厚木基地訴訟 住民に真摯に向き合え

朝日新聞 2014年05月22日

厚木基地訴訟 住民に真摯に向き合え

国の防衛のための基地には、高い公共性がある。だとしても地元の住民はひたすら騒音に耐えろというのでは理不尽だ。

米軍と自衛隊が使う厚木基地(神奈川県)の騒音訴訟で、横浜地裁は住民の苦痛の訴えに理解を示す判断を下した。

損害賠償だけではない。自衛隊機は原則として夜間と早朝は飛んではならない。全国の基地騒音訴訟を通じて、初めての飛行差し止めを命じた。

厚木基地ではこれが第4次の訴訟だ。93年の第1次訴訟で最高裁はすでに、騒音が「住民の受忍限度を超える」とし、賠償すべきだとの考えを示した。

なのに国は「基地の近くに住む以上、がまんして当然」との考え方を崩さず、その後も応急的な賠償にほぼ終始してきた。

今回の命令は、賠償だけでは不十分との判断に踏みこんだ。これほど自衛隊に厳しい審判が出たのは異例のことだ。

民事訴訟での飛行差し止めは、70年代に大阪空港訴訟の下級審で認められたが、81年に最高裁が覆し、その後は各地で退ける判断が定着していた。

今回、原告団は基地騒音訴訟で初めて、行政訴訟の形をとって変化を促した。民事と違い、政府の処分や決定の妥当さを問う。防衛省の裁量の適否を判断する有効な手続きになった。

とはいえ、より深刻な騒音をおこす米軍機について判決は、判断を避けた。米軍の飛行差し止めをめぐる民事訴訟では「国の支配は及ばない」と退ける判断が各地で続いている。

行政訴訟でも今回のような結果では、司法による救済の道は八方ふさがりとなる。

そもそも米軍駐留の前提となる日米安保条約の合憲性について、司法は「高度な政治性をもつ」として判断を避けてきた。

だが、問われているのは国民が平穏に暮らす権利だ。軍の公共性とのバランスをどうとるべきか。司法が判断を避けてしまうようでは、国民はどこに救済を求めればいいのか。

司法が介入を拒む限り、その分、国の責任は重い。各基地の防音対策だけでなく、自衛隊機と米軍機の離着陸を減らすなど抜本措置の検討を急ぐべきだ。

自衛隊の活動も、日米安保体制も、国にとって重要である。だからこそ、その円滑な運営のために、国は住民の声に真摯(しんし)に耳を傾けねばならない。

毎日新聞 2014年05月22日

基地飛行差し止め 騒音対策を徹底せよ

基地騒音訴訟で、初めて自衛隊機の飛行差し止めが命じられた。

米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県)の周辺住民約7000人が国を相手に騒音被害の損害賠償と飛行差し止めを求めた「第4次厚木基地騒音訴訟」の判決だ。横浜地裁が自衛隊機について、午後10時から翌日午前6時までの間、防衛相がやむを得ないと認める場合を除き飛行差し止めを認めた。

基地の公益性や公共性と、住民が平穏な環境で暮らす権利とのバランスを慎重に考慮したことが判決からはうかがえる。米軍機の飛行差し止めは、最高裁の判例に従って認めなかったが、睡眠障害など住民の健康被害を重くみて、踏み込んだ判断をしたものと評価できる。

約70億円の損害賠償を命じた判断と併せ、国は判決を重く受け止めるべきだ。

基地周辺の騒音被害については、他にも横田や福岡、小松、嘉手納など全国各地で訴訟が提起された。

軍用機の騒音は住民の受忍限度を超え違法な状態なので国に賠償義務はあるが、飛行差し止めは認められない。それが、最高裁も含めた司法判断のこれまでの枠組みだった。

違法なのに騒音を解消できない。市民感覚から見た場合、納得しがたい判断だったのではないか。たとえ自衛隊機だけとはいえ、飛行差し止めを認めた今回の判決は、そこに風穴を開けたものだ。

その背景にあるのは、世界保健機関(WHO)のガイドラインに照らしてかなり高い騒音被害の値だ。睡眠や読書、学習などが妨げられるといった直接的な被害だけでない。騒音に対するいらだちや子供の発育への不安といった精神的な苦痛も軽視すべきではない。判決がそう指摘したのは見逃せない。

政府は騒音対策を基地周辺で進めなければならない。

国は住宅や公共施設の防音工事に対する助成などをしているが、更なる充実が必要だ。また、住民との話し合いの場を今まで以上に設けるなど、騒音被害の実態にしっかり耳を傾ける姿勢が求められる。

軍用機の離着陸回数自体も減らすべきだ。判決が指摘する通り、厚木基地の離着陸回数は自衛隊機より米軍機が多い。大型のジェット機を含め、実態として騒音の多くは米軍機が占めている可能性が高い。だとすれば、米軍機の飛行制限も真剣に検討しなければならない。

