与党安保協議 個別的自衛権では限界がある

朝日新聞 2014年05月20日

自衛権の協議 問われる議員の矜持

憲法の政府解釈の変更によって、集団的自衛権の行使を認めるかどうか。

この問題を最大の焦点とし、安全保障政策についての与党協議がきょうから始まる。

安倍首相は先週、みずからの私的懇談会の報告を受け、行使容認に向けた解釈変更に踏み出す考えを示した。

自民、公明両党の幹部らによる協議は、首相が投げたこのボールを検討する場となる。

安全保障環境の悪化を理由に、憲法に定められた手続きを踏むことなく憲法9条を実質的に死文化させる。こんな安倍政権のやり方に、私たちは社説で反対してきた。憲法に縛られる側にある権力者による、憲法への反逆行為に等しいからだ。

日本の安全を確実に守り、PKOなど国連の旗のもとでの活動にさらに貢献していくにはどうすべきなのか。こうした課題について、国民の負託にこたえるべき国会議員には、私的懇談会とはちがった責任と矜持(きょうじ)があるはずだ。与党に限ったことではない。野党議員も国会審議などでその役割を果たさねばならない。

公明党の山口代表は、きのうの都内での講演で、集団的自衛権について次のような見解を明らかにした。

日本政府は自衛隊発足以来、海外では武力を使わないとの考え方を貫いてきた。それこそが国際社会にも認められてきた憲法9条に基づく規範性、法的安定性だ。そこで憲法解釈を変えて海外に出て行くぞとなると、身構える国も出てくるし、「そんなつもりで自衛隊に入ったわけではない」という人も出てくるだろう――。

こうした憲法の規範性をどう考えるかが、与党協議での重要な判断基準だという。立憲主義を踏まえた、極めて理にかなった見解だ。

一方で自民党の石破幹事長は週末のテレビ番組で、安倍首相が私的懇談会の提言を受けてもなお否定した多国籍軍への参加について、「国民の意識が何年かたって変わった時、(方針が)変わるかもしれない」と語った。

将来の多国籍軍への参加に含みを残した発言だが、これこそ時の政権が何でも判断できるという考えの表れであり、受け入れられない。

きょうからの与党協議は、平和主義を掲げてきた戦後日本の大きな転換点となる可能性をはらむ。

連立維持という政治的要請に向けた結論ありきの議論は、決して通らない。

毎日新聞 2014年05月21日

集団的自衛権…グレーゾーン すき間の議論は丁寧に

安倍晋三首相の要請を受けて、集団的自衛権の行使容認などについて検討する自民、公明両党の与党協議が始まった。グレーゾーン事態と呼ばれる武力攻撃に至らない侵害への対応の議論を先行させ、続けて国連平和維持活動(PKO)などの国際協力、集団的自衛権の順に議論することを確認した。

グレーゾーン事態は、主に尖閣諸島など離島周辺で、中国の行動にどう対処するかを念頭にした議論だ。日本の安全にとって差し迫った課題から議論するのは妥当な判断だ。

現在の法制度のままでは、対応にすき間が生じるのか、そうだとすればどう塞ぐべきか。これだけで議論に十分な時間をかけていい難しい問題だ。丁寧な議論を求める。

グレーゾーン事態は、有事と平時の中間の緊急事態を指す。外国から武力攻撃を受ける有事には、自衛隊は防衛出動して個別的自衛権を行使できる。だが、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態は、まず警察や海上保安庁が対応し、難しい場合は自衛隊が警察権にもとづく海上警備行動や治安出動などで対応する。

首相の私的懇談会・安保法制懇は報告書で、警察権の行使は武器使用が制限されることや、海上警備行動や治安出動などの命令手続きの間に時機を逸する恐れを指摘し、切れ目のない対応を可能にするための法整備を求めた。武器使用権限と時間の二つのすき間といわれる問題だ。

