中国で少数民族問題を背景とする事件が相次いでいる。
新疆ウイグル自治区のウルムチで先週、爆破事件があり、多くの死傷者が出た。死亡した2人の容疑者はウイグル族の男性だという。
その当日まで、習近平(シーチンピン)国家主席が4日間にわたり新疆各地を視察し、治安対策に万全を期すよう指示した矢先だった。
事件の時間と場所の選び方には、習政権に挑みかかるかのような意図すらうかがわれる。
駅前という公共の場所で罪のない市民を巻き込むことに強い憤りを覚える。こうした無差別テロは決して許されない。
そのうえで中国政府に問いたい。歴代政権は少数民族の権利を尊重する方針を掲げてきたのに、なぜウイグル族に関係する事件がこうも続発するのか。
昨秋、北京・天安門にウイグル族の一家3人が自動車ごと突っ込んだ事件は記憶に新しい。以後、伝えられるものだけでほぼ1カ月に1度、ウイグル族に絡む事件が起きている。
これは、人口の9割を占める漢族主体の共産党政権が、少数民族政策に失敗したことを意味しているのではないか。
犯行グループは「国外組織と連絡をとりつつ我が国の分裂を図る暴力分子」。中国政府は事件のたびに、そう説明する。
中国政府は新疆の経済発展に力を注いでおり、ウイグル族への施策はうまくいっている。事件を起こすのは民意から遊離した連中だ――というわけだ。
確かにウイグル族の間で政治的独立をめざす動きはあった。国外にも組織がある。しかし、だからといって、これほど相次ぐ事件は政治的動機だけでは説明しきれない。むしろ、日常の中でのトラブルから発展する事件のほうが目につく。
例えば昨年夏、同じ新疆の都市ホータンで「武装集団による騒ぎ」とされた事件は、ウイグル族のイスラム教礼拝所が地元当局の圧力で使えなくなったことによる騒動だった。
昨秋の天安門突入事件を起こした一家は、地元政府に何らかの不満があって陳情を繰り返していたと伝えられる。
行政の現場で、当局者とウイグル族住民との信頼関係が壊れているのではないか。そのうえさらにテロ対策の名のもとに、生活や信仰上の習慣をふみにじるようなことになれば、不信感の増大を招くだけだ。
テロと弾圧の応酬では事態の打開はありえない。多民族国家中国の安定にいま必要なのは、力の行使ではなく、融和を導く賢明な政治ではないか。
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