野生トキにひな 希少種と生きる手本に

毎日新聞 2014年05月08日

野生トキにひな 希少種と生きる手本に

新潟県・佐渡島で、野生下で生まれたトキを親に持つ「純野生」のひな(3世)が初めて誕生した。巣から頭を持ち上げるその姿は、生命の息吹に満ちている。トキの完全な野生復帰には時間がかかるものの、大きなハードルをまた一つ越えたことをまずは喜びたい。

トキの野生復帰を目指し、環境省は2008年、人工繁殖したトキの放鳥を佐渡島で始めた。3世の親となったのは、放鳥トキから12年に生まれた2歳の雄と、昨年放鳥された3歳の雌のつがいだ。

野生復帰には1999年度以降、国の事業費だけで30億円以上が投じられてきた。それでも野生復帰を目指すのは、乱獲や農薬の使用など人間の身勝手がトキの絶滅を招いたからであり、トキという希少種を守ることが生物多様性を回復し、自然と人間との共生につながるからだ。

放鳥、野生でのひな誕生に続く純野生のひな誕生で、野生復帰は新たな段階に進んだといえる。

だが、トキの野生復帰は、人の手を借りずに集団が維持できるようになってはじめて完了する。そのためには野生のトキのつがいが500組は必要とされる。しかし、野生生活を送る大人のトキは約90羽にとどまる。まだ道のりは途上にある。

トキが生息する自然環境の整備がその土台となる。地元住民らは、冬場も水田に水をため、農薬や化学肥料を抑えた米作りを実践するなどトキのえさ場の確保に尽力してきた。島外を含めたボランティアの協力も広がっているという。そうした取り組みに敬意を表したい。

今後の大きな課題は、トキの繁殖率向上と遺伝子の多様性確保だ。

人工繁殖されたトキは、子育てが苦手だという。13年につがいとなった放鳥トキ24組のうち、ひなが誕生し、巣立ちまでうまくいったケースは2組しかない。

日本産トキは03年に絶滅し、国内で放鳥されたトキのほとんどは、中国から贈られた3羽から繁殖したものだ。近親交配が続くと、遺伝子の多様性が薄れ、トキ全体の繁殖力や病気への抵抗力が落ちかねない。昨年はきょうだいペアから4羽のひなが生まれ、環境省が捕獲した。繁殖はさせず、放鳥もしないという。

中国から新たなトキを迎え入れることも計画されたが、日中関係の悪化もあり、実現の見通しは立っていない。残念なことだ。

純野生ひなの誕生で、地元には観光振興に期待する声もある。トキを守りつつ、地域振興にもつなげることができれば素晴らしい。国や地元自治体、住民らが連携し、知恵を出し合い、各地のお手本となる共生モデルを創造してもらいたい。

読売新聞 2014年05月10日

トキのひな誕生 野生に定着する道のりは長い

新潟県の佐渡島で、野生のトキにひなが誕生した。トキの野生復帰へ、新たな段階に入った。

ひなは、人工繁殖を経て、2008年以降、島内に放鳥されたトキから数えて3世代目にあたる。親鳥は、12年に佐渡の自然界で生まれた野生のトキだ。

環境省は「トキが本来持っている野生としてのたくましさが引き出された」とみている。ぜひ無事に巣立ってほしい。

トキはかつて日本各地に生息していたが、生息環境の悪化などで明治以降、激減した。日本生まれのトキは03年に絶滅した。

環境省は、トキを野生に復帰させるため、中国から1999年以降に贈られた5羽をもとに、人工繁殖と放鳥を続けている。

現在は約100羽が島内の森林に生息する。絶滅から10年余を経て、日本の空にトキが戻りつつあることは喜ばしい。

野生復帰事業の進展とともに、繁殖の課題も見えてきた。

人工繁殖で育ち、野生に放たれた親鳥は、抱卵や給餌を放棄する例が目立つ。卵を産んでも、孵化ふかしない無精卵が多い。

昨年は自然界で24組が巣作りをしたが、ひなが巣立ったのは2組にとどまった。

こうした問題を克服するには、放鳥するトキに対し、施設内飼育の段階から、孵化器を使わず、給餌も親鳥に任せるのが有効であることが分かってきた。

繁殖、巣立ちが順調に進むよう、トキの生態について、さらに研究を深めてもらいたい。

近親交配の影響も懸念される。昨年、兄妹ペアから生まれたひな4羽は飼育施設に隔離された。遺伝的な多様性が確保されないと、島のトキ全体の繁殖力や免疫力が弱くなる恐れがあるからだ。

血統を増やす取り組みが求められるだろう。

環境省は、トキの野生復帰事業に毎年約1億5000万円を投じている。放鳥せずに野生のトキが増え続けることが最終的な目標だが、その時期は見通せない。

絶滅した種を復活させるには、膨大な時間とコストがかかる。トキが野生に定着するまでの長い道のりが、それを示している。

佐渡島では、地元住民らがトキの手助けをしている。餌のドジョウやカエルが取りやすいように、冬でも水田に水を張る。化学肥料や農薬を抑えた米を作る――。

トキとの共生を目指す試みは、島の豊かな自然環境を保全することにつながるだろう。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1808/