ウクライナ混迷 「住民投票」に法的効力はない

朝日新聞 2014年05月13日

ウクライナ 国家の再建へ対話を

これでは正当な民意の反映とはとても言えない。

ウクライナ東部の二つの州で事実上の独立の賛否を問う「住民投票」が強行された。

親ロシア派は、有権者の7割超が投票し、9割近くが賛成したと主張している。さらに次はロシアへの編入を問う投票をめざすと気勢を上げている。

だが、武装集団が見張る中での投票で、選挙監視団もなかった。テレビカメラの前で堂々と2票投じた人すらいた。

この手続きをもって、分離独立やロシアへの編入などを進める正当性はない。

投票を前に一部で武力衝突したウクライナ暫定政権と親ロシア派は、冷静さを取り戻すべきだ。事態を打開するために何が必要かを考えねばならない。

大事なのは、東部の住民を含む国民全体の合意にもとづく新しい国家づくりである。そのためには25日の大統領選挙が重要な一歩となる。

公正な手続きで新指導者を選んだうえで、親ロシアの東部と米欧寄りの西部の和解を進め、国の再建を図らねばならない。暫定政権も親ロシア派も、これ以上、不毛な対立を長引かせる余裕はないはずだ。

親ロシア派は今回の住民投票の「民意」を盾に政治力を高めたいようだ。だが、東部住民の意識は複雑だ。ロシア語が母語の住民は7割だが、民族的なロシア系は4割にとどまる。

今回「賛成」を投じた住民でも、ロシア編入を求める人、自治権は望むが独立は求めない人、暫定政権に不満を示したかっただけの人など、多様だ。

そんな状況で分離独立やロシア編入へと突き進めば、ウクライナ社会はばらばらになりかねず、泥沼の内戦へ陥る恐れすら現実味を帯びる。

親ロシア派が住民の将来を案じるというなら、公庁舎の占拠などをやめ、住民の多様な声に謙虚に耳を傾けるべきだ。

一方のウクライナ暫定政権ももっと国民対話に力を入れてほしい。地方分権をどう広げ、親ロシア系住民の権利をどう守るのか、早急に説明が必要だろう。東部の警戒を解く努力なしに、大統領選は成功しない。

ロシアのプーチン大統領は住民投票の延期を求めたが、いまだに国境からのロシア軍部隊の撤収は確認されていない。混乱収拾に真剣に取り組んでいるのか疑念を抱かざるを得ない。

ウクライナの混迷の長期化はロシアを含め、誰の利益にもならない。米欧など国際社会は大統領選の公正な実施へ向けて、働きかけを強めるべきだ。

毎日新聞 2014年05月14日

ウクライナ混乱 話し合いで分裂を防げ

ウクライナが分裂の危機に陥った。東部のドネツク、ルガンスク両州で親露派勢力が住民投票を強行し、いずれも投票総数の約9割が独立を支持したと発表した。ドネツク州の親露派指導者は、ロシアへの編入を求めると宣言した。

だがこの主張は透明性を欠く。投票を憲法違反として認めないウクライナ暫定政権は有権者名簿の提供を拒否しており、ドネツク州で75%、ルガンスク州で81%と発表された投票率の根拠は不明だ。「家族の分」と称して複数票を投じた人々も目撃されている。欧米や日本が正統性を認めないのは当然だ。

投票延期を求めていたロシアは、「住民の意思を尊重する」としながらも結果受け入れを明言せず、ウクライナ暫定政権との対話による解決を促す声明を発表した。親露派勢力と距離を置き、暫定政権のお手並み拝見という姿勢のようだ。

当面の打開策として、欧米とロシアが加盟する全欧安保協力機構(OSCE)の仲介で、暫定政権と親露派勢力が参加する「円卓会議」の開催が模索されている。両者は互いに「非合法勢力」と非難し合って対話を拒否してきたが、もはや国の分裂を回避する道は他にない。国と地方の権限のあり方など国の体制をまずは当事者同士の話し合いで決め、そのうえで暫定政権と米露、欧州連合(EU)が改めて対応を協議するのが最善の方法だろう。

ロシアは2月の政変で権力を奪取した暫定政権の正統性を認めていない。5月25日の大統領選をウクライナ全土で実施し、正統な政権を確立することが、混乱を収拾する第一歩になる。大統領選のボイコットを宣言している親露派勢力を説得できるかが分裂回避のカギだろう。

東部2州を除いて大統領選が実施されても、新政権がウクライナ全土を統治する正統性には疑問が残る。ロシアが両州の「独立」を認めないとしても、新政権の統治が及ばない「未承認国家」として今後の紛争の火種になる可能性がある。2008年、南オセチアという未承認国家をめぐってロシアとグルジアが武力衝突したことが想起される。

ロシアはウクライナ南部クリミア半島の一方的な編入に伴う欧米の制裁や外国資本の流出で痛手を受け、東部2州への対応は慎重だ。だが紛争の火種を残し、今後も影響力を保持しようと考えているなら無責任だろう。欧米と責任を分かち合い、混乱収拾に全力を挙げるべきだ。

