日銀がデフレ脱却に自信を示したことは心強いが、楽観は禁物だ。
政府との連携を一段と強化しなければならない。
日銀は金融政策決定会合を開き、昨年4月に打ち出した「異次元の金融緩和」の維持を決めた。経済成長や物価の先行きを予想する「展望リポート」を発表し、2016年度の見通しも初めて示した。
日銀は昨春、物価上昇率を「2年で2%」とする目標を掲げた。展望リポートは、消費増税の影響を除く物価上昇率について、15年度は1・9%、16年度は2・1%を見込んだ。目標通りデフレを克服するシナリオと言える。
黒田東彦日銀総裁は記者会見で、物価目標の達成へ、「道筋を順調にたどっている」と述べた。強い決意を示すことで、政策効果を高める狙いもあろう。
気がかりなのは、日銀の見立てが甘すぎないかという点だ。
民間調査機関の予測する15年度の物価上昇率は平均1%と、日銀予想の半分にとどまる。さらに7割超の調査機関が、今年8月までの追加緩和策を予想している。
日銀の決定会合メンバーのうち3人が、目標の達成時期などで展望リポートの表現に反対論を述べた点も注目される。
こうした厳しい見方の背景には景気の先行き不透明感がある。
消費税率が5%から8%に上がって1か月がたち、家計の負担は増している。消費心理が冷え、増税分を除く実質的な物価が押し下げられる懸念は拭えない。
これまでの物価上昇は、円安を背景とした輸入原材料の高騰や、原子力発電所の停止に伴う電気料金値上げなど、景気の足を引っ張る「悪い物価高」の面が強い。大きな不安材料だ。
日銀は政策効果をしっかり点検し、必要ならば、適切な追加策を講じるべきである。
ただし、追加緩和の期待が高まると、市場は過剰反応しがちだ。日銀は丁寧に情報発信し、混乱の回避に努めてもらいたい。
むろん、日銀の金融政策だけでデフレの完治は望めまい。政府が実効性のある成長戦略を推進し、民間主導の持続的な成長を実現することが不可欠となる。
肝心なのは大胆な規制緩和などで、民間が新たなビジネスに挑戦しやすい環境を整えることだ。
価格が割高でも消費者が買いたくなる製品やサービスを生み出すイノベーション(技術革新)の加速が、デフレを退治できるかどうかの重要なカギを握る。
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