日航再建 親方日の丸から脱却を

朝日新聞 2010年01月20日

JAL法的整理 国民負担増やさぬ再生を

政府の全面支援で日本航空を再生する取り組みが、正式に動き出した。日航がきのう会社更生法の適用を申請し、官民出資ファンドの企業再生支援機構が支援を決めた。

政府が関与しての「事前調整型」法的整理で、昨年6月に米政府が自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)の再建に適用した手法だ。日本では初の試みである。

日航は巨額の債務超過に陥り、政府支援なしでは清算に追い込まれかねないほど経営が悪化していた。安全運航を確保しつつ日航が担う国民の「空の足」の機能を再生するには、法的整理が避けられなかったといえる。

日航のマイレージや燃料などの商取引債権は、守られることになった。さもないと客離れを招き、燃料購入が滞ったり機体を差し押さえられたりすることも懸念された以上、やむを得ない措置だといえよう。

公表された再建計画では経営陣が総退陣し、社員を1万5千人削減する。現役・OBの企業年金は大幅カット、金融機関は債権の8割強を放棄。株券は無価値となる。

こうして利害関係者が痛みを分かち合うだけでなく、国民も巨額の負担を背負い込む。確定している分だけでも、日本政策投資銀行による政府保証つき融資の焦げ付きで440億円の国民負担が見込まれる。

政府ぐるみの支援が国民負担をさらに増加させる危険もある。それを最小限にとどめる努力が政府と日航に求められる。その意味でも、肥大化した路線網やサービス体制を現状のまま維持することは許されない。経営の徹底したリストラが必要だ。

路線の一部を他社に譲り渡すこともためらうべきではない。一方、政府のてこ入れで競争相手の全日本空輸や新興航空会社が不利な立場に置かれるようなことがあってはならない。

日航の経営の悪化は、自民党の長期政権と霞が関の官僚にも重い責任がある。過剰な国内空港建設を続け、不採算路線への就航を日航に求めた。そんな航空行政が「親方日の丸」の甘い経営を長年にわたり放置した。

日航会長には民主党に近い大物経済人の稲盛和夫京セラ名誉会長が就く。世界的企業を育てたカリスマ経営者とはいえ高齢でもあり、個人の手腕に寄りかかるわけにはいかない。

1985年のジャンボ機墜落事故の後、日航会長になった伊藤淳二元鐘紡会長は社内抗争や労使紛争に巻き込まれ、辞任に追い込まれた。日航の体質とも言われた派閥抗争や複雑な労使関係を一掃するにも、社内外から人材を抜擢(ばってき)することが求められる。

日航は国民に対する責任の重さと過去の教訓をかみしめ、出直し創業に挑んでほしい。

毎日新聞 2010年01月20日

日航再建 親方日の丸から脱却を

日本航空が子会社2社とともに東京地裁に会社更生法の適用を申請した。同時に官民が出資する企業再生支援機構が支援を決定し、政府も日航の安定運航を支援する声明を内外に向けて発表した。

昨年来、日航の再建問題で政府の対応は二転三転した。その間に信用不安が広がり、客離れを招いた。時間の空費が損失拡大につながったことを改めて強調しておきたい。

日航の負債総額は、金融を除く事業会社では過去最大の2兆円規模に達する。その中には、政府保証付きの融資もあり、それが債務削減によって焦げ付く。穴埋めに投じられる税金は数百億円規模にのぼる。

現時点で一般国民の負担が発生することになるわけで、日航はそれを自覚し、今後の事態に対処してもらいたい。

役員の退任、従業員の整理は避けられない措置だ。また、債権放棄額が約7300億円にものぼることを考えると、株券が無価値となる100%減資という形で株主の責任を問うのも当然だろう。

支援機構はスポンサーとして約3年後まで支援する。そのために3000億円以上を出資し、融資も6000億円の枠の中から実施する。しかし、再建がうまく進まず、それが焦げ付くことになれば、再び国民の負担が生じる。

実質的な最高経営責任者(CEO)として会長に就く京セラの稲盛和夫名誉会長ら新経営陣、そして支援機構の責任は重い。安全運航の確保は絶対で、そのうえで、労務問題や派閥抗争といった日航の積年の課題を解決し、親方日の丸的な体質からの脱却を実現してもらいたい。

採算性の悪い内外の路線の休止・減便を拡大することになり、利用者の反発が予想される。しかし、需要の少ない地方空港を次々につくり、路線の維持を求めてきたことも日航の経営の足を引っ張った大きな要因だ。そうした点を考えると、不採算路線からの撤退・縮小はやむを得ない措置だろう。

今回の日航再建作業の開始を機に、日本の航空運輸のあり方についても、見直しを進めてほしい。

前原誠司国土交通相は、地方空港乱立の原因となった空港整備勘定の廃止や、着陸料などの値下げに言及した。また、羽田空港のハブ空港化、さらに、関西の3空港のあり方という問題もある。これらの課題にも具体的に取り組んでもらいたい。

