毎日新聞 2014年04月30日
オバマ歴訪終了 期待に応える実行力を
米大統領の存在感を久々に示した旅ではなかったか。アジア4カ国を歴訪したオバマ大統領は最後の訪問地フィリピンで、同国への米軍派遣を拡大できる米比軍事協定を新たに結んだ。東シナ海の尖閣諸島は日米安保の対象に含まれると言明したのに続き、南シナ海でも中国をけん制する姿勢を明確にしたわけだ。
フィリピンは1990年代まで米国のアジア戦略の重要拠点だった。しかしベトナム戦争などを通じて米軍駐留への反発が強まり、噴火で米軍基地が被害を受けたこともあって、米軍は92年までに撤退した。
その背景には冷戦終結に伴う緊張緩和があった。そして今回、米軍をフィリピンに呼び戻した要因は、中国の台頭や海洋進出に伴う新たな緊張状態である。アジア重視、リバランス(再均衡)を掲げるオバマ政権は対中関係に配慮する一方で、中国の力に対抗する具体的な措置や枠組みを明示する必要に迫られた。
米比協定の眼目は10年の期限を設けて米軍部隊をフィリピンに定期派遣し、基地を共同使用することだ。同国内の米軍が90年代の規模に戻るわけではないが、22年ぶりの「回帰」が米軍の機動性を高めるのは間違いない。オーストラリアへの米軍配備も含めてアジアの平和と安定につながるよう期待したい。
中国や台湾、フィリピン、ベトナムなどに囲まれた南シナ海では複数の国が領有権争いを続けてきた。米軍のフィリピン撤退が南シナ海に力の空白を生み、中国の進出を促したのは確かだろう。ほぼ全域の領有を主張する中国とフィリピン、ベトナムとの摩擦が特に強まり、今後とも衝突が懸念される状況だ。
こうした時期に米軍が「重し」となって話し合いの機運が高まるなら意義深い。オバマ大統領はアキノ比大統領との共同会見や演説を通じて、紛争を平和的に解決する必要性を強調した。だが、平和的解決のためには米国の関与と抑止力を必要とするのが現実だ。ロシアへの対応も含めて消極的な印象があった米外交の転換点となるのか注目したい。
今回の大統領歴訪について「リップサービス先行」との見方があるのも確かである。韓国では核実験の動きを見せる北朝鮮に強く警告し、従軍慰安婦は重大な人権侵害だと表明して朴槿恵(パク・クネ)政権を喜ばせた。マレーシア訪問は現職の米大統領としては66年から約半世紀ぶりである。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の進展状況はともかくオバマ大統領の求心力は強まり、秋の中間選挙への追い風にもなりそうだ。今後は「米国は太平洋国家」の宣言が看板倒れにならぬよう、実行力で同盟国の期待に応えてほしい。
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読売新聞 2014年04月30日
米のアジア重視 対中牽制に同盟諸国を生かせ
「アジア重視」政策を掲げるオバマ米大統領が同盟国との結束を確認した意義は大きい。
オバマ氏が、日本、韓国、マレーシア、フィリピンのアジア4か国への歴訪を終えた。
一方的な現状変更を伴う中国の海洋進出や、北朝鮮の核開発に対し、断固たる姿勢を鮮明にして、アジア太平洋における米国の存在感を示したことは評価できる。
今回の訪問で注目されるのは、南シナ海での領有権を巡り中国と対立するフィリピンにおける、米軍再駐留に道を開く軍事協定に、米比両国が調印したことだ。
協定で、米軍はフィリピン軍基地の使用を認められる。常駐ではないが、部隊の巡回派遣や戦闘機、艦船の配備も可能となる。
米軍はかつてフィリピンを戦略拠点としていたが、冷戦終結後、フィリピンに駐留延長を拒まれ、1992年までに撤収した。
その後、フィリピンが領有権を主張する環礁に支配を拡大するなど、力の空白を埋めるように、南シナ海での勢力増強に乗り出してきたのが、中国だ。最近も、外国漁船に操業の許可申請を義務付けて、一段と緊張を高めている。
