タイの政治危機に出口が見えない。昨秋以来、激しい反政府デモに直面してきたインラック首相がついに退いた。
引導を渡したのは民意ではなく、司法だった。憲法裁判所が首相の違憲行為を認める判決を出したことで失職した。
これでタクシン元首相派の首相は3代続けて司法の手でその座を追われた形だ。こんな異常な事態がいつまで続くのか。
国は二分されている。東北部の農村地帯を基盤とするタクシン派。都市の中間層や南部の住民が支える反タクシン派。その果てしない対立である。
いまの憲法は、06年にタクシン元首相をクーデターで追放した軍が中心になって制定した。裁判官や司法機関幹部らも反タクシン派で固めた。
数にまさるタクシン派はその後も選挙を勝ち続けたが、司法がささいな理由で首相をすげ替える事態が繰り返された。
08年当時の首相は、料理番組のテレビ出演が閣僚の兼業規定に反するとされ、今回のインラック氏は政府の人事異動が親族の優遇にあたるとされた。
一方のインラック政権にも過ちがあった。事実上のコメ買い上げ制度を設け、巨額の赤字を招いた。国家財政より農村票固めを優先した失政だった。
民主主義国家で政治の対立を解決する道は、選挙か、司法判断かのどちらかだろう。
だが、いまのタイではどちらも機能しない。反タクシン派は勝てる見込みがないため選挙を拒む。タクシン派は司法の中立をもとより信じていない。
このままでは国家のマヒ状態を解決するすべはない。
インラック氏の失職後も、副首相兼商業相が首相代行になったため内閣は存続する。だが、7月に予定される次の選挙ができるのかは不透明だ。
近年の混乱でタイは国際空港の閉鎖や、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の主催延期などを経験した。
知識人や中間層の多くは「タイにはタイの事情があり、外国人には分からない」と語りがちだ。だが、これだけ国際信用を損ねても危機感を強めない姿勢は理解に苦しむ。
グローバル時代に生きている自覚が欠けているのではないかと危惧せざるを得ない。
タイは地域大国である。その潜在的な成長力と指導力を生かせず、内紛に明け暮れるのを見続けるのは、アジアの友好国としてもどかしい思いだ。
国民の融和へ向けてタイ国民が理性的な政治決着の歩みに踏み出すことを強く望む。
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