「新疆生産建設兵団」が260万人も駐留するが、この9割近くも漢族だ。

ウイグル族には漢族との経済格差や、イスラム教や民族文化が尊重されていないことへの不満が根強い。2009年7月には広東省の工場でウイグル族が漢族に殺害された事件をきっかけにウルムチで抗議デモが起こり、警官隊と衝突、200人近くが死亡する暴動に発展した。

同自治区では中国からの分離・独立を目指すウイグル族系組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の活動が指摘されてきた。国外に拠点を置き、国連や米政府からもテロ組織に認定されているが、ウイグル族の不満を背景に自治区内への浸透を図っているとみられる。

昨年10月には天安門広場で車両が炎上、3月には雲南省の昆明駅でナイフなどで武装したウイグル族の男女が市民を襲った。4月末の爆発事件は習近平国家主席の初の自治区視察の最終日。今回も中国にとって重要な国際イベントである上海でのアジア信頼醸成措置会議(CICA)の閉幕翌日だ。組織化されたテロが広がりつつあるように見える。

習近平政権は「鉄腕」でテロ組織に「壊滅的打撃」を与えると強調している。だが、力だけで抑え込めるだろうか。天安門広場の車両炎上で死亡した容疑者は、親族が自治区での警察との撃ち合いで射殺されていたとされる。憎しみの連鎖につながっては元も子もない。

中国政府は国際的な協力も求めているが、テロ対策でも人権への配慮が不可欠なことは国際的な共通認識だ。「テロ事件」の捜査や裁判は外部に公にされないケースが大半だが、透明性を高める必要がある。

インターネット時代だ。中国政府は宗教を共産党体制の枠内に封じ込めようとしてきたが、年々、困難になっている。少数民族地域にいくら巨額の財政支援を行っても、それで満足するわけではない。結局は人間の尊厳の問題だ。少数民族が誇りをもって生きられると感じられる政策を取れなければ、テロ組織の浸透を簡単には防げないだろう。

産経新聞 2014年05月25日

新疆テロ事件 暴力と弾圧の連鎖を断て

中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで、死傷者が約120人に上るテロ事件が起きた。

自治区には少数民族ウイグル族が多く住み、分離独立への希求が強い。そうした目的を持ったものだったにせよ、無差別テロという非道な手段は決して許されない。

中国当局も、過激な抵抗の温床となっているウイグル族弾圧政策を改め、暴力の連鎖を断ち切らなければならない。

22日の事件は、朝市に突っ込んだ2台の車から爆発物が投げつけられ、実行犯4人が死亡する同時多発的な自爆テロだった。

習近平国家主席の自治区視察中の4月30日には、同じウルムチの駅前で爆発、3月には雲南省昆明駅前で約170人が死傷する刃物による襲撃が発生した。朝市の事件同様、ウイグル族の関与が指摘され、頻度、規模とも増大し、手口も次第に凶悪化している。

ウルムチで陣頭指揮を執る郭声●国務委員兼公安相は「テロに対する人民戦争」を宣言した。

だが、実行者や組織の摘発・処罰、警備など直接的なテロ防止策を強化するのは当然だとしても、その手段や方法は適切、公正であるべきだろう。

新疆は、清朝に征服され中国の支配下に入りながら、2度にわたり「東トルキスタン共和国」として独立を唱えている。自治区となった共産党統治下でも、初期の武力制圧や漢族流入増への反感から分離独立運動が鎮まらない。

問題は、当局がテロのたびに犯罪捜査の枠を超えて報復措置を取るといった、ウイグル族への抑圧を繰り返していることだ。

最近では、中国政府に近かった穏健派のウイグル族知識人を拘束したり、イスラム文化のひとつである男性のヒゲまで禁じたりする差別政策も取っている。

力による支配を強めれば強めるほどそれへの反発による抵抗も強まり、テロといういびつな形で噴き出してくる。悪循環である。

圧政は、少数民族にとどまらず国民全般を覆っている。労働者や農民の集団争議や社会不満を背景にした無差別殺傷事件は、ほぼ連日のように起きている。

国防費と比肩する巨額の治安予算を投じ、監視と抑圧で少数民族をはじめ国民を統治するという手法には、綻(ほころ)びが広がっている。テロの続発はその表れであることを中国指導部は理解すべきだ。

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