取り調べ可視化 対象事件の範囲をどう絞るか

毎日新聞 2014年05月01日

取り調べ可視化 「全ての事件」が基本だ

取り調べの録音・録画(可視化)を検討している法制審議会の部会で、法務省による試案が示された。

対象として決めた事件について、逮捕・勾留された容疑者の警察や検察における取り調べの原則全過程の可視化を法律で義務づける内容だ。

部会では、捜査当局を代表する委員を中心に、可視化の範囲は捜査側の裁量に任せるべきだといった意見がこれまで出ていた。だが、取り調べ過程の一部可視化では、捜査側に都合のいい供述だけが切り取られる懸念が残ることは、過去のえん罪事件から明らかだ。「最初から最後まで」の可視化は当然だ。

ただし、可視化の対象事件については、▽A案=裁判員裁判で審理される事件に限る▽B案=裁判員裁判対象事件と、それ以外の全ての身柄拘束事件の検察官取り調べ−−の2案が併記された。自白の任意性・信用性の争いは、裁判員裁判対象事件や身柄拘束事件に限らない。全ての事件の可視化を念頭に議論を進め、法整備をすべきだ。

大阪地検特捜部が摘発した郵便不正事件では、無罪が確定した厚生労働省局長の村木厚子さん(現事務次官)が逮捕・起訴された。村木さんの関与を認めた部下らの捜査段階の供述は法廷で誘導と認定された。郵便不正事件に限らず、密室での長時間の取り調べが自白の誘導・強要を招き、いかに多くのえん罪を生んだか。足利事件など近年も例外ではない。

可視化されれば、不適切な取り調べが抑止され、裁判で自白調書の任意性・信用性をめぐって長期間争うことも減るだろう。欧米の多くの国で可視化の法整備が進んでいることも踏まえ、3年前に部会が設置された。村木さんや、痴漢えん罪映画「それでもボクはやってない」監督の周防正行さんが委員に入ったのは、「国民の健全な社会常識」に沿った制度を目指したためだった。

だが、警察や検察出身の委員は「容疑者が話さなくなる」「結果的に真相解明が遠のき、治安が悪化する」「コストがかさむ」といった理由で可視化の対象事件を広げることに反対してきた。30日の部会でも「試案は困難」「B案は困難」などと述べた。一部の法学者からも「検察だけに可視化を重くするB案は法的整合性がとれない」との意見が出た。

議論が集約されるのか危惧を覚える。既に警察・検察では可視化の試行が進んでおり、真相解明への弊害といった理屈が説得力を持つとは思えない。コスト面など理由があれば、まず検察から段階的に可視化を進めるべきだとの意見書を村木さんら法曹界以外の委員が連名で出した。それも一つの考えだ。国民の声に広く耳を傾けてもらいたい。

読売新聞 2014年05月01日

取り調べ可視化 対象事件の範囲をどう絞るか

冤罪えんざいを防ぐために、取り調べの録音・録画(可視化)をどう進めるか。

真相を解明する捜査力の維持にも目配りした制度設計が求められる。

一連の検察不祥事を契機に、取り調べの可視化の法制化を検討してきた法制審議会の部会で、法務省が試案を示した。今後の議論のたたき台になる。

試案の柱は、供述調書を裁判で証拠として使う場合には、取り調べの全過程を録音・録画しておかねばならないとした点だ。

取り調べの映像は、捜査官による供述の強要や誘導がなかったかどうか、公判で裁判官や裁判員が判断する有力な材料となろう。

録音・録画に対しては、容疑者が、カメラを意識して真相を語らなかったり、所属する組織からの報復を恐れて供述を渋ったりする事態が懸念されている。

試案が、容疑者本人が録音・録画を拒んだ場合や暴力団犯罪を例外としたのは妥当である。

今後の焦点は、可視化の対象とする事件の範囲だ。試案は二つの選択肢を示した。裁判員裁判対象事件に限定する案と、警察の取り調べは裁判員裁判対象事件、検察の場合は容疑者が逮捕された全事件を対象にする案である。

裁判員裁判で審理されるのは全事件の3%で、可視化の対象としては少なすぎるとの指摘がある。一方で、全事件を対象にした場合、検察は対処できるのか、疑問が残る。現実的な議論が必要だ。

試案に捜査手法の拡充が盛り込まれたことは注目される。

一つが欧米で普及している司法取引の導入だ。容疑者が共犯者の情報を提供すれば、本人の起訴を見送る。そうした合意を、検察と弁護側が交わす仕組みである。

密室で謀議が行われる汚職などの犯罪で、捜査協力を得やすくする効果が期待できよう。導入する場合には、容疑者が自らの刑事責任を軽くしてもらうために、無関係な人を事件に巻き込む危険性にも留意することが大切だ。

薬物や銃器などの犯罪捜査に限られている通信傍受を、組織的な窃盗や詐欺などの捜査に拡大する方向性も示された。犯行が悪質、巧妙化する現状を考えれば、必要な措置と言えよう。

試案が、検察に対し、公判前に保管証拠の一覧表の提示を義務づけたのは、被告の防御権を保障する観点から評価できる。

公金を使って集めた証拠は、検察の独占物ではない。被告に有利な証拠も含めて開示し、事件の真相解明に役立てるべきだ。

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