新疆爆発事件 中国の少数民族政策に綻びも

朝日新聞 2014年05月04日

中国新疆テロ 民族政策の失敗だろう

中国で少数民族問題を背景とする事件が相次いでいる。

新疆ウイグル自治区のウルムチで先週、爆破事件があり、多くの死傷者が出た。死亡した2人の容疑者はウイグル族の男性だという。

その当日まで、習近平(シーチンピン)国家主席が4日間にわたり新疆各地を視察し、治安対策に万全を期すよう指示した矢先だった。

事件の時間と場所の選び方には、習政権に挑みかかるかのような意図すらうかがわれる。

駅前という公共の場所で罪のない市民を巻き込むことに強い憤りを覚える。こうした無差別テロは決して許されない。

そのうえで中国政府に問いたい。歴代政権は少数民族の権利を尊重する方針を掲げてきたのに、なぜウイグル族に関係する事件がこうも続発するのか。

昨秋、北京・天安門にウイグル族の一家3人が自動車ごと突っ込んだ事件は記憶に新しい。以後、伝えられるものだけでほぼ1カ月に1度、ウイグル族に絡む事件が起きている。

これは、人口の9割を占める漢族主体の共産党政権が、少数民族政策に失敗したことを意味しているのではないか。

犯行グループは「国外組織と連絡をとりつつ我が国の分裂を図る暴力分子」。中国政府は事件のたびに、そう説明する。

中国政府は新疆の経済発展に力を注いでおり、ウイグル族への施策はうまくいっている。事件を起こすのは民意から遊離した連中だ――というわけだ。

確かにウイグル族の間で政治的独立をめざす動きはあった。国外にも組織がある。しかし、だからといって、これほど相次ぐ事件は政治的動機だけでは説明しきれない。むしろ、日常の中でのトラブルから発展する事件のほうが目につく。

例えば昨年夏、同じ新疆の都市ホータンで「武装集団による騒ぎ」とされた事件は、ウイグル族のイスラム教礼拝所が地元当局の圧力で使えなくなったことによる騒動だった。

昨秋の天安門突入事件を起こした一家は、地元政府に何らかの不満があって陳情を繰り返していたと伝えられる。

行政の現場で、当局者とウイグル族住民との信頼関係が壊れているのではないか。そのうえさらにテロ対策の名のもとに、生活や信仰上の習慣をふみにじるようなことになれば、不信感の増大を招くだけだ。

テロと弾圧の応酬では事態の打開はありえない。多民族国家中国の安定にいま必要なのは、力の行使ではなく、融和を導く賢明な政治ではないか。

読売新聞 2014年05月02日

新疆爆発事件 中国の少数民族政策に綻びも

習近平国家主席の視察を狙ったかのように、爆発事件が起きた。中国の少数民族地域における共産党統治の難しさを浮き彫りにしたと言える。

新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの鉄道駅で、4月30日午後、爆発があり、80人以上が死傷した。当局は早々に、「暴徒によるテロ事件」と断定した。

この日、習氏は、党総書記に就任後初めて、新疆を視察しており、午前中には、爆発現場に近いイスラム教礼拝所を訪れていた。習氏の視察日程を踏まえた計画的犯行の可能性が濃厚である。

イスラム教徒の少数民族・ウイグル族が人口の半数近くを占める新疆では、最近、武装集団と警察との衝突が相次いでいる。

新疆以外でも、昨年10月、北京の天安門前にウイグル族の乗った車が突入した。今年3月には、雲南省でウイグル族とされる集団による無差別殺傷事件が起きた。

習政権は、ウイグル族の「分裂主義者」の犯行として取り締まりに躍起になっている。

習氏にとって今回の新疆視察は新設の中央国家安全委員会の主席として、治安維持に向けた決意を示す狙いがあったに違いない。

習氏は視察で「新疆の安定は、国家の安全と中華民族の偉大な復興にかかわる」と述べ、テロ対策強化を指示した。反日感情をあおるつもりなのか、歴史上の海賊集団「倭寇」を撃退した方法にも言及して警察を鼓舞した。

しかし、その直後の爆発事件によって、習氏のメンツは丸つぶれとなった。「分裂主義者との闘争」の一環として「テロリスト」を徹底的にたたくよう命じたのは、習氏の焦燥感の表れだろう。

ただ、締め付け一辺倒では、問題の解決は見込めない。

事件が続出する背景には、共産党と漢族の支配に対するウイグル族の強い不満があるからだ。

新疆では、他地域と同様、イスラム教を含む宗教活動は党の厳しい管理下に置かれている。漢族官僚が政治権力を握り、国有企業や漢族企業家が、経済的利権の大半を手にしている。ウイグル族の多くは貧困状態にある。

この構造的な格差を放置している限り、相次ぐ事件に歯止めがかからないばかりか、政権と武装集団の間の「報復の連鎖」へと発展しよう。

チベット自治区でも、党や漢族と、少数民族のチベット族との間で、対立が深まっている。力に頼る習政権の少数民族政策に、綻びが見えてきたのではないか。

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