中国と南シナ海 力の現状変更ここでもか

朝日新聞 2014年05月09日

南シナ海掘削 中国は直ちに中止せよ

南シナ海の緊張が高まっている。中国とベトナムが権益を争う海域に中国艦船が集まり、ベトナムの巡視船と衝突した。

中国は国有企業が現場で石油の採掘を始めると表明し、機材を運びこんでいる。その作業のさなか、中国側が衝突や放水などの行動に出たらしい。

ゆゆしい事態である。そもそも論争のある海域で、大がかりな経済活動に一方的に着手するのは慎むべきだ。中国側は直ちに作業をやめねばならない。

現場近くの西沙(パラセル)諸島を中国政府は「わが国の領土」とし、近海での掘削に何の問題もないと主張している。

しかしベトナムから見れば、自国が主張する排他的経済水域の完全な内側だ。西沙は中国が実効支配するが、ベトナムも領有権を主張している。一方的な通告で済む話ではない。

南シナ海は多くの国々の利害がぶつかる。島の領有権や経済権益を主張しているのは中越のほかフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾がある。

そのなかで中国は、南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」と呼ばれる線を引いている。その性格は不明確で、国際ルールでは説明できない。中国は、その線の内側に排他的な権益があると言わんばかりである。

南シナ海を管轄するという中国海南省政府が外国漁船の入漁に手続きを義務づける規定を設け、周辺国の反発を招いたのは今年1月のことだった。九段線内での既成事実を積み重ねる狙いがあるのではないか。

ともに共産国家の中越だが、戦火を交えたこともあって歴史は複雑だ。それでも90年代には陸続きの部分とトンキン湾について、境界線画定の共同作業に時間をかけ、合意に達した。

当時、南シナ海部分の同時解決はできなかったが、それは両国関係に悪影響を及ぼす争いを避ける知恵だったはずだ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の間では02年、南シナ海問題の平和的解決をめざす行動宣言で合意し、具体的な行動規範づくりに取り組むことになっている。今回の中国側の行動はそうした国際公約を踏みにじるものでもある。

米国政府は早々に懸念を表明した。南シナ海全域で航行の自由の原則が阻害されかねない重大な問題とみるからだ。

このままではアジアの海が力と力のぶつかり合いの場になってしまう。それは誰の利益にもならない。まずは事態悪化を招いた中国が退かなくてはならない。ベトナムにも冷静な行動を望みたい。

毎日新聞 2014年05月13日

ASEAN宣言 対中国で日米も連携を

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国とベトナムの艦船が衝突するなど緊張が高まっている南シナ海情勢に関し、関係国に自制を求め、紛争防止のため行動規範の早期策定を訴える首脳宣言を採択した。日本を含む国際社会は中国に対して、海洋秩序の安定を損なわないよう行動を慎み、規範策定に誠実に取り組むよう促していくべきだ。

首脳会議に先立つ外相会議では現状に「深刻な懸念」を表明する緊急声明を発表した。ASEANが地域の安全保障問題でこうした声明を出すのは異例で、南シナ海を「紛争の海」にしてはならないという強い危機意識が示されている。

南シナ海には石油や天然ガスなどの資源が豊富に埋蔵されているとみられ、中国、台湾のほか、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイのASEAN加盟4カ国が領有権を主張している。

中国が最近、石油掘削作業を活発化させていることにベトナムが激しく抗議し、両国の艦船のにらみ合いが続いている。中国とフィリピンの間でもこれまで艦船が対峙(たいじ)するなどしばしば緊張状態が生じている。

ASEANと中国は2002年、緊張を高める行動の自制や平和的解決をうたった「南シナ海行動宣言」に署名した。これを法的拘束力のある行動規範に発展させることを目指し、両者は昨年9月から公式協議に入っている。

行動規範には、国連海洋法条約の紛争解決手続きの活用や規範順守を監視する仕組みの構築、排他的経済水域(EEZ)の尊重などを盛り込むことが想定されている。

早期策定を目指すASEANに対し、中国は「基本的には2国間問題で、ASEAN全体との問題ではない」として消極姿勢を見せ、合意のめどは立っていない。ASEAN側は、中国が協議を長引かせながら、強大な軍事力を背景に一方的に境界線を引いて実効支配を進めようとしていると不信を募らせている。

アジア太平洋地域では近年、中国の台頭で地域のパワーバランスが変化しつつある。フィリピンは先月、米軍の常駐を事実上認める米比新軍事協定を締結した。アジア重視を掲げる米国には、紛争防止と地域の安定のために抑止力を発揮してほしい。

東アジア地域の安定をどう図っていくかは、中国との間で尖閣諸島問題を抱える日本にとっても重大事だ。日本は米国やASEANと連携を強化しながら、地域の安全保障問題を話し合うASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジアサミットなど多国間協議の枠組みを通じて、国際的な安全保障のルール作りに積極的に取り組んでいく必要がある。