首相も記者会見で、漁民を装った武装集団が離島に上陸する事例を挙げ「これまでの憲法解釈でも可能な立法措置を検討する」と述べた。

だが、時間のすき間を埋めるには、あらかじめ自衛隊に武器使用権限を付与することが考えられ、シビリアンコントロール(文民統制)との関係で懸念を示す意見もある。武器使用権限のすき間については、治安出動でかなりの対応が可能で、すき間はないとの指摘もある。

報告書は、日本領海を潜没航行する外国潜水艦が退去要求に応じない事例の検討も求めている。潜水艦の事例は国際法の解釈は定まっておらず、慎重な検討が必要だ。

自衛隊の権限強化により、尖閣諸島対応で自衛隊が前面に出れば、かえって中国を刺激して衝突の危険が高まる恐れも考慮する必要がある。

自衛隊ではなく海上保安庁の権限強化を検討する議論もあるだろう。

まずはすき間があるのかないのか、現場の海保職員や自衛官らの意見を踏まえて議論することから始めなければならない。

読売新聞 2014年05月21日

与党安保協議 個別的自衛権では限界がある

日本の平和と安全を確保するには、どんな憲法解釈の見直しや法整備が必要なのか。与党は、しっかりと議論し、結論を出さねばなるまい。

自民、公明両党が、集団的自衛権の憲法解釈の変更などに関する協議を開始した。

武装集団による離島占拠などグレーゾーン事態、国連平和維持活動(PKO)参加中の自衛隊が他国部隊や民間人を助ける「駆けつけ警護」など国際協力、集団的自衛権の順で、論議を進める。

公明党は、グレーゾーン事態の法整備などに前向きな一方で、憲法解釈の変更には慎重姿勢を崩していない。合意しやすいテーマから議論するのは理解できるが、焦点である集団的自衛権の論議を先送りしてはならない。

3分野の憲法解釈の検討や法整備は一体で進めるべきだ。

与党は意見集約の期限を定めていない。今秋の臨時国会での関連法改正や年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定などの日程を念頭に、適切な時期に結論をまとめることが求められる。

公明党は、政府の有識者会議が解釈変更を求めた米艦防護、機雷除去、ミサイル防衛などの事例に対応する必要性は認めつつ、集団的自衛権でなく個別的自衛権や警察権で対応できると主張する。だが、その理屈には無理がある。

例えば、日米の艦船は通常、最低でも数キロ離れて航行している。遠く離れた米軍艦船への攻撃を自衛隊艦船への攻撃とみなして反撃することは、個別的自衛権の拡大解釈にほかならない。

機雷除去も、日本船だけを標的に敷設された場合は個別的自衛権の適用もあり得るが、機雷は不特定多数の国を対象とするのが通例で、そんな事態は非現実的だ。

米国に落下する弾道ミサイルの迎撃を「警察権に基づく危険物の除去」と説明することも、日本の警察権が米国に及ばない以上、困難と言わざるを得ない。

自衛権を行使した際、国連憲章51条に基づき、安全保障理事会への報告義務がある。有識者会議の指摘通り、個別的自衛権を拡大解釈したと受け取られれば、国際法違反と批判される恐れがある。

そもそも米艦防護も、機雷除去も、様々な事例が想定される。個別的自衛権や警察権に限定していては、機動的で効果的な対応を行うことは望めない。

自公政権は、両党が対立する政策でも合意を見いだしてきた歴史がある。集団的自衛権の問題も、きちんと結論を出せるはずだ。

産経新聞 2014年05月22日

与党の自衛権協議 解釈変更が議論の核心だ

集団的自衛権など安全保障法制の整備をめぐる自民、公明両党の正式協議が始まった。

日本を守り抜けるかどうかを左右するとの認識に立って、精力的な作業を進めてほしい。

初会合では、有事には至らない「グレーゾーン事態」、国際協力と集団安全保障、集団的自衛権の行使容認-の順で議論することを決めた。

ところが、肝心の協議の出口をめぐって、両党の間に齟齬(そご)が生じている。

自民党はこれら3分野を一括して閣議決定する段取りを提案したが、公明党は同意しなかった。結論を得る時期についても、まだ決まっていない。支持母体の創価学会も広報室が行使容認に慎重な見解を示した。

