ベトナムのデモ 中国の掘削に根拠はない

読売新聞 2014年05月20日

南シナ海情勢 対立激化招く中国の独善行動

中国とベトナムの対立は、ベトナム国内の反中デモで死者が出る事態にまで発展した。一層の情勢悪化が懸念される。

双方が領有権を主張する南シナ海・パラセル(西沙)諸島沖で、中国が一方的に石油掘削を始めたのが、対立の発端だ。現場海域では、両国艦船が衝突する事件が起きた。今もにらみ合いが続いている。

中国の勝手な振る舞いに、歴史的に反中感情を持つベトナム人の怒りが爆発したのだろう。反中デモが多発し、デモ隊の一部は中国系企業を襲い、中国人2人が死亡した。中国系と間違われた日系企業にも被害が出た。

デモに行き過ぎがあったのは確かだ。中国政府は、ベトナム側に、デモの被害を受けた企業や個人への賠償を求めている。

ただ、2005年や12年に中国で起きた反日デモでは、中国当局は、「愛国無罪」を叫ぶ中国群衆の破壊行為や略奪の多くを黙認した。被害を受けた日系企業などへの賠償はほとんどなかった。

一方で、中国政府は、ベトナムとの交流計画を一部停止するとも発表した。賠償要求と同様、反中デモを利用し、ベトナムを牽制けんせいする狙いがあるに違いない。

ベトナム当局は、デモを黙認する姿勢から一転し、規制に乗り出した。ベトナムにとって中国は、最大の貿易相手国で、輸入の約3割を頼る。デモによる経済悪化を回避しようとしたとみられる。

デモが沈静化しても、中国が、石油掘削をやめない限り、問題の解決はあるまい。そのような中国の独善的行動は、アジア太平洋地域の安定を損なうものであり、日本も米国も懸念を示している。

中国は、フィリピンが領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島でも、一方的に暗礁を埋め立てて滑走路を建設しているとされる。極めて挑発的な動きだ。

フィリピンと米国は先月、軍事協定に調印し、フィリピン国内での米軍再駐留への道を開いた。南シナ海とその上空を支配しようとする中国は、米国の反応をうかがいつつ、既成事実を積み重ねようとしているのではないか。

東南アジア諸国連合(ASEAN)が結束し、今月の外相会議と、首脳会議後の議長声明で、南シナ海情勢について「深刻な懸念」を表明したことは注目される。

東シナ海で中国の圧力に直面する日米両国は、アジアの海洋における航行の自由の維持を訴えている。懸念を共有するASEANとの連携を一層強めるべきだ。

産経新聞 2014年05月17日

ベトナムのデモ 中国の掘削に根拠はない

南シナ海での中越艦船衝突を引き金に、ベトナムで広がった反中デモ隊の一部が暴徒化した。中国系の現地進出企業が放火、破壊され、多数の死傷者が出ている。

台湾系、日系の企業も巻き添えで襲撃された。焼き打ちや殺傷といった無法な抗議行動は絶対に許されない。

ベトナム当局はズン首相の指示通り、混乱収拾と暴力の再発防止に全力を挙げるべきだ。

中国と同様、ベトナムは共産党一党の支配下にある。原則禁止されているデモが発生したのは、少なくとも当局が黙認したからだろう。デモ隊が反中感情と同時に社会不満のはけ口を求めて暴走したものだとしたら、抑圧的な体制の問題ともいえよう。

ただし、事の大本は、両国などが領有権を争う南シナ海パラセル(西沙)諸島海域で中国が一方的に石油掘削をしたことにある。

中国は、掘削装置を直ちに撤収して対立原因を取り除き、両国艦船がにらみ合う一触即発の状況を沈静化させねばならない。それなのに、石油掘削を棚に上げ、暴動への「重大な懸念」を表明してベトナム側に抗議している。

一昨年、日本の尖閣諸島の国有化に対し、中国各地で抗議のデモ隊が暴徒化し、日系の企業やスーパーが破壊や放火で甚大な被害を受けた。日本側の抗議に、中国政府は「責任は日本にある」と開き直り、暴動に対しまともな責任追及すらしなかった。

中国は同じ南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島にあるジョンソン南礁も埋め立て、滑走路とみられる施設の建設を進めている。これも即刻、停止すべきだ。

南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」を主張して中国は領海と唱えているが、国際法上、何ら根拠はない。

米国のバイデン副大統領は石油掘削をめぐり、中国側に「深刻な懸念」を伝え、ケリー国務長官も「挑発的だ」と批判した。オバマ大統領は先のアジア4カ国歴訪で、安全保障の重心をアジア太平洋地域に移す再均衡(リバランス)戦略を確認したばかりだ。

南シナ海での中国の強硬姿勢は、米国がどこまで本気かを見定めるためのものという見方がある。中国の力ずくの海洋進出に対抗するため、オバマ政権は言葉だけでなく、断固たる態度を示してほしい。

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