読売新聞 2014年05月10日

南シナ海緊張 容認できぬ中国の一方的行動

南シナ海で、中国とベトナムの艦船のにらみ合いが続いている。一歩間違えば軍事衝突に発展しかねない状況だ。両国には自制が求められる。

中国やベトナムが領有権を主張する南シナ海・パラセル(西沙)諸島の周辺海域で数日間、双方の多数の艦船が船体をぶつけ合う事件が発生した。ベトナム側には負傷者も出ているという。

事件の発端は、中国が、境界の画定していない海域で、係争相手国の同意なしに、石油掘削を始めたことである。ベトナムは反発して、海上警察などの船を派遣した。中国も公船などを動員し、対立がエスカレートした。

中国の石油掘削について、菅官房長官は、「一方的かつ挑発的な海洋進出活動」と指摘し、米国務省報道官も「緊張を高める」と述べた。国際社会が、中国に非があると批判するのは当然だ。

中国は、南シナ海のほぼ全域を囲い込むように「九段線」と呼ばれる境界線を引き、その内側に主権が及ぶと主張している。だが、これには、国際法上の根拠はなく、どの関係国も認めていない。

一方的な現状変更は、今回の石油掘削だけではない。南シナ海で外国漁船に操業許可申請を義務付けたのも、同じ動きである。米国やフィリピンの艦艇への航行妨害という強圧的な行動も目立つ。

海洋強国を目指す中国は、東シナ海でも日本を無視し、ガス田開発を進めたり、防空識別圏を設定したりしている。南シナ海、東シナ海いずれにおける振る舞いも、到底許されるものではない。

オバマ米大統領は、4月のアジア歴訪で、「アジア重視」の方針を改めて打ち出した。歴訪に合わせ、米軍のフィリピン再駐留に道を開く米比軍事協定が調印されたことには、大きな意義がある。

フィリピンの巡視船は今月、南シナ海で中国漁船を違法操業の疑いで拿捕だほした。フィリピンは、米国との同盟強化なしには、強い態度に出られなかっただろう。

中国に対しては、日米、米豪、米比など、米国とアジア太平洋諸国の同盟関係強化が最も有効な抑止力になるのは、間違いない。

その上で、「法の支配」に基づく国際ルール作りを進め、中国をルールの枠組みの中に取り込んでいくべきである。

東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は、南シナ海における関係国の行為を法的に縛る行動規範の策定に向けた協議を始めている。国際社会も策定を支援することが重要だ。

産経新聞 2014年05月13日

ASEAN声明 実効性のある対中結束を

東南アジア諸国連合(ASEAN)が南シナ海での中国とベトナムの艦船衝突を受け、「深刻な懸念」を表明した。

今回の事態で非は中国にある。領有権紛争の海域で一方的に石油掘削を始め、両国が艦船各数十隻を展開し体当たりを行う危機を引き起こした。両国艦船が対峙(たいじ)する一触即発状況はなお続いている。

中国の力ずくの海洋進出を食い止めるため、対中関係で濃淡のあるASEAN10カ国が、結束を確認したことを歓迎したい。

菅義偉官房長官は「一体となって対応していくとの表明であり、高く評価したい」と述べ、ASEANとの「意思疎通」にも言及した。対中連携は当然である。

ASEANはミャンマーで外相会議と首脳会議を開き、外相会議で、「南シナ海の現状への深刻な懸念」を示す緊急声明を出した。首脳会議後の「ネピドー宣言」では、関係国に自制と武力の不使用を要請し、首脳会議議長声明も「深刻な懸念」を示した。

ASEANが個別の問題で共同声明を出すのは異例だ。ベトナムの衝突発表から3日後であり、迅速な対応だったといえる。

南シナ海の領有権問題をめぐっては、中国とフィリピンの艦船がにらみ合った2012年、フィリピンがそれを外相会議の共同声明でうたうよう主張したところ、議長国カンボジアが拒み、声明自体が出せなかった経緯がある。

多額の援助で一部の国を自らに引き寄せ、ASEANを分断するのは中国の常套(じょうとう)手段である。

今首脳会議ではベトナムのグエン・タン・ズン首相が中国の動きを非難し、インドネシアのユドヨノ大統領が「(中国の)砲艦外交を止めなければならない」と同調して厳しい姿勢でまとまった。

今回の対中結束をかけ声だけに終わらせてはならない。

宣言は、領有権争いの解決に向けた「行動規範」の策定で早期に結論を出すことも求めている。

行動規範に関しては昨年来、中国との間で議論が行われているものの、海上での行動を縛られるのを嫌う中国が消極的で、具体化しない。策定期限を設けるなどして前に進めてもらいたい。

日本や米国も中国、ASEANと同席する東アジアサミット(EAS)などの機会を活用し、ASEANの対中結束を後押ししていくべきだ。

毎日新聞 2014年05月10日

南シナ海緊張 力の誇示は嫌われる

南シナ海の緊張が高まっている。中国とベトナムが領有権を争う西沙(英語名パラセル)諸島付近では、中国の国営企業による海底油田掘削をめぐり、両国の艦船計100隻以上がにらみ合う事態が続いている。

