「消滅都市」リスト 東京集中への重い警告

毎日新聞 2014年05月09日

「消滅都市」リスト 東京集中への重い警告

厳しい警告である。産業界や学界の有識者らで構成する「日本創成会議」の分科会(座長・増田寛也元総務相)が独自の人口推計を盛り込んだ資料と提言をまとめた。2040年までに日本の市区町村(政令市区部も個別に計算)の約半数が最終的に「消滅」の可能性がある状態に追い込まれかねないと指摘、個別のリストを公表した。

試算は今後も東京など大都市圏への人口流入に歯止めがかからない前提で算出したものだが、誇張とは言い切れない。人口減少ペースをできるだけ緩和し地域崩壊を食い止めるため、地方での長期的な人口確保策の検討を本格化すべきだ。

人口減少は不可避とはいえ、個別試算まで示されると多くの自治体にとってはやはり衝撃だろう。

資料は将来人口を決定づける要素として「20~39歳の女性人口」に着目した。2010年から40年までの30年で同人口が5割以下に減る市区町村について増田氏らは人口減少を防止できず自治が困難になりかねない「消滅可能性都市」と定義した。

国立社会保障・人口問題研究所の各種推計にもとづき試算した場合でも373市区町村がこの基準に該当する。だが、増田氏らは大都市圏への人口流入が研究所の想定以上のペースで継続しかねないとみており、その場合、全体の約5割の896に拡大してしまう。そのうち人口が1万人を切る市区町村も523と全体の約3割を占め「このままでは消滅の可能性が高い」と分析している。

増田氏らは昨年末に月刊誌でもこうした試算を公表し波紋を広げたが、今回は個別市区町村の推計を公表しただけに影響は大きい。「消滅」との過激な表現や地方からの人口流出の見積もりには議論もあるだろう。だが、東京などでは今後、後期高齢者が激増し介護など要員ニーズなどが想定され、地方から大都市圏に若い世代が流出する要因となる。出生率が低い東京などへの人口流入で人口減少と地域社会の空洞化が一層加速する懸念は否定できまい。

同時に公表した提言は人口減少を緩和するため12年で1.41だった出生率は25年に1.8にまで上昇することが望ましいとの目標を掲げた。子育て支援などの社会環境の整備と地方活性化に向けた施策を両輪で回すべきだ。提言では各種政策も列記したが「東京一極集中」是正は価値観を転換するくらいの覚悟がいる。

分科会があえて個別リストを公表したのは全体数や社会保障の制度論議に偏重しがちだった人口減少問題を地域の現実的な課題とする認識を共有する狙いからだったという。実態を見据え、地に足のついた議論を進めていく端緒とすべきだ。

産経新聞 2014年05月10日

自治体の「消滅」 若者引きつける地域作れ

2040年までに全国の自治体の半数が、将来的な「消滅」の危機にさらされる。民間有識者らでつくる「日本創成会議」の分科会が発表した推計は衝撃的だ。

地域の崩壊は、日本全体の衰亡につながる。地方の人口見通しが変われば、国土計画を見直す必要も出てくる。自治体消滅の危機を「過疎地の問題」と片付けてはいられない。

若者に魅力のある地域づくりなど、官民を挙げて対策を講じることが急務である。

高齢化で人口が減る上に、出産期にある20~39歳の女性は仕事を求めて大都市部に流出する。この傾向に歯止めがかからなければ、若い女性が現在の半分以下になった自治体は、出生率が回復しても人口が減る運命にあるという。

税収不足で行き詰まる自治体が相次げば、国民全体で負担することになる。農業や漁業人口の減少は食糧問題に直結する。

さらに深刻なのは、大都市部は保育所不足や高家賃で子供を産み育てしづらいのに、若者が吸い寄せられ続ければ、日本全体の少子化に拍車がかかることだ。

少子化対策の強化は言うまでもないが、若者の流出を食い止め、大都市から呼び戻すことにまず取り組まなければならない。

それには、都会で技能・知識を身につけた若者が能力を発揮できる職場の確保が必要だ。企業の理解と協力が欠かせない。

インターネットや高速交通機関の発達で、必ずしも東京に本社を置く必要のない業種も増えた。建設機械メーカー「コマツ」は、業務の一部を創業地の石川県に戻した。秋田県大潟村では、若者の農業参入が進んでいる。これらに続く取り組みを期待したい。

もちろん、「消滅」危機にあるすべての自治体が、同様の取り組みが可能とはかぎらない。県庁所在地や中核市など地域の拠点都市で雇用を生み出し、近隣自治体と連携し、役割を分担するのが現実的だろう。コンパクトな町づくりの視点も欠かせない。

こうした取り組みを後押しするため、政府も税制上の優遇策や地域の拠点となるサテライトオフィスの整備などに力を入れる必要がある。

人口減少の態様は全国一律ではない。今回の推計値を嘆くのではなく、地域の事情に合った取り組みにつなげたい。

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