自衛隊・米軍とも既に夜間の訓練飛行を原則行わない運用をしているという。昼夜を問わず、本当に必要な飛行や訓練なのか米軍との間で協議を進めるべきだろう。政府は責任をもって交渉してほしい。

読売新聞 2014年05月23日

厚木騒音訴訟 飛行差し止めの影響が心配だ

高度な公共性を有する自衛隊機の飛行を差し止める初めての司法判断である。自衛隊の活動への悪影響が懸念される。

海上自衛隊と米海軍が共同使用する厚木基地の第4次騒音訴訟で、横浜地裁は、夜間・早朝に限って自衛隊機の飛行差し止めを命じる判決を言い渡した。

「防衛相がやむを得ないと認める場合を除き」との条件を付けた上で、午後10時から翌午前6時までの飛行を禁じた。

判決は「差し止めても公共性、公益上の必要性が大きく損なわれることはない」と説明するが、評価は分かれるだろう。

人口密集地に位置する厚木基地では、夜間・早朝には自衛隊機の訓練飛行を行わないとする内部規則が存在する。しかし、任務が深夜に及ぶことは少なくない。昨年度は約80回の離着陸が午後10時~翌午前6時に行われた。

小野寺防衛相が「受け入れがたい部分がある」と指摘したのは、自衛隊の任務への影響を懸念してのことだろう。

海自は厚木基地に、潜水艦などを探知する哨戒機P3Cや救難飛行艇など約40機を配備し、警戒監視や離島の急患搬送などを担っている。米海軍も、空母艦載の戦闘攻撃機FA18や早期警戒機E2Cなどを配備している。

中国が日本の太平洋側に艦船などの活動範囲を広げる中、厚木基地の重要性は高まっている。判決が、緊急時における海自の活動の足かせにならないだろうか。

今回、原告の周辺住民らは、行政訴訟により飛行の差し止めを求めた。判決は、自衛隊機の飛行が行政訴訟の対象となる「公権力の行使」に該当すると判断し、差し止めを認めた。

こうした判断は、嘉手納、普天間、小松、岩国、横田の5基地に関して係争中の騒音訴訟にも影響する可能性がある。基地の運用に支障が生じないとも限らない。

判決は「騒音の大半は米軍機によるもの」と認定したが、米軍機の飛行差し止めについては認めなかった。訴えについて、「国の支配が及ばない第三者の行為の差し止めを求めるもの」と判断した点は、うなずける。

厚木基地訴訟で、被告の国は、1996年に確定した第1次訴訟から騒音の損害賠償を命じられてきた。今回の判決での賠償額は、最大の約70億円に上っている。

騒音被害の軽減に向け、政府は米軍に協力を求めていく必要がある。周辺地域の防音対策にも一層、力を入れてもらいたい。

産経新聞 2014年05月24日

厚木基地訴訟 抑止力損なう判断疑問だ

安全保障の根幹に影響を及ぼしかねない司法の判断に、疑問を抱かざるを得ない。

神奈川県の厚木基地の騒音被害をめぐる訴訟で、横浜地裁が自衛隊機の夜間飛行差し止めを初めて命じたことだ。

海上自衛隊が米軍と共同使用する同基地は、警戒監視や災害派遣などの拠点になっている。自衛隊は常時、さまざまな事態に備えなければならない。時間を区切り飛行を禁止されれば、活動は大きな制約を受ける。

小野寺五典防衛相が「受け入れ難い」と述べたのは当然だろう。政府は控訴し、国の守りに支障が生じることのないよう、必要な対応を講じるべきだ。

騒音被害を受ける住民対策や騒音そのものを減らす努力は、むろん重要であり、引き続き力を入れなければならない。

これまでの厚木騒音訴訟では騒音の違法性から国が過去分の損害賠償を命じられたが、飛行差し止めは請求が退けられてきた。

平成19年に提訴された今回の4次訴訟では、民事訴訟で受け入れられなかった飛行差し止めを行政訴訟で請求した。判決は、自衛隊機の飛行は政府による公権力の行使にあたるとして、差し止めを認めた。

だが、高度な公共性、公益性を持つ国の防衛に関し、自衛隊の運用に直結する内容を含む判断を司法が示すのは妥当だろうか。

厚木基地では、すでに周辺住民に配慮して夜間や早朝の飛行を原則自粛している。だが、任務が深夜に及ぶことも多く、午後10時から翌午前6時までという時間規制は非現実的だ。海洋進出を活発化させる中国への監視活動の強化が求められているのに、抑止力低下につながる。

判決が「防衛相がやむを得ないと認める場合」は除くとした点も例示がなく、具体的に何を指すのか分からない。

一方、米軍機の飛行について「国の支配が及ばない第三者の行為」として差し止めを認めなかったのは当然だ。問題は、騒音の原因の大半が離着陸訓練などを繰り返す米海軍機にあることだ。

米軍機の飛行規制に関する日米合意について、飛行時間や高度などが厳格に守られているかをチェックする方が、自衛隊機の差し止めよりも効果的だろう。政府も米側に協力を求めていくべきだ。

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