日銀物価見通し デフレ脱却へ楽観は禁物だ

毎日新聞 2014年05月01日

日銀の物価予測 金利上昇の反動が怖い

日銀が2016年度までの物価と経済成長率の見通しを発表した。「2年で物価上昇率2%」を目標に掲げる黒田日銀にとって、大規模量的緩和から1年たった今回の見通しは、いわば中間試験のようなものだ。

それによると、注目の予想物価上昇率は消費増税分を除き、14年度1.3%、15年度1.9%、16年度2.1%となった。15年度に予定通り目標を達成し、その後も好成績を維持できそう、という見通しだ。黒田東彦総裁は記者会見で「全体として着実に(目標への)道筋をたどっている」と順調さをアピールした。

果たして先行きは楽観できるのだろうか。

表面上はまだ問題となっていなくても、この先大きなリスクとして浮上しそうな問題があることを忘れてはならない。長期金利の急上昇(国債価格の急落)である。

長期金利は企業が設備投資のために借りるお金や個人の住宅ローンの金利などに影響する。その代表選手である10年物国債の利回りを見ると、一時的な変動はあったものの、年0・6%台で推移しており、日銀が今の大規模量的緩和を始める前からほとんど変わっていない。

国債市場の参加者が、日銀のように「約2年で2%の物価上昇率達成」と信じていたら、長期金利はもっと上昇するのが自然だ。それが、世界的にも異常に低い水準のままほとんど動いていない。しかも、物価の先行きだけでなく、実際の数字(生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比)が、この1年でマイナスの領域からプラス1.3%まで上昇したというのに、である。

これは、この先何かのきっかけで、市場の歯車が逆回転し始めた時の反動の大きさを示している。市場参加者が物価上昇を信じ始めたり、日銀が量的緩和の縮小に向けた動きをにおわせたりするだけで、状況が激変しかねないということだ。

行き過ぎた金利水準の正常化とはいえ、日本の場合、あまりにも大量の国債を銀行や保険会社などが保有している。金利の急上昇は、損失の拡大を抑えるための国債売却を招き、金利の上昇に拍車をかける恐れがある。

市場の歯車が逆回転を始めた時、何より心配なのが、国の利払い負担だ。超低金利の今でさえ年間約10兆円もの規模である。金利上昇で利子負担が急増すれば財政への不安からさらに金利が高騰する危険がある。

日銀はこの先、こうしたリスクと向き合わねばならない。極めて難しい問題だが、政府こそ当事者であることを忘れてはならない。リスクの源である巨額の借金にどう対処するかがますます問われるのである。

読売新聞 2014年05月01日

日銀物価見通し デフレ脱却へ楽観は禁物だ

日銀がデフレ脱却に自信を示したことは心強いが、楽観は禁物だ。

政府との連携を一段と強化しなければならない。

日銀は金融政策決定会合を開き、昨年4月に打ち出した「異次元の金融緩和」の維持を決めた。経済成長や物価の先行きを予想する「展望リポート」を発表し、2016年度の見通しも初めて示した。

日銀は昨春、物価上昇率を「2年で2%」とする目標を掲げた。展望リポートは、消費増税の影響を除く物価上昇率について、15年度は1・9%、16年度は2・1%を見込んだ。目標通りデフレを克服するシナリオと言える。

黒田東彦日銀総裁は記者会見で、物価目標の達成へ、「道筋を順調にたどっている」と述べた。強い決意を示すことで、政策効果を高める狙いもあろう。

気がかりなのは、日銀の見立てが甘すぎないかという点だ。

民間調査機関の予測する15年度の物価上昇率は平均1%と、日銀予想の半分にとどまる。さらに7割超の調査機関が、今年8月までの追加緩和策を予想している。

日銀の決定会合メンバーのうち3人が、目標の達成時期などで展望リポートの表現に反対論を述べた点も注目される。

こうした厳しい見方の背景には景気の先行き不透明感がある。

消費税率が5%から8%に上がって1か月がたち、家計の負担は増している。消費心理が冷え、増税分を除く実質的な物価が押し下げられる懸念は拭えない。

これまでの物価上昇は、円安を背景とした輸入原材料の高騰や、原子力発電所の停止に伴う電気料金値上げなど、景気の足を引っ張る「悪い物価高」の面が強い。大きな不安材料だ。

日銀は政策効果をしっかり点検し、必要ならば、適切な追加策を講じるべきである。

ただし、追加緩和の期待が高まると、市場は過剰反応しがちだ。日銀は丁寧に情報発信し、混乱の回避に努めてもらいたい。

むろん、日銀の金融政策だけでデフレの完治は望めまい。政府が実効性のある成長戦略を推進し、民間主導の持続的な成長を実現することが不可欠となる。

肝心なのは大胆な規制緩和などで、民間が新たなビジネスに挑戦しやすい環境を整えることだ。

価格が割高でも消費者が買いたくなる製品やサービスを生み出すイノベーション(技術革新)の加速が、デフレを退治できるかどうかの重要なカギを握る。

産経新聞 2014年05月05日

日銀の物価見通し 過信せず好循環を確実に

日銀が、2%の物価上昇率目標を平成27年度ごろに達成できるという見通しを公表した。消費税増税に伴う景気減速は一時的なもので、今後も経済成長が続くという判断に基づいている。従来の想定を維持する強気の姿勢である。

シナリオ通りに進むなら、日本経済を萎縮させてきたデフレからの脱却も視野に入ろう。ただ、その前提が、経済の好循環実現であることを忘れてはならない。

物価上昇を吸収できるだけの所得増加を果たし、さらなる消費拡大や企業収益向上につなげる。そんな道筋を確実にたどれるよう政府・日銀と民間が一体となって経済再生に全力を挙げてほしい。

生鮮食品を除いた3月の全国消費者物価指数は前年同月比1・3%上昇だった。4月以降は消費税増税の転嫁分が加わったが、それを除いた実質的な物価水準はあまり変わっていないようだ。

日銀が経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示したのは、増税の影響を除いた物価水準が当面は1%台前半で推移し、今年度後半から再び上昇して2%へと向かうシナリオである。

これまでは円安に伴う輸入価格の上昇が物価を押し上げる大きな要因だった。今後は、景気回復に伴う需要拡大などを背景に雇用・所得環境が改善し、「良い物価上昇」へと着実に転換していくという見立てだ。

ただし、これを懐疑的にみる声が多いことには注意が必要だ。もっぱら1%前後が続くとみる民間との差は歴然で、日銀の審議委員の中からも異論が出ている。

黒田東彦総裁が「必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく調整する」と語り、2%目標の達成が難しくなれば、追加緩和に踏み切る可能性を示しているのは当然である。日銀は自らの予想を過信せず、経済情勢の変化を適切に見極めてほしい。

気になるのは、物価が上昇している割には、成長率があまり伸びてこないことだ。日銀の展望リポートでは、強気の物価見通しとは裏腹に25、26年度の実質経済成長率予想を下方修正した。想定よりも輸出が伸び悩んだためだ。

経済再生のために金融政策でできることには限りがある。規制緩和や税制改革を柱とする政府の成長戦略で、民需主導の力強い経済を取り戻すことこそが本筋であることは、言うまでもない。

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