人口減少の中で日本の航空産業が、活力を維持していくには、中国など東アジアの成長を取り込むことが必要だ。そうした視点での航空政策の転換も、日航の再生を後押しするはずだ。

読売新聞 2010年01月20日

日航更生法申請 「親方日の丸」が破綻を招いた

深刻な経営危機に陥っていた日本航空が、ついに会社更生法の適用を申請した。

日本の空路を担ってきた名門航空会社の経営()(たん)である。今後は裁判所の管理下で、官民ファンドの企業再生支援機構の支援を受けて再建を目指すが、前途は多難だ。

新しく最高経営責任者(CEO)に就く稲盛和夫・京セラ名誉会長を支える経営陣を早急に固め、労使一体となって再建に取り組む必要がある。

「親方日の丸」体質の一掃には法的整理もやむを得まい。だが、2兆円を超える負債総額は事業会社として過去最大で、取引先も国内だけで3000社にのぼる。

一般の商取引債権やマイレージは保護されるが、巨大企業の破綻だけに、予期せぬ問題も発生しうる。関係者は、まず混乱を防ぎ、安全運航の確保に全力を挙げなければならない。

支援機構は日航に3000億円以上を出資し、筆頭株主となる。金融機関も3500億円超の債権を放棄し、最大6000億円のつなぎ融資で再建を支える。投入される公的資金は、1兆円規模にのぼる可能性もある。

日航は、従業員の3割削減や、不採算路線からの大幅な撤退などの合理化を進める。支援機構はこうした支援とリストラによって、日航は2011年度には営業黒字にできるとみている。

しかし、企業の再建には、新たな収益源の確保が不可欠だ。支援機構は国際線の運航効率化で収益力が回復するというが、再建計画の甘さを指摘する声も多い。

そもそも、なぜ巨額の公的資金を使って日航を救済し、全日本空輸との「2社体制」を維持するのか、明確な説明はない。

再建が当初の計画通り進まないようであれば、支援機構は国際線の他社への譲渡など、より踏み込んだ策を検討すべきだ。

再建に対して国民の理解を得るには、長年の懸案だった労使問題の解決も不可欠だろう。

日航は完全民営化以降も政治家や地方の有力者の要求を断れず、不採算路線への就航などを余儀なくされてきた。日航を破綻に追い込んだ責任は、行政にもある。日航と同時に、航空行政も一から出直さなければならない。

羽田、成田両空港の発着枠拡大や日米の航空自由化で、日本の空を取り巻く環境は激変している。政府は空港整備特別会計の見直しや羽田のさらなる国際化など、航空行政を再構築すべきだ。

産経新聞 2010年01月20日

日航更生法申請 迅速で厳正な再建不可欠

昨年秋から迷走を続けてきた日本航空の経営再建問題が大きな節目を迎えた。日航は裁判所に会社更生法の適用を申請し、官民共同出資の「企業再生支援機構」が全面支援を表明した。

裁判所の管理下で破綻(はたん)処理手続きに入るとはいえ、公的資金を使っての「救済」がセットである。一民間企業を公的資金で支援するのは異例の措置だ。

目的はあくまで「国民の空の足」を守るためであり、これまで通りの組織の維持ではない。関係者はこのことを肝に銘じた上で、再建計画作成を急ぎ、スピード再生に全力を挙げてほしい。

「新生日航」が独り立ちするためのハードルは高い。従来のいきさつから、特に懸念されるのは政治家や国土交通省とのなれ合い体質が続いてしまうことだ。

西松遥社長をはじめ現経営陣は引責辞任した。新たな代表取締役会長には、鳩山由紀夫首相自らの要請により、稲盛和夫・京セラ名誉会長が就任する。

京都の小さな地場企業だった京セラを世界的なハイテク企業に育てた経営手腕を評価しての起用だが、「稲盛イズム」といわれる独自の経営手法が生かされるかどうかは未知数だ。管財人との緊密な連携も欠かせない。

日航再建をめぐる経営者起用では苦い歴史がある。昭和60年の日航ジャンボ機墜落事故の後、鐘紡会長だった伊藤淳二氏が経営再建を託されて会長に就任したが、社内の反発によって2年で退任に追い込まれた。

一業界で手腕が認められた経営者でも再建が難しいのが航空業界だ。稲盛氏にはこうした教訓を踏まえ、社内を一枚岩にまとめる手綱さばきが求められる。

支援機構は3年以内に新生日航を独り立ちさせ、注ぎ込んだ公的資金を回収することが至上命令となる。再建が遅れれば、1兆円を超すとされる支援額がさらにふくらみかねない。

いまひとつの課題は、経営をここまで追い込んだ一因の職域ごとに複雑に分かれる組合問題だ。今後1万数千人の人員削減などリストラが必要となる。労使はこの苦境を理解し、協議を重ねて協力態勢を築き上げねばならない。

公的資金を投入することに対する納税者の目は厳しい。支援機構は高いハードルを意識し、国民が納得できる再建を主導しなければならない。

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