だが、政権の一翼を担っている以上、公明党にも集団的自衛権の行使を不可としてきた従来の憲法解釈を見直す努力を求めたい。

政府・自民党は今国会会期末の来月22日までに、集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈の変更を閣議決定し、年末予定の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定に反映させたい方針だ。

ガイドラインへの反映は事実上の対米公約にもなっており、ラッセル米国務次官補は19日、期待感を表明した。オバマ大統領ら米政府要人も、日本の集団的自衛権の行使容認への取り組みを歓迎している。

安倍晋三首相は15日の記者会見で、尖閣諸島周辺の領海への中国公船侵入や北朝鮮の核・弾道ミサイル開発を取り上げ、危機に備える必要性を国民に呼びかけた。その問題意識はもっともである。

公明党もグレーゾーン事態や国連平和維持活動(PKO)での自衛隊の「駆け付け警護」の法整備には前向きだ。ならば、行使容認にも踏み切ってほしい。

グレーゾーンの検討を、集団的自衛権の議論を先送りする時間稼ぎに利用することがあってはならない。国の独立や国民の生命財産を守るため、集団的自衛権を行使して日米共同の抑止力を高めることは欠かせない。

首相は19日夜、集団的自衛権について「熟慮して、決断すべき時は決断して進める」と語った。

厳しさを増す安保環境を考えれば、先送りする余裕など日本にはない。自民党は不退転の決意で公明党を説得してもらいたい。

毎日新聞 2014年05月21日

集団的自衛権…国会の責任 傍観してはいられない

与党協議の一方で問われるのが国会の対応だ。衆院予算委員会での集中審議は安倍晋三首相の記者会見から約2週間後の28日にやっと行われる。動きが鈍いのではないか。

憲法の基本原則を変えるような課題だけに国会で最大限の議論を尽くすべきなのは当然だ。にもかかわらず今の国会でとことん論戦を演じる気構えが本当に与野党にあるのか、こころもとない。与党調整だけに議論を委ねてはならない。

首相は「求められれば当然、丁寧に説明したい」と述べ、野党8党による審議要求に応じる意向を示した。首相は憲法解釈の変更を目指すだけに、憲法改正手続きどころか法案審議すら行われないまま解釈変更の閣議決定に進む可能性がある。首相が具体的検討を指示した以上、国会で問題点を国民の前に明らかにしていくことが欠かせない。

だが、その態勢が果たして与野党にあるだろうか。自民、民主両党は6月11日の党首討論実施で合意しており、与党は同22日に会期末を迎える通常国会の会期を延長しない方針をすでに固めている。衆参両院1日程度の集中審議でお茶を濁し、次期国会まで様子見をするような発想があるとすれば著しい怠慢だ。

民主党は海江田万里代表が「行使が限定的という保証はどこにもない。解釈変更による行使一般は認められない」と首相を批判する。だが、集団的自衛権行使をめぐっては党内に賛否両論を抱え、意見集約に踏み込めずにいるのが実情だろう。海江田氏が言う「(今の)憲法解釈と整合性を持った範囲」の中身が問われる。この期に及んで党見解のあやふやさが論戦に影響してしまうようでは、党首を担う資格にすらかかわる。

日本維新の会やみんなの党は早々に首相見解に賛意を示した。集団的自衛権行使を認めるにしてもなぜ憲法改正という正攻法を用いない点にまで同調するのか。与党協議の焦点が公明党の動向だからといって「公明まかせ」の傍観は許されないことを野党は自覚しなければならない。

国民に開かれた議論の舞台は国会だ。首相が強調した集団的自衛権行使の「限定容認」の中身や、示した事例が本当に9条の解釈変更まで必要とするかなど、数多くの不明点を国会でこそ、解明すべきだ。

安全保障政策をめぐってはかつて、いくたびも重厚で密度の濃い論戦が展開されてきた。自民党内の解釈改憲慎重派も臆せず、自らの意見を堂々と語るべきだ。政党、国会議員の政策能力が試される場面だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1818/