中露接近 米への対抗で思惑が一致した

毎日新聞 2014年05月23日

中国とロシア 平和と安定担えるのか

中国とロシアの首脳が緊密な協力関係を一層強化し、アジアの新しい安全保障秩序を主導していく姿勢をアピールした。尖閣諸島や南シナ海をめぐって近隣諸国と対立する中国は、アジアへの回帰路線を打ち出す米国をけん制したい。ロシアはウクライナ南部クリミア半島の一方的な編入決定などで、欧米の非難と制裁の圧力に強く反発している。その中露が共闘してどんな新しい国際秩序を目指すのかは、日本の安全保障にとっても大きな関心事だ。

ロシアのプーチン大統領は20日、中国の習近平国家主席と上海で通算7回目の首脳会談を行い、内政干渉や一方的な制裁に反対する共同声明を発表した。声明は「他国の体制転換を目的とする活動の組織や支援に反対する」と表明し、クリミア編入の引き金になったウクライナの政変を欧米の策略だとするロシアの主張を反映させた。

一方、声明は「ドイツのファシズムと日本の軍国主義に対する勝利から70周年」の記念行事を来年合同で開催する方針を明記し、「歴史の改ざんと戦後国際秩序の破壊に反対する」と表明した。両国はまた、首脳会談に合わせて3回目の海軍合同演習を、尖閣諸島がある東シナ海の北部で開始した。中国が反日路線にロシアを巻き込もうとしていることを強くうかがわせる。

10年来の懸案だったロシア産天然ガスの中国への供給契約も、調印にこぎつけた。価格の交渉が難航していたが、ロシア産ガスの主要輸出先である欧州とロシアのウクライナ情勢をめぐる対立が、中露の妥結を後押ししたとみられている。

さらに中国は21日、ロシアなどアジア大陸部の26カ国・地域が加盟するアジア信頼醸成措置会議(CICA)の首脳会議を主宰し、習主席が基調演説で「アジアの安全はアジアの人々が守る」と、米国排除とも取れる姿勢を打ち出した。

この会議はもともとカザフスタンが提唱し、インドやイラン、イスラエル、パレスチナも加盟するユニークなフォーラムだが、米国や日本はオブザーバーにとどまっている。

今年から2年間議長国を務める中国に米国やその同盟国である日本を排除する狙いがあるとすれば、アジアの平和と安定を担う信頼できる体制作りができるとは思えない。その中国は南シナ海でベトナムやフィリピンと衝突し、強硬姿勢が非難されている。それで「アジアの安全を守る」と言っても信頼されるだろうか。

中露は経済など利害対立も抱え、決して一枚岩ではない。アジアに緊張をもたらす「反米同盟」ではない真の信頼醸成措置作りに向けた取り組みが求められている。

読売新聞 2014年05月23日

中露接近 米への対抗で思惑が一致した

力による一方的な現状変更を試みて国際社会に指弾されている中国とロシアの首脳同士が、緊密な連携を誇示した。

中露に圧力をかける米国への挑戦的な姿勢をアピールしたと言えるだろう。

習近平・中国国家主席とプーチン露大統領が、上海で会談した。共同声明も発表し、両国間の戦略的協力関係を新たな段階に引き上げると宣言した。

米国の「アジア重視」政策に反発する中国と、ウクライナ領のクリミア編入を巡って米国や欧州諸国、日本から制裁を受けるロシアとの思惑が一致したのだろう。他国による「内政干渉」や「一方的制裁」への反対も表明した。

会談に合わせて行われた中露海軍の合同演習開幕式にも、両氏はそろって出席した。日米同盟に対する露骨な牽制けんせいとみられる。

両氏が、歴史問題で歩調を合わせたことも懸念材料である。

共同声明は、第2次大戦後70年の来年に、「ドイツのファシズムと日本の軍国主義」に対する戦勝祝賀行事を共催することを確認し、「歴史の改ざんと戦後秩序の破壊に反対する」と強調した。

名指しされた日本政府が「日本は歴史と正面から向かい合い、平和国家を築き上げてきた」と反論したのは、当然である。東シナ海や南シナ海、ウクライナで国際秩序の「破壊」を試みているのは、中露の方ではないか。

ただ、中露接近に同床異夢の側面があることも確かだろう。ロシアは、北極海にまで触手を伸ばし始めた中国の海洋進出を警戒している。中国も、国内に少数民族の分離独立運動を抱え、ロシアのクリミア編入を支持できない。

問題なのは、首脳会談後のアジア相互協力信頼醸成措置会議の基調演説で、習氏が、新たな安全保障構想を提唱したことだ。アジア各国が対等な立場で協力を進めることを原則とするという。

「アジアの問題はアジアの人々が処理し、アジアの安全はアジアの人々が守る」とも語った。

アジアの安全保障は、米国ではなく、中国が主導するとの決意を表明したものと言える。

独善的な姿勢を強める中国と、どう向き合っていくか。

日本は、米国との同盟関係を軸に、アジア諸国が結束を強化するよう働きかける必要がある。

東アジア首脳会議や東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムなど、アジアの安全保障問題について協議する多国間の枠組みを積極的に活用すべきだ。

産経新聞 2014年05月26日

中露「蜜月」 米への対抗軸なら危険だ

中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が首脳会談やアジア安全保障に関する会議、合同海軍演習を通じ「中露蜜月」を演出した。

中国は東シナ海で尖閣諸島の奪取を図り、南シナ海の大半を一方的に領海と唱え周辺諸国と衝突や対立を引き起こし、ロシアはウクライナ南部クリミア半島を武力で併合した。

ともに力で国際秩序の現状を変えようとする国だ。特に中国の最大の狙いは、米国の国力や日米同盟などによって平和と安定が保たれているアジアの現状の変更であり、警戒しなければならない。

中露首脳は上海で行った会談で日本を念頭に、歴史の歪曲(わいきょく)と戦後の国際秩序の破壊に反対するとし、来年の戦勝70周年記念行事を合同開催することで合意した。

合同海軍演習について、中国共産党機関紙の人民日報は、中国が尖閣など東シナ海上空に一方的に設定した防空識別圏を「ロシア側が承認したことを意味する」と伝え、防空圏を認めていない日米への牽制(けんせい)も込めたものであることを明らかにした。

米国への挑戦的な意図を鮮明にしたのは、習氏が議長を務め、ロシアやアジア、中東から26カ国・地域が参加した「アジア信頼醸成措置会議(CICA)」である。日米はメンバーではなくオブザーバーにとどまり、他の先進7カ国(G7)も入っていない。

習氏はその首脳会議で、「アジアの安全はアジアの人民が守らなければならない」と強調し、「米国抜き」で安全保障の枠組みを構築する「新アジア安全観」を、中国主導の形で提唱した。

欧米とりわけ米国への対抗軸をアジア地域を中心に形成し、米国を排除して中国の影響力を拡大していこうという戦略だろう。

だが、中国の台頭著しいとはいえ、米国はなお唯一の超大国である。アジアが享受してきた「米国による平和」を揺さぶる動きを容認するわけにはいかない。

ロシアは天然ガスを相場より大幅に安く30年間輸出する契約を中国と結び、中露はここでも蜜月を誇示した。ただし、中国は大市場の米国を、ロシアも最大のガス供給先の欧州を無視できず、さまざまな思惑で上海に集った国々と同じく呉越同舟の面は否めない。

中露が今なすべきは、対抗軸の構築ではなく、国際規範を守る責任ある大国を目指すことだ。

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