南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺ではフィリピンの海洋警察がウミガメを密猟していた中国海南省の漁船を拿捕(だほ)し、中国政府が乗組員の即時釈放を求めて対立している。

気になるのは各国の動きがオバマ米大統領のアジア歴訪直後に起きていることだ。オバマ大統領はフィリピンと基地を共同利用できる新軍事協定を結び、「南シナ海を含む地域の安定に寄与する」と表明した。

中国の力の行使を抑止する狙いであり、中国と対立してきたフィリピンやベトナムは心強い後ろ盾と受け止めただろう。しかし、中国は米国の思惑どおりにはならないと反発し、むしろ力を誇示しようとしている可能性がある。

中国が掘削作業準備を始めた海域はベトナム中部沖約220キロ。中国は領有権を持つ西沙諸島の海域内と主張するが、ベトナムは自国の排他的経済水域内と反発し、掘削阻止のため、海軍や海洋警察の艦船計29隻を展開させた。

一方、中国海警局などの艦船80隻以上が中国海洋石油総公司の海底油田掘削装置(オイルリグ)を護衛している。ベトナム側の発表では中国船が意図的にベトナム船に衝突し、船員6人が負傷したという。

双方の主張に食い違いはあるが、ベトナム側発表の映像を見ると、中国側はベトナム船への放水も行っている。一触即発の危険な状況だ。

オイルリグは2012年に稼働した最新鋭の「海洋石油981」。ほぼ100メートル四方、高さ112メートルの巨大な建造物だ。深さ3000メートルの深海でも掘削でき、移動も可能だ。

香港沖にあった装置をあえて係争海域に投入した意図が不明確だ。日米は「一方的で挑発的」(サキ米国務省報道官)などと批判したが、国際世論もベトナムに同情的だ。

中国はフィリピンにも強硬に乗組員の釈放を求めているが、ウミガメの取引はワシントン条約違反だ。無理強いは大国の身勝手に映る。

中国はトウ小平時代から南シナ海については「争いを棚上げし、共同で開発する」と訴えてきた。単独開発も可能なオイルリグの開発に成功したら過去の主張はほごにするというなら、ご都合主義だ。

11日には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開かれる。中国は緊張を高める行動を避け、ASEANとの間で長く協議を続けている南シナ海での行動規範の合意に真剣に取り組むべきだ。

産経新聞 2014年05月09日

中国と南シナ海 力の現状変更ここでもか

中国、ベトナムなどが領有権を争う南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島海域で中国が石油を掘削し、両国船が衝突する事態となった。

米国務省報道官は「係争地での石油掘削は挑発的だ」と批判し、菅義偉官房長官も「一方的な活動により、地域の緊張感が高まっていることを深く憂慮する」と中国に国際法順守と自制を求めた。当然である。

中国の行為は、尖閣諸島をはじめとする東シナ海への無法な海洋進出と同様に、力ずくで現状変更を試み地域を不安定化させるものだ。断じて許されない。

ベトナムによると、同国の排他的経済水域(EEZ)での石油掘削は今月初めに始まった。ベトナムが抗議の末、巡視船など約30隻を現場海域に派遣したのに対し、中国側は80隻を展開し、船による体当たりや放水を行った。

パラセルはベトナム戦争末期の1974年、米軍撤退の隙を突いて中国が実効支配した。中国外務省は同諸島を「中国固有の領土」とし、石油掘削は「主権に基づく正当なものだ」と唱えている。

その根拠とされているのが、南シナ海ほぼ全域を9つの点で結んで囲む独自の「九段線」で、中国はその中を領海扱いしている。陸地を基点とする領海とはまるで違い、国際的には認められない。

やはりフィリピンからの米軍撤退後に中国が進出した両国などの係争地、スプラトリー(南沙)諸島の近海では、フィリピン巡視船が違法操業の疑いで中国漁船を拿捕(だほ)し、緊張が高まっている。

問題は、衝突回避、緊張緩和に向けてベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)が主唱し中国と協議している海上の「行動規範」策定が、中国側の消極姿勢で一向に具体化しないことだ。

中国のこうした態度や行動を抑止するには、地域の安定作用を担う米国を主体に、関係各国が結束することが何より重要だ。

オバマ米大統領が今回のアジア歴訪で、尖閣防衛や米軍のフィリピン回帰を約し、対中牽制(けんせい)を強めたことは大きな前進である。

日本とベトナムは同国国家主席が来日した折、海洋安全を含む政治・安全保障分野の協力強化で一致した。日本はベトナム海上警察の訓練で協力し同国への巡視艇供与を進めている。フィリピンへも巡視艇10隻を供与する。こうした支援を強化していくべきだ。

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