協定は、南シナ海での米軍のプレゼンスを回復する契機となる。共同演習などで、米軍が各国軍と協調を強めれば、中国の活動を牽制する効果を持とう。オバマ氏が、協定で「地域の安定を促進する」と述べたのは、うなずける。
オバマ氏は日米共同声明で、東シナ海の尖閣諸島が日米安保条約の適用対象だと確認した。米比協定によって、南シナ海でも中国の覇権主義的な行動は許さないとの意思を表明したことは重要だ。
一方、オバマ氏は、韓国の朴槿恵大統領と、核開発を進める北朝鮮による「挑発を阻止する」ための協力強化で合意した。さらに、在韓米軍基地での演説では、「同盟国を守るためなら軍事力行使もためらわない」と断言した。
具体的措置として、有事における米韓連合軍の指揮権限を米軍が当面維持することも認めた。北朝鮮抑止に、米国が今後も責任を持つ姿勢を示したのは、適切だ。
朴大統領は中国への傾斜を強めているが、オバマ氏は韓国紙への書面回答で、「米国との同盟が韓国の安全と繁栄の基盤だ」と述べた。日米韓の連携を重視するよう韓国にくぎを刺したと言える。
アジア太平洋の緊張は今後も継続するだろう。米国と同盟国が協力して、具体的な行動を積み重ねていくことが求められる。
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産経新聞 2014年04月29日
米比軍事協定 両国と安保連携を深めよ
米軍をフィリピンに定期的に派遣することをうたう防衛協力強化の協定に両国政府が調印した。オバマ米大統領の訪問時という象徴的な意味合いも含め歓迎したい。
この軍事協定により、フィリピン周辺の南シナ海へも激しい進出攻勢をかける中国に対する抑止力が強化される。
菅義偉官房長官は協定調印について、「航行の自由を含む海洋秩序の安定に向け、さまざまな形で協力していきたい」と述べた。
日本は政府開発援助(ODA)で巡視艇10隻をフィリピンに供与することを決めている。協定を機に日本も対比支援を一段と強め、日米、米比同盟関係を軸に3カ国の連携を深めてもらいたい。
協定は当面10年を期限とし、更新可能だ。米軍の定期的派遣は実質的な再駐留といっていい。
協定はこのほか、比国内の軍事施設の共同使用も明記した。中国艦船の動きが活発な海域に近いルソン島の旧米海軍スービック基地などを対象とし、高性能レーダーや偵察機が配備されるという。
米比両国は相互防衛条約で結ばれている。だが、冷戦終結と反米感情の高まりを受け、駐留米軍は1992年にフィリピンから完全撤退し、その力の空白に乗じて中国が周辺海域に出てきた。
ルソン島沖のスカボロー礁はすでに、中国海軍の事実上の支配下に落ち、フィリピン側が国際海洋裁判所に提訴している。
スプラトリー(南沙)諸島東のセカンド・トーマス礁では、比軍兵が座礁船に籠城し領有権の孤塁を守っているのに対し、中国公船は物資補給の妨害に出ている。
中国が力による現状変更を試みているという点で、尖閣諸島をめぐる構図と変わらない。違うのはフィリピンの場合、装備、兵力面で中国に圧倒的に劣ることだ。
そのフィリピンを今回の協定などで強力に支えていくのは、米国の同盟国としての責務である。
中国をにらみ外交・安全保障の比重をアジア太平洋に移すというオバマ政権の政策は、日本や東南アジアで疑問符が付いてきた。ロシアによるクリミア併合が、そうした不安に拍車をかけていた。
オバマ大統領は日本で尖閣防衛を明言したのに続き、フィリピンで軍事協定に調印し、懸念の払拭に努めた。今回のアジア歴訪を、地域に一定の安心感を与える旅になったと評価したい。
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