中国とベトナムの対立は、ベトナム国内の反中デモで死者が出る事態にまで発展した。一層の情勢悪化が懸念される。
双方が領有権を主張する南シナ海・パラセル(西沙)諸島沖で、中国が一方的に石油掘削を始めたのが、対立の発端だ。現場海域では、両国艦船が衝突する事件が起きた。今もにらみ合いが続いている。
中国の勝手な振る舞いに、歴史的に反中感情を持つベトナム人の怒りが爆発したのだろう。反中デモが多発し、デモ隊の一部は中国系企業を襲い、中国人2人が死亡した。中国系と間違われた日系企業にも被害が出た。
デモに行き過ぎがあったのは確かだ。中国政府は、ベトナム側に、デモの被害を受けた企業や個人への賠償を求めている。
ただ、2005年や12年に中国で起きた反日デモでは、中国当局は、「愛国無罪」を叫ぶ中国群衆の破壊行為や略奪の多くを黙認した。被害を受けた日系企業などへの賠償はほとんどなかった。
一方で、中国政府は、ベトナムとの交流計画を一部停止するとも発表した。賠償要求と同様、反中デモを利用し、ベトナムを牽制する狙いがあるに違いない。
ベトナム当局は、デモを黙認する姿勢から一転し、規制に乗り出した。ベトナムにとって中国は、最大の貿易相手国で、輸入の約3割を頼る。デモによる経済悪化を回避しようとしたとみられる。
デモが沈静化しても、中国が、石油掘削をやめない限り、問題の解決はあるまい。そのような中国の独善的行動は、アジア太平洋地域の安定を損なうものであり、日本も米国も懸念を示している。
中国は、フィリピンが領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島でも、一方的に暗礁を埋め立てて滑走路を建設しているとされる。極めて挑発的な動きだ。
フィリピンと米国は先月、軍事協定に調印し、フィリピン国内での米軍再駐留への道を開いた。南シナ海とその上空を支配しようとする中国は、米国の反応をうかがいつつ、既成事実を積み重ねようとしているのではないか。
東南アジア諸国連合(ASEAN)が結束し、今月の外相会議と、首脳会議後の議長声明で、南シナ海情勢について「深刻な懸念」を表明したことは注目される。
東シナ海で中国の圧力に直面する日米両国は、アジアの海洋における航行の自由の維持を訴えている。懸念を共有するASEANとの連携を一層強めるべきだ。
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