50年後も1億人 大胆な少子化対策へ舵を切れ

毎日新聞 2014年05月17日

人口目標1億人 信頼ないと子は増えぬ

政府の経済財政諮問会議の有識者会議「選択する未来」は、高齢者から子供へと予算配分の重点を移し出産・子育て政策を拡充するなどして「50年後に1億人程度の人口」を保つための提言をまとめた。人口減少と超高齢化による労働力不足、社会保障費の膨張に対しては、現在15~64歳を生産年齢人口としているが、70歳までを働く人とし、女性の活用も盛り込まれている。

子を産むかどうかは個人の問題で、国家が強制できる時代ではないが、このままでは2060年に日本の人口は8700万人を割り込む。急激な人口減少は社会保障の土台が揺らぎコミュニティーの崩壊が進むなど社会にひずみをもたらす。「1億人」が現実的かどうかはともかく、少子化・人口減対策を国家の目標に位置づけることは必要だ。

ただ、少子化対策は極めて難しい。フランスは少子化の改善に成功している珍しい国だが、1世紀にもわたって取り組み、多数の手当や優遇制度があるにもかかわらず、出生率は一貫して向上してきたわけではない。むしろ「子育て関係の予算増が重い財政負担を招いている」と大統領府の担当官は語る。各国とも少子化対策の決め手をつかみかねているのが現状だ。

一方、日本はあまりにも出産や育児の政策が乏しかった。共働き夫婦は増えているが、出産後に仕事をやめる女性は多い。保育所や育休補償の拡充、職場の理解、夫の育児参加を促す政策こそが必要で、数値目標や掛け声だけではだめだ。

晩婚化や非婚化が少子化の主要因とされるが、若い世代の意識調査では結婚して子供を2人以上ほしいと思っている人が多い。育児や教育の費用負担が重いために断念しているのだ。現実に収入の低い層ほど非婚率は高い。非正規雇用が全体の4割近くを占める現在、安心して結婚や出産ができる雇用環境の整備は急務だ。貧困家庭の子も十分な教育を受けられる施策も必要である。

政府にばかり注文を付けるのでなく、世の中の空気を変えることも大事だ。人々の価値観が多様化し経済も文化もグローバル化すると、国家の政策が個人の生活に与える影響力は相対的に低下する。

国内で出生率が高いのは、多世代同居で祖父母が孫の世話をしたり、近隣の支え合いが残っていたりする地域が多い。失業率や離婚率が高くても子供がたくさん生まれている沖縄は、近隣の関係が密な上に「産めば何とかなる」という楽観的な雰囲気が出生率向上に影響しているとの指摘もある。社会に対する信頼や安心があり、生活を楽しむ人が増えなければ子供も増えないだろう。

読売新聞 2014年05月14日

50年後も1億人 大胆な少子化対策へ舵を切れ

日本経済と社会の活力を維持するためには、人口の減少を食い止める必要がある。政府が主導し、本格的な対策へとかじを切るべき時だ。

政府の経済財政諮問会議の有識者会議「選択する未来」委員会が、人口急減と超高齢化対策に関する提言をまとめた。

提言の柱は、50年後に1億人程度の人口を維持する目標を打ち出した点だ。人口や出生率の目標設定には、「個人の生き方への介入になる」といった批判が根強く、これまで政府は消極的だった。

だが、人口減少が続くと、経済の基盤が揺らぎ、社会保障制度も維持できなくなる。有識者会議が、目標を定めて政府に実現を求めたのは、妥当である。

日本の合計特殊出生率は1・4前後で低迷している。この水準のままでは、50年後の人口は、現在の3分の2の8700万人にまで減少する見通しだ。

一方、夫婦が理想とする子供の数は平均2・4人とされる。実際の出生率との差は、経済的理由などで、結婚や子育てをあきらめる人が多いことを物語っている。

提言が、非正規労働者の処遇改善や、子供の多い世帯への支援強化など、子供を産み育てやすい環境作りの重要性を指摘したのは、もっともである。

問題は財源の確保だ。提言は、予算配分の重点を高齢者から子供へと大胆に移し、出産・子育て支援を倍増させるとした。厳しい財政状況を考えれば、現実的な施策と言えるだろう。

医療・介護の費用抑制のため、高齢者にも支払い能力に応じた負担を求める改革をさらに進めることが重要だ。生活習慣の改善など予防重視の取り組みも充実させねばならない。税制面では、年金課税の強化などが課題となる。

提言が、地方から東京圏への人口流出が日本全体の人口減に拍車をかけていると指摘した点も注目される。東京圏では、高い家賃や保育所不足などから、出生率が極めて低い。

民間の「日本創成会議」の分科会も、東京への人口集中により、全国の自治体の半数にあたる896市区町村が、2040年には、「消滅」の危機に直面するという推計を発表した。

地方の活性化策が急務である。地域の中核都市に雇用を生み出すため、企業の地方移転を税制優遇などで促す。周辺自治体と連携し、地域全体の底上げを図る。こうした取り組みで、若者の地方定着を進めることが求められよう。

産経新聞 2014年05月15日

1億人維持 安心して子供持つ喜びを

政府の経済財政諮問会議の専門調査会が、人口減少に歯止めをかけるため「50年後に1億人」の維持を目指す数値目標を掲げ、甘利明経済再生相は、6月に策定する「骨太の方針」に反映させる考えを表明した。

少子化は危機的状況にある。このままでは労働力人口は激減し、社会システムそのものが成り立たなくなる。数値目標によって「政府の覚悟」を示せば、長期にわたる政策の優先順位が明確になる。政府には、現状を打破する大胆でキメの細やかな政策を期待したい。

従来の対策が効果を上げなかった一因は、戦時中の「産めよ殖やせよ」へのアレルギーから、政府が結婚や出産に関与することへの反発が強く、国会議員や官僚が及び腰だったことにある。

少子化対策の効果は一朝一夕に表れず、政府は短期的な対策を繰り返してきた。もはや手をこまねいていられる状況ではない。

専門調査会が示した目標値は、現在1・41まで下がった合計特殊出生率が、2030年までに人口を維持できる2・07に回復することを想定している。これは極めて高いハードルだ。

だが、これまで成果を出すことができなかった現状を考えれば、目標数値は大きいほうがよい。

もちろん結婚や出産は国民個々の意思によってなされるものだ。国家が目標を立てて強要するものではない。

目標は、あくまで政策を展開するための目安である。女性への「圧力」と受け止められることがないよう、政府には丁寧に説明することが求められる。

急ぐべきは、安心して子供を産むことができる社会環境を整備することだ。

専門調査会は、3人目以降の子供への傾斜支援や、高齢者に偏った現在の予算配分を改め、出産・子育て支援を倍増させるよう求めている。女性が働くことを阻害している諸制度の全面見直しにも言及している。若者の雇用を安定させることも不可避だ。可能なものから実現を急いでもらいたい。

何より重要なのは、家庭を築く楽しさを社会全体で再確認することだ。既婚者が家庭を持った喜びや充実感をもっと語ることも求められるだろう。

少子化の要因は複雑に絡み合っている。目標設定をきっかけに、国民の総合力を結集したい。

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