毎日新聞 2014年05月10日
南シナ海緊張 力の誇示は嫌われる
南シナ海の緊張が高まっている。中国とベトナムが領有権を争う西沙(英語名パラセル)諸島付近では、中国の国営企業による海底油田掘削をめぐり、両国の艦船計100隻以上がにらみ合う事態が続いている。
南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺ではフィリピンの海洋警察がウミガメを密猟していた中国海南省の漁船を拿捕(だほ)し、中国政府が乗組員の即時釈放を求めて対立している。
気になるのは各国の動きがオバマ米大統領のアジア歴訪直後に起きていることだ。オバマ大統領はフィリピンと基地を共同利用できる新軍事協定を結び、「南シナ海を含む地域の安定に寄与する」と表明した。
中国の力の行使を抑止する狙いであり、中国と対立してきたフィリピンやベトナムは心強い後ろ盾と受け止めただろう。しかし、中国は米国の思惑どおりにはならないと反発し、むしろ力を誇示しようとしている可能性がある。
中国が掘削作業準備を始めた海域はベトナム中部沖約220キロ。中国は領有権を持つ西沙諸島の海域内と主張するが、ベトナムは自国の排他的経済水域内と反発し、掘削阻止のため、海軍や海洋警察の艦船計29隻を展開させた。
一方、中国海警局などの艦船80隻以上が中国海洋石油総公司の海底油田掘削装置(オイルリグ)を護衛している。ベトナム側の発表では中国船が意図的にベトナム船に衝突し、船員6人が負傷したという。
双方の主張に食い違いはあるが、ベトナム側発表の映像を見ると、中国側はベトナム船への放水も行っている。一触即発の危険な状況だ。
オイルリグは2012年に稼働した最新鋭の「海洋石油981」。ほぼ100メートル四方、高さ112メートルの巨大な建造物だ。深さ3000メートルの深海でも掘削でき、移動も可能だ。
香港沖にあった装置をあえて係争海域に投入した意図が不明確だ。日米は「一方的で挑発的」(サキ米国務省報道官)などと批判したが、国際世論もベトナムに同情的だ。
中国はフィリピンにも強硬に乗組員の釈放を求めているが、ウミガメの取引はワシントン条約違反だ。無理強いは大国の身勝手に映る。
中国はトウ小平時代から南シナ海については「争いを棚上げし、共同で開発する」と訴えてきた。単独開発も可能なオイルリグの開発に成功したら過去の主張はほごにするというなら、ご都合主義だ。
11日には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開かれる。中国は緊張を高める行動を避け、ASEANとの間で長く協議を続けている南シナ海での行動規範の合意に真剣に取り組むべきだ。
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産経新聞 2014年05月09日
中国と南シナ海 力の現状変更ここでもか
中国、ベトナムなどが領有権を争う南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島海域で中国が石油を掘削し、両国船が衝突する事態となった。
米国務省報道官は「係争地での石油掘削は挑発的だ」と批判し、菅義偉官房長官も「一方的な活動により、地域の緊張感が高まっていることを深く憂慮する」と中国に国際法順守と自制を求めた。当然である。
中国の行為は、尖閣諸島をはじめとする東シナ海への無法な海洋進出と同様に、力ずくで現状変更を試み地域を不安定化させるものだ。断じて許されない。
ベトナムによると、同国の排他的経済水域(EEZ)での石油掘削は今月初めに始まった。ベトナムが抗議の末、巡視船など約30隻を現場海域に派遣したのに対し、中国側は80隻を展開し、船による体当たりや放水を行った。
パラセルはベトナム戦争末期の1974年、米軍撤退の隙を突いて中国が実効支配した。中国外務省は同諸島を「中国固有の領土」とし、石油掘削は「主権に基づく正当なものだ」と唱えている。
その根拠とされているのが、南シナ海ほぼ全域を9つの点で結んで囲む独自の「九段線」で、中国はその中を領海扱いしている。陸地を基点とする領海とはまるで違い、国際的には認められない。
やはりフィリピンからの米軍撤退後に中国が進出した両国などの係争地、スプラトリー(南沙)諸島の近海では、フィリピン巡視船が違法操業の疑いで中国漁船を拿捕(だほ)し、緊張が高まっている。
問題は、衝突回避、緊張緩和に向けてベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)が主唱し中国と協議している海上の「行動規範」策定が、中国側の消極姿勢で一向に具体化しないことだ。
中国のこうした態度や行動を抑止するには、地域の安定作用を担う米国を主体に、関係各国が結束することが何より重要だ。
オバマ米大統領が今回のアジア歴訪で、尖閣防衛や米軍のフィリピン回帰を約し、対中牽制(けんせい)を強めたことは大きな前進である。
日本とベトナムは同国国家主席が来日した折、海洋安全を含む政治・安全保障分野の協力強化で一致した。日本はベトナム海上警察の訓練で協力し同国への巡視艇供与を進めている。フィリピンへも巡視艇10隻を供与する。こうした支援を強化していくべきだ。
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