大飯原発差し止め なし崩し再稼働に警告

朝日新聞 2014年05月22日

大飯差し止め 判決「無視」は許されぬ

東京電力福島第一原発事故の教訓を最大限にくみ取った司法判断だ。電力事業者と国は重く受け止めなければならない。

関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)をめぐり、福井地裁が再稼働の差し止めを命じた。

関電側の想定をはるかに上回る地震の可能性が否定できず、少なくとも250キロ圏内の住民に重大な被害を及ぼす恐れがある、と判断した。

裁判長は、福島原発事故で15万人が避難を余儀なくされ、入院患者ら60人の関連死があったことに言及し、「原発技術の危険性の本質と被害の大きさが明らかになった」とした。

そして「同様の事態を招く危険性が万が一でもあるか。裁判所がその判断を避けることは、最も重要な責務を放棄するに等しい」と述べた。

原発は専門性が高く、過去の訴訟で裁判所は、事業者や国の判断を追認しがちだった。事故を機に、法の番人としての原点に立ち返ったと言えよう。高く評価したい。

特筆されるのは、判決が、国民の命と暮らしを守る、という観点を貫いていることだ。

関電側は電力供給の安定やコスト低減を理由に、再稼働の必要性を訴えた。これに対し、判決は「人の生存そのものにかかわる権利と、電気代の高い低いを同列に論じること自体、法的に許されない」と断じた。

「原発停止は貿易赤字を増やし、国富流出につながる」という考え方についても、「豊かな国土に、国民が根を下ろして生活していることが国富だ」と一蹴した。

関電は控訴する方針だ。再稼働を望んできた経済界や立地自治体の反発も必至だろう。しかし、福島原発事故で人々が苦しむのを目の当たりにした多くの国民には、うなずける考え方なのではないか。

事故後、独立性の高い原子力規制委員会が設置され、新しい規制基準が定められた。安倍政権は規制委の審査に適合した原発は積極的に再稼働させていく方針を示している。

だが、判決は「自然の前における人間の能力の限界」を指摘した。「福島原発事故がなぜ起き、なぜ被害が広がったか」にすら多くのなぞが残る現状で、限られた科学的知見だけを根拠に再稼働にひた走る姿勢を厳に戒めたといえる。

事業者や国、規制委は、判決が投げかけた疑問に正面から答えるべきだ。上級審での逆転をあてに、無視を決め込むようなことは許されない。

毎日新聞 2014年05月22日

大飯原発差し止め なし崩し再稼働に警告

福井県にある大飯原発3、4号機の運転差し止めを住民が求めた訴訟で、福井地裁は、関西電力に対し再稼働を認めない判決を出した。判決の考え方に沿えば、国内の大半の原発再稼働は困難になる。判決は、再稼働に前のめりな安倍政権の方針への重い警告である。

2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、差し止め訴訟で初めての判決だ。住民の生命や生活を守る人格権が憲法上最高の価値を持つと述べ、「大災害や戦争以外で人格権を広範に奪う可能性は原発事故のほか想定しがたい。原発の存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても、具体的危険性が万が一でもあれば、差し止めが認められるのは当然」と結論付けた。

住民の安全を最優先した司法判断として画期的だ。福島第1原発事故で、250キロ圏内の住民に対する避難勧告が検討されたことから、大飯原発でもその圏内の住民に人格権侵害の恐れがあり、原告になれるという判断も示した。

関電側は控訴する方針で、上級審が改めて判断する。この地裁判決が確定しない限り、原子力規制委員会の安全審査に適合すれば運転再開は可能だ。だが、司法判断を無視し、政府が再稼働を認めれば世論の反発を招くだろう。

東日本大震災は、地震大国・日本に想定外の地震はないという現実を突きつけた。判決はそれを踏まえて、大飯原発3、4号機について、地震の際の冷却機能と放射性物質を閉じ込める構造に欠陥があると認めた。原発の持つ本質的な危険性に楽観的すぎ、安全技術や設備は脆弱(ぜいじゃく)だという判断だ。

訴訟で関電側は、再稼働が電力供給を安定させ、コスト低減につながると主張した。これに対し判決は「運転停止で多額の貿易赤字が出たとしても国富の流出や喪失というべきではない。豊かな国土とそこに根を下ろした国民の生活を取り戻せなくなることが国富の喪失だ」と退けた。

いったん原発事故が起これば、多数の住民の生命を脅かす。判決が「万が一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置を取らなければならない」と電力事業者側に強く求めたことも納得できる。

判決は「福島第1原発事故は最大の公害、環境汚染。環境問題を運転継続の根拠とすることは筋違いだ」とも断じ、原発の稼働を温暖化対策に結びつける主張を一蹴した。共感する被災者も多いのではないか。

安倍政権は、安全審査に適合した原発の再稼働を進める方針を示している。だが、震災を忘れたかのように、なし崩し的に運転再開しないよう慎重な判断をすべきだ。

読売新聞 2014年05月22日

大飯再稼働訴訟 不合理な推論が導く否定判決

「ゼロリスク」にとらわれた、あまりに不合理な判決である。

定期検査のため停止している関西電力大飯原子力発電所3、4号機について、福井地裁が運転再開の差し止めを命じる判決を言い渡した。原発の周辺住民らの訴えを認めたものだ。

判決は、関電側が主張している大飯原発の安全対策について、「確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに成り立ち得る脆弱ぜいじゃくなもの」との見方を示し、具体的な危険があると判断した。

「福島第一原発の事故原因が確定できていない」ため、関電は、トラブル時に事態把握や適切な対応策がとれないことは「明らか」とも一方的に断じた。

昨年7月に施行された原発の新たな規制基準を無視し、科学的知見にも乏しい。

判決が、どれほどの規模の地震が起きるかは「仮説」であり、いくら大きな地震を想定しても、それを「超える地震が来ないという確たる根拠はない」と強調した点も、理解しがたい。

非現実的な考え方に基づけば、安全対策も講じようがない。

大飯原発は、福島第一原発事故を受けて国内の全原発が停止した後、当時の野田首相の政治判断で2012年7月に再稼働した。順調に運転し、昨年9月からは定期検査に入っている。

関電は規制委に対し、大飯原発3、4号機が新規制基準に適合しているかどうかの審査を申請している。規制委は、敷地内の活断層の存在も否定しており、審査は大詰めに差し掛かっている。

別の住民グループが同様に再稼働の差し止めを求めた仮処分の即時抗告審では、大阪高裁が9日、申し立てを却下した。

規制委の安全審査が続いていることを考慮し、「その結論の前に裁判所が差し止めの必要性を認めるのは相当ではない」という理由からだ。常識的な判断である。

最高裁は1992年の伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、「極めて高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との見解を示している。

原発の審査に関し、司法の役割は抑制的であるべきだ、とした妥当な判決だった。各地で起こされた原発関連訴訟の判決には、最高裁の考え方が反映されてきた。

福井地裁判決が最高裁の判例の趣旨に反するのは明らかである。関電は控訴する方針だ。上級審には合理的な判断を求めたい。

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