欧米は大統領選が頓挫すればロシアに新たな制裁を科すと警告しており、日本も同調を迫られる。ロシアは報復で応える。こうした負の応酬は食い止めなければならない。

読売新聞 2014年05月13日

ウクライナ混迷 「住民投票」に法的効力はない

違法な「住民投票」にほかならない。親ロシア派は勢いづいているが、ウクライナの混迷を一層深刻化させるだけだ。

ロシア系住民が多いウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州で、親露派が、両州の「独立」の是非を問う「住民投票」を実施した。圧倒的多数の賛成票を得たとしている。

だが、今回の投票には、法的根拠がない。ウクライナ憲法は、領土の変更について、国民投票で決めると定めており、地域の住民投票は容認していないからだ。

ウクライナ暫定政府だけでなく、日本や米欧諸国も投票を認めない立場を表明した。菅官房長官が「民主的な正当性を欠く」と指摘したのは、当然である。

ドネツク州の親露派は、投票率が7割を超え、賛成が約9割だったと発表した。こうした投票結果も到底信用できない。

「住民投票」は、親露派武装集団が地方政府庁舎を不法占拠し、暫定政府の統治を阻むという、異常な状況下で実施された。選挙人名簿が不完全な上、二重投票防止の措置もとられなかった。不正投票が行われたとの指摘もある。

あまりにもずさんな投票だ。親露派による工作活動ではないかと疑われても仕方あるまい。

親露派は、「投票結果」で分離・独立への住民の支持が得られたとして、25日に予定されるウクライナ大統領選の東部での実施を阻止する方針だという。

ドネツク州などで大統領選の投票ができないという状況に陥れば、選出された大統領の正統性も、主張しにくくなる。混乱に拍車がかかるだろう。親露派と暫定政府の衝突が激化し、流血が拡大することも懸念される。

「住民投票」に先立ち、ロシアのプーチン大統領は、投票を延期するよう主張し、親露派の動きを押しとどめるそぶりを見せた。

しかし、露政府は一転、投票結果を「尊重する」との声明を発表した。親露派を後押しするプーチン氏のご都合主義を裏付ける。

プーチン氏は9日の対独戦勝記念日に、ロシアへの編入後初めて、南部クリミア・セバストポリを訪れ、演説した。編入の正当性を訴えて、国際的非難には一切耳を傾けない姿勢を強調した。

米国や欧州は、ロシアに対し、ウクライナ東部を不安定化させ、大統領選を妨害した場合には、制裁を強化すると警告している。

対話による平和的解決の道筋が見えない以上、当面はロシアに圧力を高めていくしかあるまい。

産経新聞 2014年05月14日

ウクライナ投票 独立への既成事実化防げ

これほどまでに体を成していない住民投票がよくもあったものだ。

ウクライナ東部2州で親露派住民により独立の是非が問われ、9割前後が賛成したという。

だが、身分証提示だけで有権者になれ、1人で何票も投じ、投票箱が透明で秘密は守られず、国際基準をまるで満たしていない。

何より、実施自体に法的根拠と正当性が全くない。州庁舎などを占拠する親ロシア勢力が、国境変更には全土での国民投票を求めるウクライナ憲法に反し、同国暫定政権の制止と住民全体の意思を無視して、強行した。

ロシア系住民は両州人口の4割弱にすぎず、最新の米民間機関の世論調査では、東部住民の70%、ロシア系でも58%がウクライナ帰属を希望している。「9割前後」の結果は疑わしい限りだ。

米国務省報道官が「違法な住民投票は承認しない」と述べ、菅義偉官房長官も「民主的な正当性を欠く」として結果は認められないと表明したのは、当然である。

問題は、「9割」という数字が分離独立への既成事実と化していくことだ。2州の親露勢力は早くも独立を宣言している。

ウクライナと同じ旧ソ連邦の隣国モルドバの沿ドニエストル地方は親露派住民主導の分離独立運動にロシアが介入し、モルドバの主権が及ばない無法地帯になっている。ウクライナ東部での二の舞いは阻止しなければならない。

親露派の後ろ盾ロシアは直前に住民投票延期を求めながら、「住民の意思表示に敬意」を表した。プーチン露大統領は対ドイツ戦勝記念日に、今の東部の動きに火を付けた「クリミア併合」を、現地入りして誇示してもいる。

東部の分離独立運動をあおる言動であり、許されない。

残念ながら、親露派の暴走を抑えられるのはそのロシア以外にない。国際社会が取り得る手段は、対露制裁を強めプーチン政権を事態収拾へと突き動かすことだ。

その意味で気がかりなのは、日本や欧州はもちろん米国の対応もこの期に及んで手ぬるい点だ。

このままでは、ウクライナの正統政権を樹立する25日の大統領選は、東部がボイコットして全土で実施できないという事態が懸念される。対露制裁をエネルギー、金融、軍需という産業全体に広げるときが迫っている。

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